2015 年 9 月 28 日(月)から2015 年 10 月 9 日(金)まで
概要
目的
調査スケジュール
結果
Dr. Peter Mason, Ph.D.
Ms. Nashina Shariff
Dr. Mark S. Graham, Ph.D.
Dr. Alex Borisenko, Ph.D.
Ms. Kathryn (Kate) Davis
Mr. Timothy Hodges
Dr. Eve Heafey, JD
Mr. Frederic Perron-Welch
Dr. Alain Cuerrier, Ph.D.
Dr. Junko Shimura, Ph.D.
Ms. Valerie Normand
Mr. Atsuhiro Yoshinaka
Prof. Chidi Oguamanam, Ph.D.
Mr. Saburo Takeda,
Ms. Katlyn Scholl
米国国立科学財団の生物多様性条約関連の取り組み
考察
参考資料
カナダ連邦政府と州政府との権限分配
カナダ政府の遺伝資源へのアクセスと利益配分に関する仕組みの現状と今後 の検討
カナダにおけるアクセスと利益配分制度の開発と将来
カナダ生物多様性条約関連法
連邦政府 野生動植物保護及び国際国内移動規制法 W-8.5
ノースウエスト準州 科学者法 S.N.W.T. 2014,c.10,s.22.
ユーコン準州 研究探索法 rsy-2002-c-200-part-1
ヌナプト準州 Nunavut Act 法(N-28.6)
1. カナダにおけるアクセスと利益配分に関する考え方の基本は、十分確立され た既存法(土地所有権など)を遵守することであり、問題が起きた場合司法 によって解決することである。これ以上の法制度は、問題が社会的に解決で きなくなったときである。
2. カナダの名古屋議定書国内措置に関する活動は 2015 年 9 月現在低調である。これは 2015 年 10 月 19 日の総選挙の影響(政権交代)によるものと言われ ている。経済を優先した政策により、環境政策、その中でもカナダ経済に影 響を与えると考えているアクセスと利益配分に関しては優先順位が低い。
3. カナダの行政機構も国内措置実施には障害となる。連邦政府、地方政府、準 州政府では権限が異なり、その関係は複雑である。カナダ全土の環境政策は 連邦政府の権限であるが、地方政府、準州政府の既得権益を守るということ がなければ地方政府、準州政府との合意を得られない。
4. 先住民の権限は憲法により守られているが、実際は分離政策が優先している。 先住民の意見よりも経済政策を優先する傾向がある。伝統的知識も広く国民 の間で理解・共有する傾向はなく、先住民の伝統的知識はごく一部でしか理 解されておらず、保護するという機運は国民の間では少ない。
5. 名古屋議定書には遺伝資源利用を促進する規定がない。すべて利用者が自己 責任で自主的に遵守することになっている。国内措置でこの遵守規定を具体 化しなければならないが、政府は創造的遵守の確立を利用者の自主的行動に 任せ、遵守状況の監視のみ強化する方向にある。これでは遺伝資源の利用は 促進されないという考え方が実際の研究コミュニティから出されている。
6. 学術機関での取り組みも遅れている。一部の機関を除き、研究機関、大学等 への普及啓発が進んでいない。利用者は、現在利用している素材移転契約
(MTA)が十分機能しており、変更の必要性を感じていないことと、政府 の政策が明確になるのを待っているからである。
7. ただし、提供者側のアクセスと利益配分に対する取組が進んでいる以上、利 用する側として対応する制度が必要であるという認識は持っている。そのた め、アクセスと利益配分に関する専門家による普及啓発活動が最も重要な活 動であると考えている。
8. 普及啓発活動でいま求められているのは、ツールキットの開発である。実践 する場面での具体的な考え方、行動を明確に示したものが必要である。日本 の ABS 学術対策チームの行っているツールキットは、今までにないユニー クなものであり、利用者が実践する場合に大変有用であるばかりでなく、提 供者側でも必要であるという評価を得た。
9. カナダ民間団体でアクセスと利益配分に積極的に取り組んでいるのは、 CISDL1、ABSCanada2、POLIS Project on Ecological Governance3である。 それぞれ特徴を生かしたユニークな取り組みであるが、いずれも利害関係者 への普及啓発と利害対立の融和に力を入れている。事例を積み重ねるボトム アップ形式でベストプラクティスを目指している。
10. 生物多様性条約及び名古屋議定書に批准していない米国でも、研究機関の自 主的なアクセスと利益配分の遵守確立の努力が続いている。国務省に専用の フォーカルポイントを設け質問対応を行っているし、米国国立科学財団でも 注意喚起を行っている。
1 http://www.cisdl.org/.
2 http://www.abs-canada.ca/
3 http://www.polisproject.org/
目的
カナダは生物多様性に富んだ国であると共に利用国として活発な活動を行って いる。憲法によって身分保障された多くの先住民社会があり、伝統的知識の利 用に関して高い意識と優れた制度を持っている。またモントリオールには生物 多様性条約の事務局があり、生物多様性条約に関する研究活動が積極的に行わ れている。
しかし、カナダの名古屋議定書国内措置活動は遅滞している。主な原因は、国 内先住民社会とその活動を保証する既存の法令制度にあると考えられる。この ような状況にあってカナダ政府がどのようにバランスを持って制度設計を行う かは興味がある。
このような状況において、カナダの生物多様性条約関連の法規・制度の変化を 調査し、日本の研究者に伝えることは、当 ABS 学術対策チームとして重要な取 り組みであると考える。カナダの名古屋議定書国内措置における、利用制度と 提供制度の考え方、バランスのとりかた、学術研究への簡易な措置の考え方は、 日本の名古屋議定書国内措置を考えるうえで参考になると考えられる。また、 生物多様性条約事務局の最新の考え方、取り組みを調査することは、今後起こ りうる生物多様性条約の課題に対する意見形成に役立つものと考えられる。
カナダの学術界における名古屋議定書自己遵守規定への対応を調査することに より、日本の学術界の今後を考えるうえで参考になる。カナダにおける自己遵 守の仕組みは、先進的な取り組みを実行している欧州と制度的な連携を図りつ つも、独自な取り組みを行う米国の強い影響力への考慮が必要となる。このよ うなカナダの独自性は、日本の国内措置に関する制度設計に影響力を持つと考 える。
カナダ調査旅行予定表
月日 | 面談者 |
9 月 28 日(月) |
Dr. Peter Mason, Ph.D. Adjunct Research Professor Eastern Cereal and Oilseed Research Centre Agriculture and Agri-Food Canada 960 Carling Ave, Bldg. 21, Central Experimental Farm Ottawa, Ontario K1A 0C6 Tel: 613-759-1908 Fax: 613-759-1926 Email: peter.mason@agr.gc.ca Dr. Brad Fralegh |
9 月 29 日(火) |
Ms. Nashina Shariff Manager Environmental Stewardship Branch Environment Canada (EC) Place Vincent Massey 351 St. Joseph Blvd., 21st floor, room 21051 Gatineau, QC K1A 0H3, Canada TEL: +1 819 420 7896 E-mail: Nashina.Shariff@ec.gc.ca, |
9 月 30 日(水) |
Mark S. Graham, Ph. D. Vice President, Research and Collections Canadian Museum of Nature 240 McLeod Street Ottawa, Ontario K2P 2R1, Canada Tel: 613-566-4743 Fax: 613-364-4022 Email: mgraham@mus-nature.ca Timothy Hodges Kathryn (Kate) Davis |
10 月 1 日(木) |
E Eve Heafey, JD Associate Smart & Biggar/Fetherstonhaugh 55 Metcalfe Street Suite 900 PO Box 2999 Station D Ottawa ON K1P 5Y6 Canada TEL:613.232.2486 FAX:613.232.8440 E-mail:eheafey@smart-biggar.ca |
10 月 2日(金) |
Frederic Perron-Welch Fellow, Biodiversity Law Programme Centre for International Sustainable Development Law(CISDL) Chancellor Day Hall 3644 Peel Street Montreal, Quebec H3A 1W9 TEL: (+ 1) 818-685-9931 E-mail: fperron@cisdl.org Chairman and Founder |
10 月 5 日(月) |
Alain Cuerrier Room C-314 Department of Biological Sciences Biodiversity Centre Institut de recherche en biologie végétale Montreal Botanical Garden 4101 Rue Sherbrooke E Montréal, QC H1X 2B2, Canada TEL: 514.872.3182 E-mail: alain_cuerrier@ville.montreal.qc.ca |
10 月 6 日(火) |
Dr. Junko Shimura Programme Officer, Taxonomy and Invasive Alien Species, Global Taxonomy Initiative Convention on Biological Diversity 413 Saint Jacques Street Suite 800 Montreal , Quebec H2Y 1N9, Canada TEL: +1 514 287 8706 Email: junko.shimura@cbd.int |
10 月 7 日(水) |
Mr. Atsuhiro Yoshinaka Global Coordinator Japan Biodiversity Fund Convention on Biological Diversity 413 Saint Jacques Street Suite 800 Montreal , Quebec H2Y 1N9, Canada TEL: +1 514 287 7054 E-mail: atsuhiro.yoshinaka@cbd.int Mr. Seishu Okuda Ms. Valerie Normand |
10 月 8 日(木) |
Prof. Chidi Oguamanam, Ph.D. Faculty of Law, Common Law Section University of Ottawa 57 Louis Pasteur St. Room 429 Ottawa, Ontario K1N 6N5, Canada TEL: 613-562-5800 ext. 7742 TEL: 613-562-5124 E-mail: Chidi.Oguamanam@uottawa.ca |
10 月 9 日(金) |
Saburo Takeda, S.Takeda & Associates LLC 6 Little Mountain Road, Old Tappan New Jersey, 07675, U.S.A. Tel: 201-664-2184 Fax: 201-664-2185 E-Mail: stakeda@optonline.net Mobile: 781-858-8902 |
Adjunct Research Professor
Eastern Cereal and Oilseed Research Centre Agriculture and Agri-Food Canada
960 Carling Ave, Bldg. 21,
Central Experimental Farm Ottawa, Ontario K1A 0C6 Tel: 613-759-1908
Fax: 613-759-1701
Email: peter.mason@agr.gc.ca
背景:カナダ農務省農業研究センターでバイオコントロールに関する研究者。 現在のテーマは、と節足動物多様性に対する外来侵入種の影響であり、大豆ア ブラムシ類のバイオコントロールである。また、カナダに導入されるバイオコ ントロール農薬の安全性確認を行う。
Dr. Bred Fraleigh Director
Maltilateral Science and Technology Relations International Engagement Division Agriculture and Agri-Food Canada
1341 Baseline Road, Tower 5, 5th Floor Ottawa, Ontario K1A 0C5
Tel: 613-773-1838
Fax: 613-773-1855
Mobile: 613-219-0016
E-mail:Brad.Fraleigh@agr.gc.ca
背景:カナダ農務省の生物多様性条約及び食料農業植物遺伝資源条約対応担当 官。農業関係の国際間科学技術政策の開発に関与している。
時間:午後 2 時 30 分から 5 時 30 分
? カナダの名古屋議定書批准の見通しについて カナダが名古屋議定書を批准するには、多くの問題点を解決しなければならな い。農業分野の問題として農務省から環境省に 36 の疑問点を提出している。最 大の課題は、名古屋議定書の考え方にアクセス促進について具体策が示されて いないことである。
カナダでは、アクセスと利益配分制度についてはすでに実施している現行制度 で十分であり、これ以上にアクセスと利益配分制度を作る必要がない、多くの アクセスと利益配分関連法が実際に十分実施されているとの考えが一般的であ る。例えば、所有権法、種子関連法、知的財産関連法、不法侵入法4などがすで に実施されており、法曹界では非常になじみがあるし、経験も多い。アクセス と利益配分に問題が起こったとしても、政府の関与なしに法曹界で自主的に解 決できる。このような状況で改めてアクセスと利益配分法が必要とは考えてい ない。何のパラダイムシフトも起きていない。
もし、アクセスと利益配分制度を作るとしたら、簡便な方法がベストであると 考える。必要ない法律を作っても複雑になるだけで、だれも従わない。カナダ は利用者の自主性を重んじる国である。
4http://www.bclaws.ca/civix/document/id/complete/statreg/96462_01
? 提供者と利用者の契約交渉に政府が関与すべきではない 交渉は当事者間の問題であり、当事者間で同意すればそれが有効である。現行 の法律はすべてそのようになっている。例えば、バイオコントロール分野では 有効な契約があればそれで十分であると従来から行ってきたし、これを変更す るような理由はないと考える。
契約当時有効であった法律に従っているものは、現在の状況が変わったとして も現在でも有効である。問題が起きれば、契約当事者、それでもだめなら裁判 で解決するのが通常のやりかたであり、裁判で判決がでればだれでも従わなけ ればならない。
? 名古屋議定書の許可証について
名古屋議定書第 14 条 2.c 及び第 17 条 2.5では、ABS クリアリングノウスに報告 する書類として許可証が必要と書かれているが、許可証に同等なもの (equivalent)も含まれると書かれている。この「同等なもの」をカナダでは個別 の有効な契約であり、素材移転、利益配分、許可等を含んでいるものであれば 十分であると考える。PIC と MAT が必要ではなく、それらを含んだ契約書で十 分であるという考えである。たとえば、現在行っている注文書でもよいと考え る。カナダで家畜精子の分譲には許可書を発行しているが、これも同等な書類 である。この許可証ではフリーで分譲し見返りは求めないという決まりになっ ているので利益配分条項はない。
? 証明書 利用国のチェックポイントが報告を受けた証明書類をどのように審査すればよ いのか課題となっている。古い時代の法律のもとで契約した MAT はその時代の 法律に従っているので有効な契約であると考える。法律は時代により変化して いくので、それぞれの時代で契約した書類をそれぞれの時代に有効であるかど うかを、現在調べるのは大変な労力が必要であるし不可能に近い。日本はチェックポイントの審査をどのようにするつもりなのか。チェックポイントが審査 しなければ、不履行かどうかわからないし、不履行への措置もできない。
5 Article 14 THE ACCESS AND BENEFIT-SHARING CLEARING-HOUSE AND INFORMATION-SHARING
2. (c) Permits or their equivalent issued at the time of access as evidence of the decision to grant prior informed consent and of the establishment of mutually agreed terms.
