生物多様性条約第15条第4項には「取得の機会を提供する場合には、相互に合意する条件で、かつ、この条の規定に従ってこれを提供する。」と定められており、提供国の遺伝資源にアクセスする場合「相互に合意する条件(MAT)」に従った契約を当事者間で結ぶことが必要である。更に、第15条第7項には、遺伝資源利用の成果を当事者間で利益配分する際にも「相互に合意する条件(MAT)」に従った契約が必要である。したがって、「相互に合意する条件(MAT)」に従った契約は、アクセスと利益配分に関する当事者間の合意が含まれていなければならない。
MATは当事者間の自由意思による契約が基本である。契約内容は当事者間で決めることができるし、相互に合意すればどのような条件であっても問題ないはずである。しかし、生物多様性条約の基本原則である「公正で衡平な利益配分」の精神に反するような契約を結ぶことは社会的責任から誠実な態度とはいえない。提供国は大抵低開発国あるいは開発途上国であるため、先進国で発達した契約概念に不慣れである。したがって、「公正で衡平な利益配分」を実行するためには、一方の当事者である利用者がその意味を正確に理解し、誠実に交渉を行う必要がある。
本書は、利用者である研究者が契約の概念と実際を正しく理解し、実践できるようにしたものである。具体的には、実際の契約の原文を集め、分類している。現実の契約の各条項の考え方、基本を理解し、実際の研究計画の場合に必要な条項を選ぶことができるようにした。一つの契約ではすべての研究計画を網羅することはできず、それぞれの異なった想定事態に対応して、多くの契約見本から最適な条項を選択できるようにした。
学術研究ABSツールキット IV-A 遺伝資源利用研究のためのアクセスと利益配分契約見本 |