Article 17 MONITORING THE UTILIZATION OF GENETIC RESOURCES
2. A permit or its equivalent issued in accordance with Article 6, paragraph 3 (e) and made available to the Access and Benefit-sharing Clearing-House, shall constitute an internationally recognized certificate of compliance.
名古屋議定書の第 15 条第 1 項6について日本国はどのように考えているのか教 えてほしい。カナダでは、「他の締約国の国内法令又は規則に従う」というのは 不可能に近いと考えている。まず国内法令又は規則を過去から現在まで熟知し ていなければならない。多数の国をいちいち過去から現在、未来までフォロー できない。法令や規則の解釈は考え方によって違うのが常識である。我々の解 釈が正しいのかわからない。したがって、名古屋議定書第 15 条第 1 項を実践し ていくことは困難である。現実の世界はもっと複雑で、条文通りにはいかない。
ABS学術対策チームの行っているクイックリファレンスチャートは、証明書に 関する複雑な現実問題を解決するひとつの手段ではないか?ただし各国の法令 規則を常にアップデートしていくのは少人数では困難である。日本がどのよう にこれを行うのか興味がある。今後もフォローしていきたい。
? 国際的に認められた遵守の証明書(IRCC)
IRCC は疑いのない法的根拠のある遵守証明書のように見える。しかし、これは 提供国からの報告に基づくだけで、だれも正当性をチェックしない仕組みであ る。そうだとするとその法的根拠が希薄になる可能性があると考える。
国際社会、特に科学論文誌で IRCC あるいは PIC/MAT 証明書を論文発表の際に 要求する動きがある。しかし、カナダの学会・科学雑誌では IRCC に関心が低 く、IRCC を遵守証明として求める動きは今のところない。今後、IRCC 制度が 整い、国際社会で習慣がでてくれば変わるかもしれない。現在でもブタベスト 条約によって、微生物は特許のみならず学会発表に登録機関に登録が必要であ り、それがないと発表できない制度があるので、微生物学会ではなじみがある。
公的資金申請に IRCC 添付を求める制度が将来どうなるかわからない。ドイツのドイツ研究振興協会7 (Deutsche Forschungsgemeinschaft: DFG)のような例 が増えるのではないかとも言われている。カナダではカナダ国立研究機関8
(National Research Council of Canada:NRC)が DFG と同等になる。NRC で公的資金申請に遵守証明書の提出を義務化しようとする考えがあったが、そ のようなことは二重の無駄な努力であり研究申請を阻害するものとして現在で は関心が低い。
6 締約国は、自国の管轄内で利用される遺伝資源に関し、取取得の機会及び利益の配分に関する他の締約国 の国内の法令又は規則に従い、事前の情報に基づく同意により取得されており、及び相互に合意する条件 が設定されていることとなるよう、適当で効果的な、かつ、均衡のとれた立法上、行政上又は政策上の措
置をとる。
? 食料農業植物遺伝資源条約(ITPGRFA) カナダ農務省関係で生物多様性条約に関連するのは、植物と菌類が中心であり、 農業産業界と協力して政策を実行している。また害虫コントロールにも力をい れている。
カナダの農業関係では ITPGRFA が十分実際に機能していると考えている。作 物育種のプラクティスでもよく利用されており、問題は発生していない。今後 も作物関係の遺伝資源利用は ITPGRFA を活用していくつもりである。
? 合成生物学、科学技術助言補助機関(SBSTTA) 生物多様性条約の定義により DNA そのものは遺伝資源に入らないと解釈して いる。DNA データベースも情報であり素材ではないので遺伝資源ではない。こ のことは今度開かれる SBSTTA でも主張するつもりである。
合成生物学はバイオテクノロジーの拡大版であり、今後どうなるかわからない。 1980-90 年台のバイオテクノロジー議論のやり直しになると予想する。カナダで は組換え体は物でしか規定していない。日本では方法も規定している。できた ものが自然界と同じならば組換え体としないので、規制しない。
7 http://www.dfg.de/jp/index.jsp
8 http://jacs.jp/dictionary/dictionary-ka/09/19/537/
Manager
Environmental Stewardship Branch Environment Canada (EC)
351 St. Joseph Blvd., 21st floor, room 21051 Gatineau, QC K1A 0H3, Canada
TEL: +1 819 420 7896
E-mail: Nashina.Shariff@ec.gc.ca
時間:2015 年 9 月 29 日午前 11 時から 12 時 30 分
背景:カナダ環境省(EnvironmentCanada)のナショナルフォーカルポイント。 カナダにおけるアクセスと利益配分に関する情報収集と分析を行い、政策決定 を行う。
内容:
? カナダの名古屋議定書批准のための取り組み経過
カナダは名古屋議定書に署名しなかった。現在実行されているカナダ国内アク セスと利益配分制度に名古屋議定書を適用するには難しすぎる。多くの国内関 連法があり調整が困難である。先住民問題の解決、連邦制度で各州、準州の権 力調整が最大の課題である
カナダでは 2006 年ころからアクセスと利益配分制度の国内制度の設立を議論 してきた。その実績と議論内容と名古屋議定書の解釈の仕方がいろいろあり、 ただちに適用できる状況ではない。したがって、カナダではまず名古屋議定書 をどのように解釈し、理解するかが必要であり、現在でもその議論は続いてい る。
2012 年頃名古屋議定書について議論するための“discussion paper”を作成した。 これはカナダ環境省の解釈、アイデアを述べただけのもので、方針を示したも のではない。とりあえず議論のきっかけになるように作っただけである。これ をもとに、連邦政府内の関係省、地方政府の関係者、準州の関係者、先住民団 体、産業界、学術関係者などと議論を重ねている。省庁では主に農務省、保健省、’k産海洋省、先住民及び北部地域開発省、天然資源省などがある。基本的 には現在もこの過程を続けていて、最終結論には至っていない。
? ナダの国内措置の考え方
基本的な考え方は、アクセスと利益配分は簡便な方法で行うべきで、可能な限 り現行制度のマイナーなチェンジで行いたいと考えている。なぜなら、特別な 制度を導入すれば、その影響が他の制度にも及ぶ可能性があり、大規模な改革 が必要になるからである。
他の制度の中には、土地の所有権に関わる制度が大きい。連邦政府が権利を行 使できる土地(Crown Land)は主に国立公園、植物園などであり、Parks Canada が管理機関であり、1970 年の国立公園法によって運営されている。国立公園法 では、遺伝資源採取に関して許可が必要であるが、利益配分についてなんの取 り決めもない。米国の国立公園法とは違う。したがって、カナダの国立公園法 に米国式の利益配分条項を取り入れようという考え方は出されたが、Parks Canada は必要ないと反対している。国立公園内での学術研究を盛んにして、い ろいろ生態系が明らかになったほうがメリットあると考えているからである。
基本的な課題は、アクセスと利益配分制度の導入について連邦政府と地方政府 の役割分担、現在の権限との調整、先住民の現有権限とアクセスと利益配分制 度の調和等である。特に、カナダでは先住民の権利が憲法で保障されており、 土地利用に関しても多くの現行法がある。例えば連邦法でいえば、1876 年の Indian Act9、1999 年の First Land Management Act10などである。土地は連邦 政府が所有しているが利用は先住民に任せている居留地の場合や、先住民が専 有している場合など複雑であり、一概にまとめることはできない。
? 利用者側アクセスと利益配分国内制度
主に、提供者側のアクセスと利益配分制度を考えているが、利用者側の制度も 議論の対象としている。利用者側制度として現行の野生生物保護と移動に関す る法律11の拡大改正のアイデアがある。この法律は、もともとワシントン条約の 考え方に基づいて、外国で不正に入手した希少生物をカナダ国内や州間での移動を禁止したものである。名古屋議定書第 15 条第 1 項では「締約国は、自国の 管轄内で利用される遺伝資源に関し、取得の機会及び利益の配分に関する他の 締約国の国内の法令又は規則に従い」とあるので、外国の法令に違反している 場合にカナダに持ち込めない。この条項を適切に表現しているのはカナダ現行 法の野生生物保護法である。したがって、カナダの現行法を利用するという方 針に立てば、この野生生物保護法が最も適切であると考えている。
9http://laws-lois.justice.gc.ca/eng/acts/I-5/
10http://laws-lois.justice.gc.ca/eng/acts/F-11.8/
11http://laws-lois.justice.gc.ca/eng/acts/w-9/index.html
しかし、野生生物保護法の拡大改正を現在利用者アクセスと利益配分制度にす るというアイデアを提示しているが、関係者の関心は低い。
? カナダの伝統的知識
カナダには先住民集団が 600 程度ある。それぞれ独特の伝統的知識を保有して いる。例えば、イヌイット族は独特の自然環境、気候に対する習慣を持ってお り、それが生物多様性条約の第二の目標である持続的利用に役立っていると認 識されている。伝統的で古い知識であっても、実際に役立っていれば重要なも のと考えられる。したがって、遺伝資源に関連した伝統的知識もあるが、それ 以外のものと区別する考え方は持っていない。先住民団体の力が政治の世界で も強く、その考え方を無視してアクセスと利益配分制度を作るのは困難である。
? ベストプラクティス
なかなかカナダ国家としてのアクセスと利益配分制度を作ることができないの で、現実的なベストプラクティスやベストモデル契約を作成することに関心が 移っている。アクセスと利益配分制度についてより現実的なボトムアップの解 決を図るためである。先住民の伝統医学とケベック州の研究所が協力し糖尿病 薬の研究開発プロジェクトを行っている例がある。先住民の薬草に対する知識 を利用したもので、先住民側と利益配分契約を結んでいる。これらは大変良い 例であると思う。このように、事例を集めてベストプラクティスを創れば、現 実の問題はある程度解決するはずであるし、その積み重ねは良い制度設計につ ながると考えている。
2015 年 11 月に開催される生物多様性条約第 8 条(j)項に関する委員会に向け、 カナダ政府は報告12を提出している。その中で先住民との取り組みを紹介している。
12UNEP/CBD/WG8J/9/INF/1 17 July 2015
アクセスと利益配分学術対策チームの行っているツールキット作成の取り組み は重要で、多くの経験を集積し、共有化できるようにしてほしい。英文化して いただければ大いに参考にさせていただきたい。
Vice President, Research and Collections Canadian Museum of Nature
240 McLeod Street
Ottawa, Ontario K2P 2R1, Canada Tel: 613-566-4743
Fax: 613-364-4022
Email: mgraham@mus-nature.ca
2015 年 9 月 30 日午前 10 時から 12 時まで
背景:カナダ自然博物館13の研究と収集部門の副館長であり、自然博物館の研究 管理を行っている。また、生物多様性条約の一つの具体的活動のひとつである 世界分類イニシャティブ連合機構(GTI)14の議長である。
? 公共資金提供機関のアクセスと利益配分活動
生物資源関係の学術研究のためのカナダ公共資金提供機関には Natural Sciences and Engineering Research Council of Canada (NSERC)15と Genome Canada16の2つありある。後者は主に DNA 研究に資金提供しており、DNA バ ーコード計画を実行している Guelph 大学の Biodiversity Institute of Ontario などに資金提供している。その他に健康関係の研究に対して Canadian Institutes of Health Research (CIHR) 17が資金提供を行っている。
13http://nature.ca/en/research-collections
14https://www.cbd.int/gti/
15http://www.nserc-crsng.gc.ca/index_eng.asp
16http://www.genomecanada.ca/en/
17http://www.cihr-irsc.gc.ca/e/193.html
これらお主たる資金提供機関が遺伝資源へのアクセスと利益配分について何ら
かのガイドラインを出しているあるいはこれから出すという話は聞いていない。 意識が低いことが想像される。このよう資金提供機関の指導がない状況では、 各研究機関がそれぞれ自主的にアクセスと利益配分制度を作らなければならな いと考えている。しかし、研究機関にアクセスと利益配分について知っている 専門家がいるわけでもなく、相談するところもない。ABS 学術対策チームのよ うなところがカナダにも必要ではないかと思う。ABS 学術対策チームの活動情 報をもっと提供してほしい。
? 実際の問題点
相互合意(MAT)に基づく契約に関して、ある提供国から入手した試料につい て、貸し出しの際にもその提供国の許可が必要とする契約を結ぶように 2 か月 前に提供国に要求されたことがある。この条件に同意すれば、博物館の仕事が 膨大なものになるし、現実的に実行可能とは思われない。他の研究機関や博物 館への試料の貸し出しは博物館の定常業務である。これがスムースにいかない ことは博物館として業務が滞ることになり、ひいては分類学の進歩を阻害する。 貸し出しにいちいち提供国の許可を数か月かけてとっていられない。そんなこ とをすれば貸し出し手続きが複雑になり、人手がかかる。大変頭の痛い問題で ある。
分類学での標本の貸し出しは研究者間の相互の信頼関係で行われており、返還 しないなどの問題が起こることは稀である。もし問題が起これば、それ以後の 貸し出しを断るという処置をとることで十分である。この長年の慣習を壊した くないという気持ちを持っている。分類学は完全な学術研究であり、生物多様 性の保全のための必須研究であることを理解してもらいたい。
学術機関の名古屋議定書遵守運動として欧州の分類学施設連合(CETAF)のガ イダンス作成が有名であるが、その中に貸し出しに関する標準素材移転契約に ついて議論中であることを聞いている。そこでは貸し出しは許可制を取り入れ ようとしているが、本博物館では許可制はできないと考える。多数の貸し出し に許可制を導入するだけのヒトリソースがないし、複雑な手続きは研究を遅延 するからである。研究者同士の信頼関係に基づいた現行の制度がよいと考える。
? カナダ国内措置との関係
カナダ自然博物館では、標本の取り扱いに関する原則や素材移転契約をすでに 持っていて、それを運用している。もちろん名古屋議定書の要求事項は含まれ ていないので、今後内部で改定を検討するつもりである。
カナダ連邦政府環境省から、現在実施している原則や素材移転契約を提出する ように求められ、提出した。目的は現在各機関で実行している政策や実施方法 などグッドプラクティスの情報を集積、分析することにある。もしかしたら、 名古屋議定書関連の事項の挿入を提案してくるかもしれないし、全国統一の原 則や実行方法を提案する材料とするのかもしれない。しかし、セクター毎の研 究対象、研究方法が異なるので、統一したやりかたでは、広すぎて各セクター での実行性に欠けるのではないかと考える。
図 1 カナダ自然博物館
Director of International Programs Biodiversity Institute of Ontario University of Guelph
50 Stone Road East
Guelph, ON, Canada, N1G 2W1 Tel: (519) 824-4120 ext. 54834
Fax: (519) 824-5703
E-mail: aborisen@uoguelph.ca http://biodiversity.ca/
メール議論
背景:Guelph 大学のオンタリオ生物多様性研究所の研究者で、専門は動物分類 学。現在、オンタリオ生物多様性研究所が進める国際 DNA バーコードライフ計 画(iBOL)18の国際プログラム担当部長である。
? 国際 DNA バーコードプロジェクトとは
地球上には約 1000 万から 1 億の種が存在するが、いわゆる分類学が解明した種は 200 万種に到達していない。生物の多様性を考えたとき、このままでは地球 上の生物種をすべて解明するには長時間を要することになる。したがって、最 新の科学技術に基づく新たな分類学を創造することが求められている。
カナダの Guelph 大学では 2003 年から新たな種の同定方法を開発している。方 法はゲノムの標準領域の短い DNA 配列を利用する方法で、DNA をバーコード で表現することができる。この DNA バーコードを用いることで、DNA レベルでの種の同定が容易になり、特殊な経験と能力を必要としなくなる。
18 http://www.ibol.org/
2010 年に国際バーコードライフ計画(iBOL)が立ち上がり、研究組織、研究計画、 DNA バーコードのリファレンス研究施設などが設定された。2015 年までに約 50 万種が DNA バーコード化された。
図 2 DNA バーコード化された種の分布図
図 3 メボソムシクイの DNA バーコード
? 国際 DNA バーコードプロジェクトの素材移転契約
DNA バーコードプロジェクトでは、海外の遺伝資源から一部 DNA サンプルを カナダで分析するのが通常業務である。決して全試料を持ち帰るわけではない。
その際に生物素材移転契約(BMTA)を結ぶのが一般的である。通常資源国研 究者との共同研究で起こる典型的なシナリオを含んでおり、資源国研究者が、 自身の研究対象の DNA 配列情報を得るために我々の分析施設を利用する際に 用いている。
本 BMTA は名古屋議定書が作られる前からあったものなので、名古屋議定書を 反映しているわけではない。しかし、本 BMTA がカバーしている範囲は名古屋 議定書の典型利用例を含んでいると考えている。提供国には研究対象の遺伝資 源の大部分が残ることになり、カナダの DNA 配列解析施設は、PCR 解析に必要な最小試料のみを持ち込むだけである。
? DNA 及び DNA データと名古屋議定書
DNA バーコードプロジェクトは生物多様性条約の中で、相互信頼を構築する良 い事例を提供していると考える。この事例は今後名古屋議定書の実行方法を考 えるうえでも重要である。相互の信頼関係を築くことが最重要課題である。
名古屋議定書の解釈を巡り様々な議論があることを承知している。主な議論は DNA 分析および DNA データベースに関する問題についてである。例えば、DNA データベースはだれのものかとか、DNA データベースの利用は遺伝資源の利用 にあたるのかとかいった質問がよく聞かれる。これらの質問は、実際の DNA 研 究を提供国の協力者と実行している研究者にとって深刻な悩みであることは理 解している。これらは名古屋議定書の言葉の解釈に関する問題である。解釈が より広くできるため、提供国の国内措置で問題を起こしていると考える。
問題の解決は大変困難である。多くの国際的な場で議論していくことが必要で ある。生物多様性条約では科学技術助言補助機関(SBSTTA)がこれらの問題 について議論する場であるので、ここで議論して合意をみることが重要である と考える。第 20 回の会合では合成生物学の議論が予定されているので、その時 に専門家の意見を聞くことになる。
ABS Advisor,
Botanic Gardens Conservation International (BGCI) 190 Promrose Ave.
Ottawa ON K1R 7V5, Canada Tel: +1 613297 9010
E-mail: kathrynkdavis1@gmail.com WWW.bgci.org/resources/abs/
2015 年 9 月 30 日午後 4 時から 6 時まで
背景:現在は Botanic Gardens Conservation International(BGCI)のアクセ スと利益配分アドバイザーをしているが、それ以前英国主立植物園 Kew で植物 園の原則、行動規範、ガイドラインなどを作成した実績を持つ。BCGI 活動のみ ならず、多くの提供国、利用国のアクセスと利益配分制度創設の取り組み支援 を行っている。ご主人は Tim Hodges である。
内容:
? 各国研究機関の国内措置事情
米国の国立公園は厳しいアクセスと利益配分契約制度がある。これはかつてイ エローストーン国立公園の温泉から採取した微生物の酵素から PCR 法が発明さ れた経験から、米国国立公園の遺伝資源を利用する場合、内務省が標準素材移 転契約を作成した。この標準素材移転契約には利益配分条項が入れられている。 ちなみにカナダの国立公園にはこのような具体的な契約はない。
DNA バーコード計画活動は生物多様性解明に重要である。ただし、アクセスと利益配分問題が表面化してきており、実行が難しい状況にある。現在、国際生 命バーコードイニシャディブの倫理委員会が対応を検討している。米国は生物 多様性条約加盟国ではないが、アクセスと利益配分-CH にフォーカルポイント19 を登録している。米国国務省の Stephanie Aktipis が担当者であるが、現在アシ スタントの Kathlyn Scholl20が担当しているのみである。主な活動は、米国内外 からのアクセスと利益配分に対する質問に対応している。
名古屋議定書合意後の国際交渉会議の後あたりから、多くの名古屋議定書批准 国から、非批准国のアクセスを拒否するという警告を発していることが多い。 このような警告に対して、遺伝資源を商用あるいはコモディティトレードを実 行している大企業は完全に無視できると思うが、非商用研究セクターにはシビ アーな状況になると考えられる。
? コンサルタント活動
ラテンアメリカプロジェクトとして、ラテンアメリカとカリビアン諸国のアク セスと利益配分プロジェクトに参加した。学術研究でアクセスと利益配分を実 行するためには、名古屋議定書の第 8 条(a)にある簡易な方法を考案することが 重要であるとの認識のもとで本プロジェクトは行われた。どのような方法が最 も効果的な簡易な方法であるかを考えてきた。ラテンアメリカプロジェクトの成果21のまとめは下記の通りである。
19Stephanie W. Aktipis, Ph.D.
Foreign Affairs Officer
Office of Conservation and Water
U.S. Department of State 2201 C St NW Washington, D.C. 20520
E-mail: AktipisS@state.gov
20Katlyn Scholl Foreign Affairs Officer US Department of State
Office of Conservation and Water TEL: 202-647-1245
E-mail: SchollKM@state.gov
21“ACCESS &BENEFIT-SHARINGIN LATIN AMERICA&THE CARIBBEANA science-policy dialogue for academic research”;
http://www.diversitas-international.org/activities/policy/cbd-1/access-and-benefits-sharing-abs.
1.科学と政治の橋渡しの必要性
? 科学者と政府オフィサーは違う世界に住んでいるので、アクセスと利益配分 に対する関心事は異なる。両者の間に橋渡しを作ることで、相互理解を促進 し意思疎通を図ることができる。
2.省庁間共同作業によるアクセスと利益配分戦略フレームワーク
? 全体的、統合的アクセスと利益配分に関する政策フレームワークはアクセス と利益配分課題の分野横断的性格を描き出すために必要なことである。
? 統合的モデル開発は、投資回収が名古屋議定書規定事項に従った確実で効果 的なアクセスと利益配分システムによって生じる利益となる適切な経済手 段の配分に依存する。
? 国内アクセスと利益配分フレームワークに国際協力と利益配分を考慮する ことは、国内活動と国際活動の協働作用をもたらす。
3.啓発と能力開発の必要性
? すべての利害関係者はアクセスと利益配分に関する法規制を遵守する能力 を持つべきである。
? アクセスと利益配分手続きに関与する権威ある当局は、学術研究の目的と仕 組みに関する明確な理解を得るべきである。
? フォーカルポイントはアクセス規制をどのように遵守するかということに ついて研究者にガイダンスを供給すべきである。
4.法令を最適化し簡便な運営を目指す
? 非商用研究と商用研究に対するアクセスと利益配分方法の区別と、研究目的 の変更方法が最も重要な課題である。
? 伝統的知識の保護に対する新たな制度を開発することが必須である。
? 現実に行われている研究実態を考慮して、透明性のある確実で効果的な適用 方法を法制化によって確実なものにする必要がある。これらの法制度には、 許可発行、ex situ 保存遺伝資源へのアクセス、国際間も含むコレクション 間の交換などの課題に対する回答を含んでいなければならない。適用方法は、 関連省庁の役割を均一化することにより効率化しなければならない。
? アクセスに関するツールキットと統一化された素材移転契約を付けたすこ とにより ex situ 遺伝資源へのアクセスと交換の管理を促進することができる。
5.戦略的研究協力
? 生物多様性に関する知識と能力を向上させるために、非常に有益である地域 あるいは国際研究協力を妨害するようなアクセスと利益配分方法であって はならない。
? プロジェクトや契約の交渉が行われるように、能力開発を支持・支援するこ とは重要である。さらに、地域及び国家間の学際的、研究機関間の協力関係 を強化することも重要である。
6.先住民及び地域社会(ILCS)との協力
? 先住民及び地域社会と仕事をするとき、背任行為や学術研究の経済的利益に ついて誤った期待を生じさせることによる信頼の失墜を避けることが必須 である。
? 研究者と先住民及び地域社会が、敬意を払っている伝統的知識の複雑さや原 理を相互に理解することが必要である。
? 先住民及び地域社会で in situ 研究を実行するとき、プロジェクト活動の一 部に先住民及び地域社会を参加させることにより能力開発することができる。
? 伝統的知識を学術出版する時も含め、事前の情報に基づく合意は関連する伝 統的知識保持者の権利を保護することであると理解すべきである。
7.コミュニケーション能力
? 学術研究者は、研究成果の利益を配分する義務があることを認識すべきであ る。
? 学術研究者は、政治家、官僚、私企業に対して非専門用語を用いて配分され た利益の明確な事例を公表すべきである。
? 学術研究者は、適切な用語と形式で意思決定者や利害関係者に対して科学的 な情報を提供できる能力を向上させるべきである。
現在メキシコ植物園プロジェクトを行っている。途中経過を公表する権限はな いので、公表可能になったら知らせる。
? 普及啓発用 Toolkits
遺伝資源の研究者はアクセスと利益配分の具体的方法について知らない場合が 多い。研究者はこのようなことに関心がないからである。このような研究者の 関心をどのようにアクセスと利益配分に関心を向けさせるかが重要な課題であ る。
一方、提供国の研究者もアクセスと利益配分方法についてほとんど知らない。 提供者も利用者も、知らないで勝手な解釈で遺伝資源の移転を行っていてはい つまでたっても名古屋議定書は実行できない。知らないからなにもしなくても よいというわけではない。研究者といえども例外なくその国の法律を守らなく てはならない。そのため、利用者同様に提供者への普及啓発も重要課題である と考える。
普及啓発用に toolkit を利用するのが効率的、効果的である。名古屋議定書も toolkit を奨励している。アクセスと利益配分学術対策チームの toolkit は興味深 い。特に、セクター毎の対応や詳細な説明がされているのがよい。ぜひ英文で 読んでみたいので翻訳してほしい。
同様な試みは、IUCN カナダ委員会の会長である George Greene22が長年行って いる。IUCN ではスイス政府の資金援助の下アクセスと利益配分管理ツールキ ット23を作成している。現在、名古屋議定書に対応したものに改良中である。
分類学会関係では、欧州の分類学施設連合(CETAF)やカナダの国際 DNA バ ーコード計画の倫理委員会が積極的に行っている。情報があれば知らせるし、 日本の学会でも活動があれば知らせてほしい。日本の学会、研究機関の名古屋 議定書遵守対応についてまとめを送付した。
分類学会は、現在実施している行動規範、ガイドライン、政策などを名古屋議 定書の観点から見直すことに焦点を当てている。議論のポイントは下記の通りである。
22https://www.iisd.org/biography/george-greene
23https://www.iisd.org/ABS/
・現行ガイドラインを利用しているか、利用していないとするとその理由はなにか?
・現行ガイドラインはすべての研究ニーズをカバーしているか?
・現行ガイドラインは複雑すぎないか、簡易化できないか?
・現行ガイドラインは名古屋議定書の要求事項を含んでいるか?
・遺伝資源第三者移転の追跡制度や第三者契約はあるか?
・研究目的の変更に対応しているか?
・利益分配を含んでいるか?
学術機関の名古屋議定書対応として、現行行動規範、ガイドラインの見直し、 あるいは新たな確立が必要である。その際の基本事項として下記がある。
1. 現行研究活動に必要な項目を充たすべきである
ポイント:複雑すぎない、厳格すぎない、将来活動への応用
2. 名古屋議定書への対応、国際学会・機関との調和を図る
ポイント:記録保持、追跡可能、利用変更、利益分配
3. ベストプラクティスの普及・啓発を行う
ポイント1:行動規範利用の促進、不利用原因の解決
? 提供国との契約プロセス
英国主立植物園 Kew では、素材移転契約をする場合科学者と法律家のべアで必 ず交渉した。通常の素材移転契約などの交渉は、法律家である China Williams と分類学者である Kathryn Davis が担当で行った。それ以上で広範囲な共同研 究契約をする場合、契約専門の法律家を臨時で雇い交渉した。べアで必要な理 由は、科学的な取り組みを法律の言葉に直さなければならないからである。提 供国との共同研究契約の場合、英国主立植物園 Kew が契約しているコーポレー ト法律家のレビュー、許可を受けていた。組織として社会的責任を取るために 必要なステップであると考えている。
? 分類学レポート
分類学関係のアクセスと利益配分に関して興味深い論文24が発表されているの で、ぜひ読んでほしい。下記に要約をまとめる。
欧州連合は名古屋議定書を批准しているが、米国もカナダも批准していない。 欧州連合加盟国の研究機関は政府から利用者に対する遵守のサポートは受けら れるが、米国やカナダの研究者、研究機関は政府から利用国としての遵守のガ イダンスやサポートを受けることは期待できない。米国は生物多様性条約にも 批准していないので名古屋議定書にサインすらすることができない。バージニ ア大学法学部の Margo Bagley によれば、米国は上院が当面生物多様性条約を批 准することはないという。しかし、米国 Society for the Preservation of Natural History Collections(SPNHC と略)の Andy Bentley によれば、米国が生物多 様性条約に加盟していなくても、米国はその原則を支持していると考えられて いる。
米国の博物館、植物園、保存所の関係者仲間では、いままで経験したことがな い世界に偶然迷い込んだような感覚にあると話し合っている。例えば、Yale Peabody Museum の David Skelly は、「特許にするために研究いているわけで はない。自分達の利用しているのは経済開発のための遺伝資源ではない。」と表 現している。Missouri Botanical Garden の Andrew Wyatt によれば、「我々の 収集した素材を経済的に利用するわけではないし、そのことは契約書に書いて ある。契約で合意していない経済的利用は特別な許可を必要としている」と憤 りを隠さない。このような条件はコレクションから入手したり、コレクション 間の移動をしたりする場合でも同様の素材移転契約を結んでおり、全く経済的 利用は考えていないし、研究者はそれに喜んでサインしている。
24 MYRNA E. WATANABE; “The Nagoya Protocol on Access and Benefit Sharing”, BioScience 65(6): 543?550 (2015), doi:10.1093/biosci/biv056.
Senior Policy Advisor
Strategic Policy
Foreign Affairs, Trade and Development Canada Government of Canada
125 Sussex Drive, Ottawa, ON K1A 0G2 TEL: +1 343 203-2077
FAX: +1 613 995-6576
E-mail: timothy.james.hodges@gmail.com, timothy.hodges@international.gc.ca
2015 年 9 月 30 日午後 3 時から 4 時まで
背景:名古屋議定書作成過程で活躍。カナダ国内でもアクセスと利益配分問題 の中心人物であったが、現在は外務省で国際経済問題、開発途上国援助問題の 交渉担当官。
?国際的専門家グループ創設
名古屋議定書が合意されて 5 年経過したが理想通りの実施状況とはいいがたい。 多くの問題点があるが、なかでも提供国及び利用国での普及啓発が遅れている ことが大きい。政府関係者が判っていても、実際に遺伝資源を提供し、利用す るのは一般人であり、その関係者が正しい認識をしていなければ意味がない。
そこで、名古屋議定書を理解している専門家が国際的なグループを作り、協力 して活動するというアイデアを持っている。その活動目的は2つあり、
1. 提供国及び利用国の実行者の持っている個々の問題について相談を受け、解決に協力する
2. 提供国及び利用国政府関係機関に対して生物多様性条約実践のための戦略 及び政策の提案を行う
具体的には、普及啓発のツールキットの開発を行い、まず提供国の提供者への 普及活動に力を入れる。特に先住民や地域社会への普及プログラムを考案する。 また、遺伝資源の利用促進のためのプロジェクト提案を提供国政府に行ってい る。現在、友人に構想を伝えて参加者を募っているので、参加してほしい。確 かに活動資金が最大の問題である。
?名古屋議定書における学術研究
名古屋議定書をまとめる時問題になったのは、経済界に比べ学術研究者からの 政策への要望が少なかった点である。研究者がどのように考えているのかわか らず、名古屋議定書に反映できなかったのが残念であった。この理由はいくつ かあるが、科学と政治・法律両方に通じた専門家、橋渡しをしてくれる人が少 ないからと思う。やはり学際的な専門家を育成することが必要であると思う。
それでも学術関係の項目として第 8 条 a 項を自分で書いて挿入した。学術研究、 特に分類学研究がなければ生物多様性の持続可能な利用ができないと考え、そ れを停滞させないのが目的である。学術関係者は名古屋議定書第 8 条 a 項を真 剣に考え、実行可能な方法を創設していただきたい。
Associate
Smart & Biggar/Fetherstonhaugh 55 Metcalfe Street Suite 900
PO Box 2999 Station D Ottawa ON K1P 5Y6 Canada TEL:613.232.2486 FAX:613.232.8440
E-mail:eheafey@smart-biggar.ca
EvaHeafey20151001
2015 年 10 月 1 日午前 10 時から 12 時
背景:Smart & Biggar/Fetherstonhaugh 弁護士事務所の知的財産権担当弁護士。Ottawa 大学法学部時代博士論文として海洋遺伝資源のアクセスと利益配分 に関する論文25を 2014 年に発表。
内容:
?海洋遺伝資源と知的財産に関する論文について
国連 Legal Affairs (DOALOS と略)のインターンとして、海洋遺伝資源に対する 知的財産観点の課題について 2010 年に研究した。DOALOS の Charlotte Salpin26 (下記)や国連海洋法条約(UNCLOS と略)担当法務部門から指導は受け、報告書のレビューを受けている。したがって、論文での見解は国連の公式 のものといえる。その後、DOALOS の許可を得て、2014 年に発表した。
25 Heafey, Eve (2014) “Access and Benefit Sharing of Marine Genetic Resources from Areas beyond National Jurisdiction: Intellectual Property–Friend, Not Foe,” Chicago Journal of International Law: Vol. 14: No. 2, Article 5. Available at: http://chicagounbound.uchicago.edu/cjil/vol14/iss2/5
26https://sustainabledevelopment.un.org/index.php?page=view&type=6&nr=1458&menu=1442&templa te=375
Charlotte Salpin Legal Officer
Division for Ocean Affairs and the Law of the Sea Office of Legal Affairs, United Nations
2 United Nations Plaza, DC2-424 New York, NY 10017, USA
Tel.: +1 212-963-1112, Fax: +1 212-963-5847
E-mail: salpin@un.org
Website: http://www.un.org/Depts/los/index.htm
UNCLOS について知的財産権から研究した論文、特に遺伝資源に注目したもの はなかったし、知的財産権に関する問題は UNCLOS で大きくなってきていたの で研究課題として取り上げられた。例えば、Creg Venter が行っている活動が話 題になっており、多くの資源国から無差別なバイオ探索研究に脅威を感じてい るとの意見が国連に寄せられていたからである。また、UNCLOS の国家管轄外 海域(ABNJ)において、海洋遺伝資源のアクセスと利益配分について現在何の 取り決めもない。海底での遺伝資源探索が盛んになってきたため、国際海底機 構(International Seabed Authority27)は遺伝資源の取り扱いについて関心を 示しつつある。
論文では、海洋遺伝資源の取り扱いについて知的財産面から意見が記載されて いる。それによれば、共有保存所設置が最も可能性がある。共有保存所が設置 され、国家管轄権外の海洋遺伝資源の情報やそれ由来の知的財産はそこに収め られ公開される。そうすることにより、人類共有の財産としてのアプローチが 保証され、情報は公開され、保存所は公文書館としての役割を果たしている。 しかし、保存所は知的財産権を完全に維持している。しかし知的財産権はある 一定期間の間は強制的に行使不能にするという公海の自由原則を保持している ということもできる。
また、国家管轄権外の海洋遺伝資源のアクセスと利益配分を規定する有効な方法として共有信託基金制度が取り上げられる。国家管轄権外の海洋遺伝資源の利用 に対して本信託基金へのロイヤリティ支払が義務付けられる。信託基金はこれ を海洋資源保存に利用する。この方法は、知的財産権保護と生物多様性保護を 関係づけることになる。ロイヤリティが極小にすることにより、公海の自由原 則との調和が図ることができる。基金は国際海底機構によって管理されるのが ふさわしい。なぜなら国際海底機構は海底鉱物資源の利用に対する配分を決め る権限を持っているからである。地球環境ファシリティ(GEF)も基金の候補であ る。
27https://www.isa.org.jm/
論文がその後どのように活用されているかはわからない。利益配分についてい くつかの提案をしたが、その後の問い合わせ、議論もいままでになかった。お そらく、UNCLOSの中では優先度が低いのではないかと考える。
?特許出願の出所開示
出所開示についてカナダは反対の立場にあるが、最近どのように変化したかはAIPPIカナダの会長をしていた同僚に聞いてみるのでしばらく待ってほしい。
本特許法律事務所では特に出所開示について何ら取り組みを行っていない。米 国と違い海外の遺伝資源を利用した特許出願が少ないからであると考える。し かし、米国出願者のヨーロッパへの出願も取り扱うので何らかの仕組みがある かもしれない。
?伝統的知識と商標
伝統的知識、例えば先住民の用いている言葉を商標として登録するということ はカナダでは少ないと思う。カナダ商標法の第 9 部には伝統的知識に関する規 定はない。商標法では一般的に流通している言葉を商標にすることは誤解を招 く恐れがあるため禁止されている。
ブリティッシュコロンビア州で伝統的名称に関して詐称通用(passing-off)の訴 訟ケース28がある。”Queneesh”は先住民社会(K’ómoks First Nation)では神 聖な伝説の名称であり、商標として用いるのは先住民の権利を軽視しているとして訴えた。しかし、ブリティッシュコロンビア州最高裁判所は訴えを却下し た。理由は、カナダ商標法の適用範囲には先住民の権利は含まれていないとし たからである。先住民の伝統的知識であっても商標化は可能であるとの考えで ある。先住民の伝統的知識は実際の場面で知的財産権より低く扱われているこ とを示している。
28Queneesh Studios Inc. v. Queneesh Developments Inc., 1996 CanLII 2586 (BC SC)
一方、連邦政府内では伝統的知識と知的財産権について議論している論文29,30が でている。今後、カナダで名古屋議定書国内措置を考える上での重要な議論で あると考える。
図 4 Smart & Biggar/Fetherstonhaugh オタワ事務所前
29http://ycppl.info.yorku.ca/files/2012/06/Bell.WorkingPaper.1.pdf.
30http://nativemaps.org/files/Mann.pdf
Fellow,
Biodiversity Law Programme
Centre for International Sustainable Development Law(CISDL) Chancellor Day Hall
3644 Peel Street
Montreal, Quebec H3A 1W9 TEL: (+ 1) 818-685-9931
E-mail: fperron@cisdl.org
Chairman and Founder BIONOMOS Ltd
7140 Albert-Einstein Office 105 Montréal, Québec H4S 2B4 Canada TEL: 514-316-9276
E-mail: contact@bionomos.ca http://www.bionomos.ca
時間:10 月 2 日午後 2 時から 4 時まで
背景:Frederic Perron-Welch は Centre for International Sustainable Development Law (CISDL)31の International Sustainable Biodiversity & Biosafety Law プログラムコーディネーターである。CISDL は、国際的な持続
可能開発法の理解を深め、開発し、実践していくことによって、持続可能な社 会とエコシステムの保護を促進することをミッションとしている。CISDL は独
31 Centre for International Sustainable Development Law(CISDL) Chancellor Day Hall, 3644 Peel, Montreal, QC, H3A 1W9
Tel. +1 514 398 8918 / Fax. +1 514 398 8197 / www.cisdl.org
立の研究機関であるが、McGill 大学法学部と開発途上国の法学部とネットワークを 通じて活動している。CISDL の6つの研究対象法は、貿易および投資と競争、天然 資源、生物多様性とバイオセイフティ、気候変動と脆弱性、持続可能開発における 人権と貧困撲滅、健康と危険物である。さらに、Perron-Welch はカナダ環境法協 会のメンバーでもある。CISDL 以外に東海岸環境法境界、IUCN 環境法センタ ー、アクセスと利益配分能力開発イニシャティブでも関与している。
内容:
? カナダのアクセスと利益配分政策
カナダのアクセスと利益配分は、環境政策 vs.経済政策のバランスによって決ま る。カナダは現在経済の低下に悩んでおり、10 月 19 日の総選挙では経済政策 を優先する声が高い。環境政策、その中でもアクセスと利益配分政策、名古屋 議定書国内措置のプライオリティは低いと思われる。名古屋議定書がカナダに 厄介なコスト問題を持ち込んでおり、国内措置を制度としたくないというのが 政治家の一般的な考えである
Environment Canada(カナダ環境省)の予算低下の中では、現在の環境保護 に予算を集中せざるを得ず、将来の政策であるアクセスと利益配分制度につい ては最低限の活動に抑えられている。国内外の実施情報やベストプラクティス の収集に専念している。それ以上の制度提案などは行えない状況になっている。
経済界の認識として、バイオテク企業が発達しておらず、利益配分は経済的な 重荷になると考えており、名古屋議定書どおりの国内法にされると米国に負け るという反対の声が強い。カナダのバイオテックは米国の影響が大きく、米国 に行けばなんでも自由にできるという考え方がある。一般人は経済か環境かと いわれるとやはり経済を取る。直接自分に降りかかってくるからである。環境 保護は、エクソン バルディー号事件のようなインパクトがないかぎり、あま り気にしていないように見える。
学術界の一般的な名古屋議定書の認識として、知らないか、知っていても余計 なことであると考えている。当然、学会や資金提供機関の認識も低いので、対 策活動はしていないようである。Genome Canada32が DNA バーコード計画に資金援助しているが、あまりアクセスと利益配分に取り組んでいるという話は 聞いたことがない。DNA バーコード計画の標準 MTA がやはり一番進んでいる と思われる。DNA バーコード計画の MTA はすでに Environment Canada に提 出している。
32 http://www.genomecanada.ca/en/
? カナダの伝統的知識
カナダは憲法により先住民社会を尊重しているが、カナダは移民の国であり、 欧州からの移民が政治を支配している。先住民と欧州移民との融合する政策は なく、先住民を見て見ないふりをする傾向がある。政治の世界で先住民の声が とりあげられることはなく、政治の世界では忘れられているという印象を受け る。これ以上先住民に権利を与えるという考えは政治の世界にはない。したが って、名古屋議定書の先住民に関する部分に対して関心は薄い。
先住民の伝統的知識を利用する世間の傾向はない。先住民の知識より欧州の知 識が勝っていると考えているからである。先住民の薬草を使う例はあるが、あ くまで健康食品、サプリメントであり、医薬品とは認められていないし、逆に 先住民の伝統的知識とも認めていない。中国伝統医学の方が普及している。 Health Canada(厚生省)が伝統医薬を医薬品として認めていない。したがっ て、先住民の伝統医学を研究する大学もほとんどない。あくまで分類学、民俗 学的な研究が中心であり、積極的に薬草や伝統医学のデータベースを作るとい 動きはない。
伝統的知識はバプリックのものであるので、知的財産権で保護するという考え 方はない。知的財産制度は西洋社会で発展した考え方なので、伝統的知識とは 相いれないと考える。そうかっといってインドのような伝統的知識を新たな権 利として認める動きもない。新たな権利を先住民に与えることは必要ないと考 えている。連邦政府で先住民を理解し協力し地位向上に努力する政治家はいな い。
ただし、最近先住民の伝統医薬知識とケベック州研究所の協力で伝統的薬草を 医薬品として開発しようという動きがある。ただし、医薬品となったら値段が 高くなり従来の利用者は購入できず、西洋医薬に比較して効目も悪いので誰も 買わないので、成功するかはわからない。
? 提供国の普及啓発活動
このような政治情勢において重要なのは、利用者や一般人にアクセスと利益配 分の重要さを認識させる取り組みを行うことであると考える。正しく認識し、 それに基づいて考え、実行すれば、状況が変わると信じている。いわゆるボト ムアップの取り組みと言える。実績を積み、それを分析し、政治の世界に持っ ていけば、政治家も考えるようになると思う。
研究者は面倒で研究に関係のないことをやりたがらない。研究に集中したがる。 したがって、シニアの研究者にはなかなかアクセスと利益配分のことを理解し、 行動してもらえない傾向がある。若い学生時代からアクセスと利益配分の大切 さを理解させる試みはよいのでないか?若いヒトから変わっていけば、将来変 わっていくのではないかと思う。カナダでは若い人の参加が多い。
提供国への普及啓発活動も重要である。提供国でもアクセスと利益配分を知っ ているのはごく一部の政府役人で、提供国の研究者はほとんど何も知らない場 合が多い。利用国の研究者は直接提供国の研究者とコンタクトし、遺伝資源を 利用している。その場合、両者ともアクセスと利益配分について何も知らない ので、いい加減になり、遵守は困難である。両者ともに普及啓発しなければな らない。利用者のアクセスと利益配分遵守のモチベーションを高める方法とし て科学者としての社会的責任、科学への貢献の重要性を自覚させることである と考えている。
提供者に対してはキャパシティビルディングが重要である。それには教育ツー ルキットを作って、周知徹底を図るのが必要と思う。ツールキットはできるだ け詳しく、事例を示し、シンプルにする必要がある。また、成果が定量的にな るように、何回行い、出席者は何人、出席者のその後のアクセスと利益配分活 動などをフォローし記録することが重要である。
キャパシティビルディングの資金として、UNEPー日本ファンド、GEF、ドイ ツ研究援助などがある。日本では JICA などの資金が使えるのではないか。
アフリカなどでは普及活動が盛んで、多くの提供者がアクセスと利益配分教育 を受けている。ナイジェリアで現在普及活動をしているが、そこではアクセス と利益配分制度のない利用国には利用させないという風潮が広がっている。持 続可能な利用の精神から反する事態である。すぐにはこのような考え方の影響はないかもしれないが、長期的にみると利用する側に障害がでてくると思われ る。米国はプエイトリコが領土であり、熱帯地方のすべての遺伝資源がそろっ ているといわれている。したがって、米国にとって他の国が供給を停止したと しても問題は少ないと思われる。
? その他
初めて IRCC がインドから出されたが、利益配分について秘密になっている。 これでは何の情報も得られない。もっと情報の共有を図るべきである。
Adjunct professor
Department of Biological Sciences Biodiversity Centre
Institut de recherche en biologie végétale
Montreal Botanical Garden 4101 Rue Sherbrooke E Montréal, QC H1X 2B2, Canada TEL: 514.872.3182
E-mail: alain_cuerrier@ville.montreal.qc.ca
時間:2015 年 10 月 5 日午前 10 時から 12 時まで
略歴:モントリオール大学兼モントリオール植物園の伝統生物学、伝統動物学、 伝統植物学准教授。Folk classification、カナダ先住民の薬草研究で、糖尿病治 療や抗酸化作用のある薬草の開発を行う。ヌナバート準州のイヌイット族、ケ ベック州のクリー族の伝統的知識も研究している。
議論:
? モントリオール植物園での ABS 関連規則
カナダでは 2002 年ボン・ガイドラインができたころから、ABS 関連の規則作 成のための話し合いが関連機関の代表者を集めて開始された。その中に植物園 関連の代表者として参加した。この会の目的は、各関連機関でベストプラクテ ィスを作成するために、各機関の経験を話し合った。それまで行ってきた医薬 会社の薬草 10 サンプルを 50-100 ドルで買い取ってそれで終わりというような ことを無くしたいという気持ちが強かった。しかし、現実にベストプラクティ スを求められてもなかなかベストの事例はなかった。結局、常識的な話し合い で新しい進展はなかった。
モントリオール植物園でも何らかの ABS 規則を作るということになり、上記話し合いに代表として出ていたので自分がリードした。その結果、モントリオー ル植物園ではアクセスに関する規則を作成し、小冊子33を発行した。そこでの基 本は「何の契約のない植物は植物園をでるべきでない」ということで、契約を 基本としたものである。
現在モントリオール植物園では、この ABS 規則を基にして名古屋議定書提供者 向けの取り組みを行っている。しかし、カナダ政府は本プロジェクトに資金援 助をしてくれないので、進展していない。First Nations の提供者向けの取り組 みにも資金提供はないので、ボランティアとして行っている。
? カナダ伝統薬用植物の利用
2003 年頃から、伝統的知識を含む薬草の探索研究を行うため先住民 Cree/FirstNations34と交渉した。研究目的は、先住民の用いている薬草とその 薬効について調査するいわゆる民族植物学(先住民利用植物の研究)に関する ことである。交渉にあたって重要な姿勢は「先住民に敬意を払う(respect)」こ とである。これがなければ交渉はできない。
先住民 Cree には Natural Justice という NGO が関与している。交渉する先住 民 Cree のだれと交渉し同意を得るかは National Justice が教えてくれる。 National Justice には専属の弁護士がいる。先住民と研究者が交渉したことを法 律の文書として仕上げていく仕事をしている。研究者側にもモントリオール大 学やマギール大学の弁護士が関与している。
Montreal 大学や McGill 大学の研究者それぞれと先住民 Cree と合意を得たのが 2009 年であった。こんなんに長くかかったのは、研究者側大学弁護士が、契約 案はあまりにも制限が多すぎると主張したためと、先住民側が ABS について明 確な理解が少なかったためである。
契約によれば、もし薬草から新たな化合物を見出した場合でも、先住民が指定 した伝統的知識部分は特許を取ることができない。医薬品会社への情報提供も先住民のレビューが必要である。伝統的知識の情報を含む論文について先住民 の事前の了解を必要とし、しばしば先住民に訂正を要求される。最終論文は再 度先住民の許可を求めなければ発表することができない。
33 http://espacepourlavie.ca/en/managing-plant-collections
34 The First Nations とはカナダ先住民全体のことを言い、個々の部族を示すものではない。カナダ全土 には現在、約 85 万人以上の先住民人口と 634 の First Nations 自治政府や行政機関が存在し、その約半数 はオンタリオ州とブリティッシュコロンビア州にある。
このプロジェクトはカナダで伝統的知識を利用する研究のモデルとして高く評 価されている。カナダ環境省にも事例として報告している。今後この例を中心 に伝統的知識の利用に関する規則ができるのではないかと思う。First Nations からも高く評価され、伝統的知識と生物多様性条約を結び付ける 5 年の経験と 専門知識を尊重してアドバイザーとして雇用するとの申し入れがあったが、研 究に忙しく断っている。
契約が成立したので、薬草探索研究を実施し、その結果はいくつかの論文とし て発表した。糖尿病にターゲットを絞ったのは、先住民 Cree 族は成人 2 型糖尿 病患者が約 20%近くと平均より多いため、その治療を伝統医学で治すためでも ある。抗糖尿病効果についてはカナダ保健省傘下の Canadian Institute of Health Research (CIHR)が先住民糖尿病薬チーム35を組んで研究継続中である が、医薬品とするのは名古屋議定書の利益配分を考えると困難ではないかと考 えている。本研究の結果として、伝統的知識と現代医学の融合した付加価値商 品はノーブティーであり、特殊な販売方法で販売している。
? 民俗植物学関連学会での名古屋議定書対応活動
民俗植物学関連学会で名古屋議定書対応活動の普及啓発をリードしている。名 古屋議定書に書かれていることは不透明であるため、現実の世界で実際の研究 を実行するのに応用しようとすると困難が伴う。特に利益配分は、学術研究の ように非金銭的であっても大変困難である。例えば、どこに利益配分するのが 適切であるのか実際の研究の場面で決めるのは困難である。
現実に詳細な規制が存在しない場合が多いので、実際の当事者間で交渉に任さ れることになる。そこで、利用者である研究者の行動規範、ガイドラインが重 要となる。少なくとも利用者は生物多様性条約や名古屋議定書の原則はりかい していなくてはならない。その上で倫理規範に基づいた判断と行動が求められる。
民俗植物学関連の学会等で、伝統的知識を利用する植物学研究者向けのワーク ショップを開催している。特に若い研究者向けの普及活動が大事と思っている。 例えば International Society of Ethnobiology36では倫理規範を確立している37。 毎年ワークショップを開き自身の経験を話している。伝統的知識保持者の知識 を研究しようとしても、提供者は全く何も知らない場合が多い。その時に研究 者がどのような倫理観を持って提供者と接するかが最も重要である。研究者が 間違えればすべてが間違った結果になるので、最初に研究者が提供者に接する 際の態度が重要となる。
35 http://www.taam-emaad.umontreal.ca/
図 5 民族植物学学会での議論経過
自然健康製品研究協会(NHPRS Canada38:医薬関連の学会、製薬業界、政府 関係者の非政府団体)でも生物多様性条約に基づいた倫理規範を開発している。 これは、伝統医薬品、健康食品など伝統的知識に基づく製品を販売する際のベ ストプラクティスを提供する目的である。倫理規範の課題は、利用者がどのよ うに倫理的に考え行動できるか具体的な基準を示すことである。
提供者への普及啓発活動も行っている。アフリカを中心に活動を行っており、 現在のプロジェクトはウガンダである。そこではガイドラインを創設することを目標としている。提供者側での認識も高まりつつあるが、まだまだ多くの国 ではアクセスと利益配分について認識が低い。
36 http://www.ethnobiology.net/
37 International Society of Ethnobiology (2006). International Society of Ethnobiology Code of Ethics (with 2008 additions). http://ethnobiology.net/code-of-ethics/
38 The Natural Health Product Research Society of Canada is a federally incorporated non-profit organization founded in 2003 by a collaboration of academic, industry, and government researchers from across Canada.
環境持続性統治を研究している POLIS39でも、伝統薬草研究者倫理40の開発を行 っているが、現在は伝統的知識保持者との研究契約モデルの作成のみに注力し ている。POLIS プロジェクトはビクトリア大学環境法政策部が 2000 年に設立 し、国際研究センター41が運営している。現在、ビクトリア大学の Bannister42が 担当している。POLIS の目的は世界の環境持続性を様々な方面から研究し、環 境統治を明らかにすることにある。環境持続の原則にはなにがあり、環境持続 性のために我々はどのように行動すべきか、世界的あるいは地域的レベルで環 境統治をどのように行うかなどのテーマについて考えている。
図 6 モントリオール植物園とカナダ伝統薬草開発品
39 http://www.polisproject.org/about
40 http://www.polisproject.org/node/439
41 http://www.uvic.ca/research/centres/globalstudies/
42 http://polisproject.org/people/roundtable/bannister
Programme Officer, Taxonomy and Invasive Alien Species Global Taxonomy Initiative
CBD Secretaty
TEL: +1 514 287 8706
Email: junko.shimura@cbd.int
内容:
志村純子 20151006
2015 年 10 月 6 日午後 2 時から 4 時まで
? 南アジア、太平洋島興地域の生物多様性活動中心
南アジアや太平洋島興地域には多様性活動をしている CBD チームがある。ここ には多様性専門家がいるし、地域政府とも親しい関係にある。
ここに ABS 学術対策チームの活動情報を送り、日本の学術関係の ABS はまじ めに取り組んでいる、安心してほしい、バイオパイレシーではない、ちゃんと 教育していることを理解させるのに重要である。
これらの活動中心を通じてフォーカルポイントにコンタクトした方が、理解が 早く、プロセスがスムースにいく。公式の機関を通じるより簡単である。その ためには普段からのコンタクトが重要である。
The ASEAN Centre for Biodiversity (ACB)43
43 http://www.aseanbiodiversity.org/
ACB は CBD の指導の下、南アジア地域の生物多様性保全と持続可能な利用に ついて地域あるいは世界の協力関係を促進するアセアン諸国間の専門組織であ る。現在フィリピンの本部があり、所長は Atty. Roberto V. Oliva44であり、GTI 専門官は Dr. Filiberto Pollisco45となっている。
The Pacific Regional Environment Programe (SPREP)
SPREP46活動は、戦略行動計画 2011-2015 に基づいている。目的は、太平洋地 域における環境保護と遺伝資源の持続可能な利用との調和を目指している。加 盟諸国間の協議に基づき、現在4つの目標を定めている。?気候変動、?生物 多様性エコシステム管理、?廃棄物管理と汚染コントロール、?環境監視とガ バナンス
SPREP の本部はサモアにあり、現在 90 人以上のスタッフがいる。現在のメン バーは、米領サモア、オーストラリア、マリアナ諸島連合、クック島、ミクロ ネシア島連合、マーシャル諸島、ナウル、ニューカレドニア、ニュージーラン ド、ニウエ、パラウ、パプアニューギニア、アンモア、ソロモン諸島、トケラ ウ、トンガ、ツバル、英国、米国、バヌアツ、および Wallis and Futuna であ る。事務局長はオーストラリア人の Dr David Sheppard47である。生物多様性 担当オフィサーはサモア人の Ms. Easter Galuvao48で、外来種担当オフィサー はニュージーランド人の Dr. David Moverley49である。
南アジア・島興地域のアクセスと利益配分に対して被害意識が強い。そのため 名古屋議定書に対する期待感が強く、興奮状態であるといえる。その信用を失えば大きな損失を招くことになる。長期的に見て、生物資源の少ない日本の経 済に悪影響を招くようになる。制度のない国は信頼してもらえない。
44rvoliva@aseanbiodiversity.org
45fapollisco@aseanbiodiversity.org
46http://www.sprep.org/index.php
Filiberto A. Pollisco, Jr., Ph.D. Program Development Specialist ASEAN Centre for Biodiversity
3F ERDB Bldg. Forestry Campus, UPLB Los Banos, Laguna, Philippines 4031
Tel No: +63 49 536 3989
Tel/Fax: +63 2 536 2865
47davids@sprep.org
48easterg@sprep.org
49davidm@sprep.org
何とか民間でこれらの地域の信頼を繋ぎ止めるための活動が必要と考えられる。 提供者の国にアクセスと利益配分に関する法律があれば、それに従い、ちゃん とした契約をするのが当然の行為である。契約に従って研究活動を行うことも 当然である。
? 生物多様性条約事務局内のアクセスと利益配分マネージメント
Varelie Norman(法律家)がまとめ役、実際の ABS は Veatris Gomes50が担 当している。Matt Dias51がクリアリングノウスメカニズムのシステム担当で ある。
多くの国からクリアリングノウスのシステムについて売り込みがあったが、結 局声の大きな国、良い多くのサポート、サービスをする国のシステムに落ち着 くのが通例である。システムが選ばれればあとはその国の思い通りになり、他 の国はそれに不満があっても従うしかないという結果になる。ISO の世界標準 と同じシステムである。
クリアリングノウスのシステムについては、名古屋議定書では簡単にしか書い ていないので、これからは知りながら考えていくことになる。この制度がうま くいくかどうかがアクセスと利益配分ができるかどうか、ひいては名古屋議定 書がうまくいくかどうかにかかっている。
50Ms. Beatriz Gómez-Castro Programme Officer
beatriz.gomez@cbd.int
+1 514 287 6686
51Mr. Matthew Dias Information Management Officer
matthew.dias@cbd.int
+1 514 287 6682
Senior Programme Officer, Access and Benefit-Sharing Convention on Biological Diversity
413 Saint Jacques Street Suite 800
Montreal , Quebec H2Y 1N9, Canada TEL: +1 514 287 7033
E-mail: valerie.normand@cbd.int ValerieNormand20151007
2015 年 10 月 7 日午後 3 時から 5 時まで
背景:Valerie Normand は、生物多様性条約事務局で名古屋議定書関連アクセ スと利益配分プログラムのシニアーオフィサーである。アクセスと利益配分に 関する生物多様性条約内の政策を決定している。
内容:
? 普及啓発用ツールキット
利用者特に大学等の研究者への普及啓発は重要である。なぜなら、実際の遺伝 資源利用者の大部分は大学の研究者だからである。研究者に教育科目として教 育しているところはないし、いままで研究者は ABS に関心がなかったが、今後 は必要になるだろう。
CBD 事務局としては、各国の普及啓発活動を援助する目的で、ABS クリアリン グノウスに標準契約書、ガイドライン、行動規範などの情報を積極的に投稿し てもらい、掲載し、普及していく取り組みを行っている。ベストケースも投稿 してもらいたいと考えているが、悪いケースはだれも投稿しないと思う。
事前に送ってくれた英文の ABS 学術対策チームのツールキットは大変よくでき ていると思う。ガイダンスや FAQ などは重要である。ぜひ共有化するために投 稿してもらいたいと考えている。共有化し議論することにより、より高品質のツールキットができると考えている。ツールキットを利用して、研究者への普 及活動を進めてもらいたい。
? 提供側研究者への普及啓発活動
提供者側の研究者もなにもアクセスと利益配分について知らない場合が多い。 提供国政府自身の制度が整っていないこともあるが、普及啓発のできる専門家 がいないことも原因であると考えている。
したがって当然提供国の普及啓発活動の必要性は理解できる。各国それぞれ制 度が少しずつ違う場合が多いので、各国それぞれ個別に行うべきである。提供 国政府内でも専門家が少なく、生物多様性条約事務局はまず提供国政府内の能 力開発に注力しており、提供側の研究者、研究機関の普及啓発まで手が回らな いのが現状である。能力開発資金を提供している国際メカニズムは地球環境フ ァシリティ(Global Environment Facility: GEF52)である。
生物多様性条約事務局では、名古屋議定書批准促進活動から、提供国国内制度 整備促進活動に方針を切り替えつつある。アクセスと利益配分制度制定能力開 発のため、提供国政府機関から事務担当者 1 名と法律担当者 1 名を選抜し招待 して、集中訓練を行っている。国ごとにべアの専門家を育成すれば、提供国に 帰っても様々な制度作りができると考えている。
? ABS クリアリングノウスの現状と IRCC
ABS クリアリングノウスは少しずつ改良している。以前生物多様性条約サイト の中にあった各国情報で、各国の生物多様性条約関連国内法の PIC や MAT な ど必要条項を一覧表にしたものがあったが、現在の ABS クリアリングノウスサ イトにはない。しかし、法律のみならずガイドラインなどを含め、各国のアク セスと利益配分に関連する情報を、各国から提供してもらい、それをサイトに 掲載する計画である。掲載は来年 1 月頃を予定している。現在各国に掲載に必 要な一覧表のひな形を渡してあり、それを埋めた情報を受け取り、サイトにア ップする予定である。以前は法律だけであったが、今度はガイドライン等も含 めるので、よりアクセスと利益配分情報がきめ細かくなるはずである。
52http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/kikan/gbl_env.htmlhttp://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kank yo/kikan/gbl_env.html
国際的に認められた遵守の証明書53(Internationally Recognized Certificate of Compliance: IRCC)が初めてインドから提出された。IRCC のひな形(参考資 料)は決まっているが、それを埋めるのは提供国側であり、CBD 事務局が埋め る内容について強制することはできない。残念ながら、今回インドから出てき た IRCC では、利益配分について秘密事項になっており内容が見ることができ ない。これでは、利用者にとってあまり参考とならないが、強制できないので しかたがない。IRCC は公開され、対象利用国のチェックポイント、秘密でなけ れば利用者に送られる。利用国側チェックポイントからは、今後チェックポイ ントコミュニケ54(Checkpoint Communiqués : CPC)が発行され、CBD 事務 局に送られる予定である。すでに CPC のひな形(参考資料)が作成されている。
現在、標準契約書として 2 つアップされている。一つは国際製薬団体連合会
(International Federation of Pharmaceutical Manufacturers and Associations:IFPMA)の提出したもの55で、研究開発型製薬会社の遺伝資源へ のアクセスと利益配分についてのガイドラインを示したものである。もう一つ は、国際微生物保存施設連盟(World Federation for Culture Collections:WFCC) の行動規範56である。これは微生物保存施設のアクセスと利益配分の在り方を示 したものである。今後標準契約書のみならずガイドラインや行動規範などの情 報を広く募集し、公海していく予定である。
? 今後のアクセスと利益配分制度について
欧州連合では EU 規則に基づく実施法(implementation act)のドラフトが発 表された。EU 委員会ではこれから 1 年くらいかけて EU 規則の懸案事項に関するガイダンスが発表される予定と聞いている。しかし、この具体的ガイダンス 作成は外部コンサルタントに依頼するようなので、具体的にどのようになるか わからない。今後注視する必要があると思っている。
53Internationally Recognized Certificate of Compliance (IRCC)
Certificate constituted from the information on the permit or its equivalent registered in the ABS Clearing-House, serving as evidence that the genetic resource which it covers has been accessed in accordance with prior informed consent and that mutually agreed terms have been established. It contains the minimum necessary information to allow monitoring the utilization of genetic resources by users throughout the value chain (Article 17).
54Checkpoint Communiqués (CPC)
A summary of the information collected or received by a checkpoint related to prior informed consent, to the source of the genetic resource, to the establishment of mutually agreed terms and/or to the utilization of genetic resources and registered in the ABS Clearing-House (Article 17.1 (a)).
55http://www.ifpma.org/fileadmin/content/Innovation/Biodiversity%20and%20Genetic%20Resources/IFP MA_Guidelines_Access_to_Genetic_Resources.pdf
56http://bccm.belspo.be/documents/files/projects/mosaicc/code2011.pdf
先月パリの国際商業会議所(International Chamber of Commerce: ICC)の会 議57に出席し、EU 実施法について議論した。多くの日本人から名古屋議定書に ついて定義などについて多くの疑問がだされた。日本人の EU 規則の実施に対 する関心の高さがわかるが、それは大変難しい問題であり、直ぐに統一された 答えがでるわけではない。二国間の当事者間契約が基本であり、その契約が提 供者側の規則に従っていれば、当面はそれでよく、今後事例が蓄積すれば統一 された見解も出てくると思う。もちろん提供者側の規則は、生物多様性条約や 名古屋議定書の基本概念を逸脱したものであってはならない。加盟している限 りその基本概念に合意しているからである。日本もこのような考えで国内措置 を進めてもらいたいと考えている。
生物多様性条約事務局では名古屋議定書の批准にいままで注力してきたが、こ れからは方針を若干変更し、批准国内の制度整備に注力していく。名古屋議定 書の実行のための国内制度設計の考え方は、?できるだけ簡便で、だれでも実 行可能なようにすること、?利用者と提供者が相互に理解しあい、信頼し、合 意できるような制度にすること、である。この基本的考え方のもとにいろいろ な制度を組み立てていくつもりである。名古屋議定書はあくまで基本であり、 その具体化、実践可能化には大変難しい現実問題がさまざまにでてくるはずで ある。この基本をもとに、基本に立ち返りつつ問題解決を図っていくつもりで ある。
いろいろな利用分野でいろいろな試み、事例をたくさん作って、それを分析し て制度設計を行うボトムアップアプローチに賛成する。遺伝資源利用形態は多 様性が高いので一つの制度でコントロールできるとは考えられない。それぞれ の利用分野でベストケースを積み重ねるのが必要である。したがって、よい制 度に至るまでには時間がかかるのはしかたがないと考えている。
57http://www.iccwbo.org/Training-and-Events/All-events/Events/2015/ICC-Conference-on-Access-and-Be nefit-Sharing-Working-out-ABS-2015/
(参考)インドから提出された最初の国際的に認められた遵守の証明書(IRCC)
Global Coordinator Japan Biodiversity Fund
Convention on Biological Diversity 413 Saint Jacques Street Suite 800 Montreal , Quebec H2Y 1N9 Canada
TEL: +1 514 287 7054
E-mail: atsuhiro.yoshinaka@cbd.int
奥田 青州
Mr. Seishu Okuda
Junior Programme Officer Japan Biodiversity Fund
Convention on Biological Diversity 413 Saint Jacques Street Suite 800 Montreal , Quebec H2Y 1N9 Canada
TEL: +1 514 288 4352
E-mail: seishu.okuda@cbd.int
内容:
? 日本ファンドの取り組み
日本基金の目的は、名古屋議定書の批准促進ための基金として作られた。管理 運営のため環境省から 2 人出向している。批准促進活動の方法として、開発途 上国政府に働きかけ、途上国政府ができない部分を援助する方法が一般的であ る。アジアではミャンマーやカンボジアなどを援助してきた。今後は批准国内 の制度設計やキャパビルに重点を移すことになると思う。
名古屋議定書批准活動全体の責任者は Valerie Norman である。したがって、今 回の案件であるベトナムの学術関係者への普及啓発に資金援助することは可能と思われる。しかし基本的に個々の国あるいは特定国のターゲットだけを援助 するのではなく、プロジェクトとしていくつかの国をまとめて行うのが通例の 取り組みである。現在はまだ提供国政府のアクセスと利益配分制度確立を優先 しており、大学等研究機関への取り組みは今後の課題となる。
途上国の大学等研究機関への普及啓発活動は、Valerie Norman が興味を示しプ ログラムを開発し、日本政府環境省の許可を得てからでないと日本基金は使え ない。Valerie はドイツ基金 DIZ のプロジェクトも運営している。従って取り上 げられる可能性は高い。
実際の利用者への普及啓発活動やツールキット開発の重要性は高いので、日本 基金の今後検討課題として考えていきたい。いままでは、全体としての普及啓 発活動やツールキットを開発してきたが、今後は地域別、あるいは国別の取り 組みが必要と考える。それぞれの国で生物多様性に関する事情が異なるからで ある。また、実際に利用者が遺伝資源を利用するケースを多く作り、それを報 告、分析してベストケースを学術分野毎に確立する取組も重要である。
Professor
Faculty of Law, Common Law Section University of Ottawa
Louis Pasteur St. Room 429 Ottawa, Ontario K1N 6N5, Canada TEL: 613-562-5800 ext. 7742
TEL: 613-562-5124
E-mail: Chidi.Oguamanam@uottawa.ca
2015 年 10 月 8 日午後 1 時から 3 時まで
背景:Oguamanam 教授は知識ガバナンスに関する領域の専門家である。特に 知的財産及び科学技術と生物多様性、バイオテクノロジー、農業技術のダイナ ミズムに興味を持っている。利害関係者のイノベーションによる利益の最適化 に関してアクセスと利益の分配を議論する国際機関やレジームのダイナミズム に興味を持っている。国内的あるいは国際的な活動に従事しているだけではな く、国内州レベルあるいはそれ以下のレベルの関係活動家や政府間活動家に対 して技術的あるいは専門的アドバイスを提供している。また、活動範囲は、先 進国の先住民や地域社会のみならずその他の開発途上国にまで及んでいる。
内容:
? ABSCanada の活動
ボン・ガイドラインができてから、カナダでは ABS に取り組む動きがあり組織 体が設立された。しかし、政府はバイオテク産業の意見を重んじて ABS 制度を 作ることに臨時していた。カナダのバイオテク産業の意見は、イノベーション を阻害するものであり、研究開発コストを増大させるものであるというもので ある。一方提供者側である先住民族は、全人口の 4%程度であるが、被害意識が
強く自分達の遺伝資源と関連する伝統的知識が盗まれており、全く見返りを得 ていないという意見が多数を占めた。
名古屋議定書が合意されても、カナダ政府の態度は変わらず、サインもしてい ないし批准もしていない。公式にはコンサルテーション中ということになって いる。
このような状況では、ABS 問題は一向に解決に向かわないと考えた。解決の道 は、利害関係にあるバイオテク産業、先住民族、政府関係者、法学者を一同に 集め、それぞれの主張を公にすることで調和を図ることであると考えた。政府 が行うとなかなか意見がでないので、中立機関を設立することが重要である。 実際の活動は以下の 3 つである。第一に、バイオテク産業と先住民族が直接話 し合いを行う場を設定し、お互いの主張を明らかにしてもらうことが必要であ る。第二に、それぞれの主張のギャップを埋めるプロジェクトを提案すること である。お互いのギャップを埋める方法ができれば、ABS 制度がボトムアップ でできると考えた。第三に、先住民族の ABS に関するキャパシティビルディン グプロジェクトを行っている。
実際の活動では、地域毎にミーティングを開き、地方政府、地域住民、先住民 族とバイオテク産業を招き、そこでお互いの主張を話し合ってもらう。主に、 地域住民は多くの疑問、不安、懐疑、金銭的利益配分への期待を表明する場合 が多い。バイオテク産業側からは、探索研究から得た物からいつも儲かるもの がすぐにできるわけではないこと、製品ができて売れたとしても大きな儲けが 常にあるとは限らないことを説明している。お互いの議論の結果、問題点を明 らかにして、今後どうするか話し合う。東海岸地域から始め、今年中には西海 岸でミーティングをして最後になる。
第三のキャパビルとして、3 人の中立専門家(一人はイギリスから招鴨)を雇い、 地域ミーティングの前に先住民族だけを集めて二日トレニーングを行う。 ABC-ABS という。ここでは、先住民族は全く ABS について知識がないため、 ABS、CBD、NP とは何かとうことを説明し、理解させる。トレニーングの後 には自分達の質問ができる程度にさせるのが目標であう。
第二のキャパビルは、オタワ大学法学部環境法講座のマスターコース、ドクタ ーコースでABSを教えている。現在ドクターコースには 3 人の学生が卒業し た。マスターコースの生徒はいてトレニーングを受けている。卒業生は国連 UNEP やアフリカ連合(AU)のプロジェクトに派遣する機会を与えており、実 際の場で研究することを勧めている
? アフリカプロジェクトでの伝統的知識と知的財産権
アフリカ連合と共同でアフリカ伝統的知識と知的財産権の関係について研究し ている。特許は科学発明に対して与えられる確立した制度である。しかし、ア フリカの伝統的知識は科学とみなされず IPRs とされていない。我々は、アフリ カ伝統的知識には価値があると考えている。しかし現在の知的財産制度とは異 なり、公式な形で認められていない点や利用に関して制限がない点が特徴であ る。
先進国での知的財産制度と同じように、アフリカでは伝統的知識に技術革新の 根源があると考えている。薬草の例が判りやすい。多くの薬草由来の発明では、 最初は伝統的知識から出発する。薬草から新規化合物を見つけ、有用性を示せ ば特許を取ることが可能である。しかし伝統的知識は、重要な情報をもたらし
たにもかかわらず特許制度では新規性がないとして特許を取ることができない。 これは権利取得段階での問題である。権利行使の段階を考えると、特許を利用 するならばライセンス料という利益配分を行うことができる。いままでは伝統 的知識を利用しても利益配分はなかった。しかし、名古屋議定書によって伝統 的知識の利用には利益配分を行わなければならなくなった。伝統的知識に明確 な利益配分制度ができたことになり、これは今までの考え方と全く違う考え方 である。
知識形態 | 権利取得方法 | 利益配分方法 |
伝統的知識 | なし | 名古屋議定書 |
特許 | 特許法 | ライセンス契約 |
課題は、伝統的知識の利用をどのように同定するかで、伝統的知識の定義と出 所開示である。定義については WIPO の IGC で 2000 年から話し合われてきた。 しかし、15 年経っても何の結論も得られていない。南アフリカを中心とする国 が IGC を閉鎖すべきであるという動議を WIPO に出す。ブラジルなどバイオテ ックを発展させている国は多くの伝統的知識があるにもかかわらず反対してい る。状況は不透明だが、アフリカ連合は南アフリカに賛成しており賛成国もお おいので、いずれ近いうちに結論がでるであろう。そうなると WIPO の代わり に TRIPS で議論することになると予想している。
? カナダの今後の国内措置状況
カナダが名古屋議定書国内措置を実施できないのは、政治形態によるところが 大きい。連邦政府制を取っているが、憲法により、連邦政府、地方政府、先住民の役割が規定されている。特にアクセスと利益配分に関しては土地利用権と の関係が深いため、連邦政府環境省が決められる範囲はせいぜい国立公園(Crownland)程度である。
したがって、問題の解決にはこの三者の協力が必要である。2006 年以来カナダ 政府環境省は関係者情報の入手に努めているだけであり、現在でも基本問題の 解決には着手していない。民間から三者の協力を醸成するために、前記の ABSCanada を作った。環境省はこの ABSCanada に協力してくれている。 ABSCanada は環境省の資金援助で動いているわけではないので、政府の意見に 従う必要はない。カナダの非政府系 Social Sciences and Humanities Research Council(SSHRC)58がメインの資金源である。その他非政府系 International Commission of Agricultural and Biosystems Engineering(CIGR)59が資金援助 している。そのた、いくつかの環境 NGO が同様の活動をカナダで行っている。 このように、ボトムアップの取り組みが重要性を増している。
重要なことは、単なる ABS 制度の問題ではなくなっていることである。ABS 制度上の問題から社会倫理の問題へと転換している。社会的責任を自覚し、ABS 制度を遵守することが社会的倫理の達成につながる。出所開示も単なる特許制 度ではなく、特許出願者の社会倫理を試しているといえる。そのため、行動規 範を確立し、実行することが今後最も大切なことになると考えられる。政府は 規則を決めるだけであるが、それを守る利用者は高い倫理性が必要である。倫 理性の確立が鍵となる。
図 7 オタワ大学
58 http://www.sshrc-crsh.gc.ca/home-accueil-eng.aspx
59 http://www.cigr.org/
S.Takeda & Associates LLC
6 Little Mountain Road, Old Tappan New Jersey, 07675, U.S.A.
Tel: 201-664-2184 Fax: 201-664-2185 Mobile: 781-858-8902
E-Mail: stakeda@optonline.net
内容
?米国の名古屋議定書状況 米国の製薬業界ではあまり名古屋議定書が話題に上ることはない。むしろTPP合意の方が医薬品データ保護が短くなることのほうが話題が高い。
天然物から新しい医薬品を発見するのはかつてはやったことがあるが、現在の 評価は、時間とお金がかかるわりには成功確率が低いということになり、あま り積極的に実施している製薬企業はない。
しかし、今年のノーベル医学生理学賞で大村先生と Tu が受賞したことで、少し 見方がかわりバイオ探索研究が活発になるかもしれない。両方とも天然物から の医薬品だからである。ただし、ターゲットになる疾患はおそらく今回の例の ように熱帯病や希少病のようにあまり製薬企業の関心の低い分野になる可能性 が高い。
日本でも iPS 細胞などの再生医療などに注目して、あまり天然物医薬には関心 がないのではないかと思う。日本には伝統的な漢方もあるし、研究は行われて いると思うが、資金がいきわたっているとは思わない。
アクセスと利益配分の観点では、製薬業界では利益負担があることが臨時する 理由である。生物多様性条約に加盟しているかいないかに関係なく、米国では 契約が基本となっており、いつでも他人のものを利用する場合は、契約を交わ さなければならない。いままでは、自由意思で契約をすればよかったが、アク セスと利益配分で規制ができると、それに従わなければならず、提供者の国が パーセンテージを決めていれば自由な変更が不可能となり足かせになる。これ は余計な規制である。
大村先生の受賞のきっかけになったのは、静岡県のゴルフ場の土壌であると聞 いている。大村先生がゴルフ場とどのような契約を結んでいるのか興味がある。 大村先生の土壌採集が生物多様性条約以前であったとしても、土地所有者の許 可あるいは契約は必要で、大抵の場合は利益配分がある。もし結んでいないと、
日本ではおめでたいことなのでゆるされるかもしれないが、米国では問題とな ってもおかしくないと思う。
米国は契約を重視する。契約は自由であるが、有効な契約は規則に基づいてい なければならない。提供者が誰であれ、その国の規則に従った契約が必要であ る。その国にアクセスと利益配分の規則があれば、契約にそれを盛り込むのは 当然である。契約と生物多様性条約の成立とは関係なく、遡及するあるいはし ないという議論は政治上の問題であり、契約上は契約する時点でのその国の規 則だけが唯一の根拠となる。もし契約上で問題になれば、裁判で争うのみであ る。米国が生物多様性条約に加盟していないのは、契約社会を制限しないとい う考え方が社会に根付いており、それを変える考え方が出てこないからである。
Office of Conservation and Water, Bureau of Oceans, Environment and Scientific Affairs
United States Department of State
2201 C Street, NW, Room 2658, Washington DC 20520
TEL: +1 202 647 4827, FAX: +1 202 647 1636
E-mail: schollkm@state.gov
メール情報
背景:
Katlyn Scholl60は米国国務省海洋・環境・科学局で生物多様性条約非加盟国の フォーカルポイントである Dr. Stephanie W. Aktipis61のアシスタントとして生 物多様性関連の活動を行っている。
内容:
? 生物多様性条約に対する米国の取り組み
米国は生物多様性条約にも名古屋議定書にも加盟していない。従って、名古屋 議定書国内措置に対する公式な取り組みもないし、生物多様性戦略もない。現 行法の見直し、アクセスと利益配分の考え方を導入するという動きもない。名 古屋議定書が米国の研究活動に影響するのかどうかについても正式に評価して いない。
60Scholl, Katlyn M
E-mail: schollkm@state.gov
61Ms. Stephanie Aktipis Foreign Affairs Officer
Office of Conservation and Water, Bureau of Oceans, Environment and Scientific Affairs United States Department of State
2201 C Street, NW, Room 2658, Washington DC 20520
TEL: +1 202 647 4827, FAX: +1 202 647 1636
E-mail: aktipiss@state.gov
国立公園を除き、米国は公式のアクセスと利益配分政策を定めていないし、米 国の遺伝資源について、名古屋議定書に定められた事前情報に基づく同意や相 互に合意する条件を必要としない。
米国内で遺伝資源にアクセスし収集する研究者に対して、その他の連邦あるい は州法に従って行うよう忠告している。その法律の中には私有権法がある。米 国国立公園から試料を収集したい研究者は、内務省の国立公園局の許可と契約62 をとらなければならない。
米国の研究者がアクセスと利益配分に関する独自の政策がある国で遺伝資源を 収集する場合、研究者に対してその国の法令を遵守するように助言している。 そのため、米国の研究者に、提供国のフォーカルポイントに行って PIC や MAT を取得するためのプロセスについて助言・情報を求めるように進めている。
これらのアドバイスはケースバイケースで行っており、質問に答える形式であ る。国務省自ら名古屋議定書の普及啓発活動をしているわけではない。米国科 学財団(National Science Foundation:NSF)が普及啓発プログラムをもってい るかは問い合わせる。問合せ結果は下記参考資料になる。
米国国立科学財団(National Science Foundation : NSF)生物化学部門環境生 物局(Division of Environmental Biology:DEB)63 は生物多様性、系統分類、 分子進化、生命進化、自然淘汰、生態、生物保全、生物地球化学循環等の基礎 研究を支援している。
下記は生物多様性条約関連の 2015 年 3 月 12 日の情報である。
62http://www.nature.nps.gov/benefitssharing/
63http://www.nsf.gov/div/index.jsp?org=DEB
Guest Post: A Shifting Landscape for International Biology-related Research64
本報告は、NSF 国際科学技術オフィスでアフリカ、中近東、南アジアを担当し ている地域プログラムコーディネーターの Elizabeth (Libby) Lyons によって投 稿されたものである。本内容は、DEB のみならず他の部署にも関係する重要事項 である。
2014 年 10 月 12 日に名古屋議定書が発効し、多くの国から生物素材を入手し利 用する研究に影響を及ぼすことになった。NSF が支援する研究プロジェクトが この変化に対応できるように援助したい。そうすることによって、科学発見、 能力開発、教育訓練、国際協力、生物多様性保全などが米国とパートナー国の 間で今後も行えるようになると考える。
名古屋議定書発効にあたって、次の重要な二点を認識することが重要である。
1. 名古屋議定書はヒト遺伝資源以外のすべての生物資源を含む国際プロジェクトに影響を及ぼす。たとえ米国に対象遺伝資源が移動する計画がない場合や、商用利用を全く考えない場合でも適用されるということである。もし、DNAを含む非ヒト遺伝資源を国際的に研究する場合、研究活動の法的確実性を確保するために、アクセス及び/又は輸出許可取得を行うプロセスが必要となる。
2. 生物資源に対して主権的権利を持つ国が生物資源とそれに関連する伝統的知識を所有している。したがって、主権的権利を持つ国は、生物資源を利用したり保護したりする法律を作る権利を持っている。NSFおよび米国の研究所は、利用者が提供国の法令に従い、必要な許可を確保することを必須の条件としている。
64https://nsfdeb.wordpress.com/2015/03/12/guest-post-a-shifting-landscape-for-international-biology-related-research/
背景
名古屋議定書は、生物資源のアクセスと利益配分に関する標準手法と保護を開 発することを支援するために作られたものである。近い将来、名古屋議定書の 施行により、生物学研究特に野外研究は政治的監視のもとに置かれことになる。 例えば、名古屋議定書の言葉の解釈、利用と保護のバランス、関連国内法の発 達度合など各国国内法令の多様性によって、名古屋議定書の複雑性を増してい くものと予想される。
しかし、よいこともある。例えば、いくつかの国では現在のアクセスと利益配 分に関する仕組みを変えないと表明している国もあれば、地域の協力体制を発 展させようとする国65もある。また、ある国では、非商用目的の基礎研究の重要 さを認識している国では認可過程を簡易化している国もある。
名古屋議定書時代に対処する方法には下記が考えられる。名古屋議定書は大変 厄介なものであると認識している。しかし、名古屋議定書遵守の重要性を強調 したい。過去にあった不遵守の事例をみると、名古屋議定書を不遵守すること によって、プロジェクト主催者、プロジェクト自身、米国大学・研究機関、更 には米国と提供国の国際関係にまで重大な結果を生んでいる。名古屋議定書問 題に関わる疑問は、下記に連絡いただきたい。
米国国立科学財団国際科学技術局
ISE regional contacts http://www.nsf.gov/od/oise/country-list.jsp
バングラディッシュ、ブータン、エチオピア、インド、モルディブ、南アフリ カ、タンザニア担当
Elizabeth (Libby)
Lyons elyons@nsf.gov
65 Access and Benefit-Sharing in Latin America and the Caribbean: A Science-Policy Dialogue for Academic Research. Diversitas, June 2014
名古屋議定書時代に対応する方法
1.名古屋議定書の課題を理解する
スイス科学アカデミーは非商用学術研究のアクセスと利益配分に関してツー ルキットを発表している。これを読めば、定義、効果的実践などの概略を理 解することができる。また、科学学会やコレクション・博物館の連合体も同 様な情報を発表している。2.研究活動中の国の要求する許可要件を理解する
生物多様性条約事務局の名古屋議定書 ABS クリアリングノウスに各国情報 が集約されつつある。また、同じ国で研究している他の研究者にアプローチ して、アクセスと利益配分に関する情報を入手することもできる。3.可能な限り広い範囲の研究計画で許可を申請する
自身の研究が異なった方向になって、新たな許可申請をすることを避けるた めに許可申請は可能な限り広い研究範囲で行う。4.提供国研究協力者との関係を強化する
NSF は提供国研究者との協力関係を支援する。提供国研究者はその国の許可 要件を知っている可能性が高いからである。いくつかの国では、国内の協力 パートナーがいることを許可条件としている。5.利用研究が提供国にどのように利益をもたらすか表現できるようにする
ここでいう利益は非金銭的なものが多い。提供国側の視点では、このような 利用研究は、生物多様性からの発見、学生への教育訓練、学術共同研究や学 術ネットワーク、生物多様性保全と持続可能な利用などの極めて重要な成果 をもたらすものであると考えている。6.研究プロジェクトのタイミングを考慮する
許可申請プロセスを理解し、できるだけ速やかに許可申請を行うべきである。NSF 資金利用や研究員雇用の開始日を許可入手まで遅らせないよう考慮すべ きである。
名古屋議定書は、遺伝資源のアクセスと利益配分を促進するための考え方は盛 り込まれおらず、利用国の遵守と監視制度に焦点が当たっている。実際の利用 者の自己責任による自主的な活動に利用促進を任せているが、監視制度だけで は遺伝資源の利用は促進されないと考えられる。これでは利用者の負担を増大 させるだけで軽減にはなっていない。何ら具体的な遺伝資源利用の促進策を利 用国として提示しなければ、遺伝資源の利用は減少する。
遺伝資源のアクセスと利益配分を促進するためには、遺伝資源利用の多様な具体事例を基にしたボトムアップの仕組みを確立することが重要であると考える。 そのためには、具体的利用を促進し、利用実態を集積し、その利用形態を分析し、実態に合わせた制度化を考えるというプロセスが当面最も重要と思われる。 そのための制度設計が必要となろう。
アクセスと利益配分問題を考えるに当たり、利用者と提供者、利用国と提供国 の区別を考慮すべきではない。利用する場合と提供する場合に分けて、実際に どのようにアクセスさせどのように利益配分を公正かつ衡平に行うのがベスト であるかを考えるべきである。このような考え方をもとに、いままで経験して きたプラクティスを分析しベストプラクティスを構築すれば、生物多様性条約 や名古屋議定書にこだわることなくアクセスと利益配分問題を解決することが できると考えられる。
カナダでは、長年の経験を積み重ねた現行の制度を最大限に利用し、そこに必 要最小限の新たな要件を付け加えることを主眼とした取り組みを行っている。
カナダでは長年に渡っていろいろな問題に対処するため法制度を整備してきた。 名古屋議定書の国内措置を制定するにあたり所有権を第一に考慮する必要があ るが、その場合より多くの一般人まで巻き込まなければならない。それほどアクセスと利益配分問題は複雑である。所有権で問題が生じた場合、カナダでは 最初の解決手段は当事者間の話し合いであり公式には裁判である通常考えてき た。いずれも行政が関与することはなく、司法の関与で解決してきた。遺伝資 源のアクセスと利益配分問題も、行政ではなく司法の関与で解決すべき課題で ある。同じような問題が起こった場合、解決事例を参考に法制度を制定するの が通常の行政・立法のやり方であるとカナダでは考えられている。
多くの経験に基づくアクセスと利益配分問題の解決事例を蓄積することがまず 求められる。現実の解決策が最も優れた解決策である。現在のままでなんの問題がない部分についてわざわざ解決策を提示することは複雑化するだけである。 問題が起これば自主的な解決、司法による解決を受けて行政による解決を考え るべきである。カナダ環境省の国内措置に対する取り組みはこの方針に基づき 推進されている。カナダ政府は一見何もしていないように見えるが、事例収集 には積極的であり、あらゆる事例を現場から収集する努力は大いに評価されるべきである。この事例をいかに行政的に制度としていくかがカナダ政府の今後 の課題であろう。
名古屋議定書の普及啓発にツールキットの作成が効果的であることが生物多様 性条約事務局との議論で確認された。事務局でも個々の提供国の制度確立から、 提供国内の普及啓発に活動を移しつつある。この中で、提供と利用というに分 割されたツールキットより、遺伝資源の持続可能な利用に焦点をあてた総合的 ツールキットの作成が望まれている。ツールキットの中ではケーススタディー が重要な項目であり、いかに多くの事例を集積するかが課題となる。
カナダの連邦政府と州政府の権限分配は 1867 年憲法「第 6 章立法権の配分」に おいて定められている66。連邦政府の権能は憲法第 91 条に列挙されており、概 して連邦政府はカナダ全体に関連する事柄についての責任を負う。具体的には、 失業 保険、郵便、国家防衛、外交、市民権などがそれに含まれる。遺伝資源と 関連する分野では、国立公園等連邦政府所有地(Crown Land)の統治権がある。 また、インディアンおよびインディアンに保留された土地についての立法権も持っ ている。
憲法第 92 条では、州が法律を独占的に制定できる事項について列挙されており、例えば、憲法第 92 条第 8 項では、州は州内の地方政府の制度を制定する ことが可能である。憲法第 92 条 A では非再生天然資源、森林資源及び電気エ ネルギーに関して下記のように州に排他的な立法権が与えられる。憲法第 92 条 A (1) 各州において、立法府は、次の各号に掲げる事項について、専属的に 法律を制定することができる。
(a) 州内の非再生天然資源の探査
(b) 州内の非再生天然資源及び森林資源の開発、保全及び管理。これらの資 源から得る一次生産物の割合に関する法律を含む。
(c) 電力の生成及び生産を目的とする州内の用地及び施設の開発、保全及び管理
憲法第 92 条 A (2) 各州において、立法政府は、州内の非再生天然資源および 森林資源の一次生産物並びに州内の施設によって生産された電力の州外カナダ 地域への移出に関して、法律を制定することができる。ただし、これらの法律 は、州外カナダ地域へ移出される価格又は供給について、差別的取扱いを承認 又は規定するものであってはならない。憲法第 92 条 A (3) 第二項の規定は、 第二項に掲げる事項に関する国会の立法権限を減少するものではなく、国会の 法律と州の法律とが抵触する場合には、その抵触する範囲において国会の法律 が優先するものとする。憲法第 92 条 A (4) 各州において、立法府は、次の各 号に掲げる事項に関し、それらの生産物の一部又は全部が州外に移出されるか どうかにかかわらず、いかなる形式又は制度であれ租税による金銭徴収のための法律を制定することができる。ただし、これらの法律は、州外カナダ地域に 移出される生産物と州外に移出されない生産物について、差異を設ける課税を 承認し又は規定するものであってはならない。
(a) 州内の非再生天然資源及び森林資源並びにそれらの一次生産物
(b) 発電を目的とする州内の用地及び施設並びにその生産物
憲法第 92 条 A (5) 本条において「一次生産物」とは、付則六で定めるものをいう。憲法第 92 条 A (6) 本条第一項から第五項までの規定は、本条の施行前 に州の立法府又は州の政府が有していた権限又は権利を制限するものではない。
これらの憲法に定める権限の配分に従い、各州では天然資源に関して独自の規 則を定めている。その中でも遺伝資源研究と関連ある規則には下記のようなも のがある。
66 カナダにおける国と地方の役割分担 山崎由希子 Jean-François Tremblay 石田三成
https://www.mof.go.jp/pri/research/conference/zk079/zk079_03.pdf
表1 カナダ遺伝資源利用研究関連ライセンス制度と管轄権
ライセンス | 地域 | 適用法令 | 許可部門 |
移転許可 | 連邦政府 | 野生動植物保護法 | 環境省 |
森林研究ライセンス | 連邦政府 | 森林管理法及び規則 | 環境天然資源省森林管理局 |
研究ライセンス | 北西準州 | 科学者法 | Aurora Research Institute |
研究ライセンス | ヌナブト 準州 | 科学者法 | Nunavut Research Institute |
研究ライセンス | ユーコン 準州 | 科学者及び探索法 |
図 8 カナダ連邦議会
遺伝資源へのアクセスと利益配分を規制する連邦法は現在ない。遺伝資源への アクセスと利益配分に関する法的権限は、州政府、準州政府、先住民コミュニ ティが分担している。2010 年第 10 回締約国会議が開かれる前に、カナダ連邦 政府は「21 世紀の遺伝資源管理について、カナダ国内政策ガイダンス67」を発 表した。このガイダンスは、遺伝資源へのアクセスと利益配分に関する政策の 基礎を連邦レベル、州レベル、準州レベルで形成するために拘束力のない形で 開発された。
現在、連邦レベルでは、国立公園内において研究と収集に関する許可制度を実 施している68。先住民グループ、学術界、政府、非政府機関が、伝統的環境知識 の利用と政策決定への反映に関与することが遺伝資源管理にどのような影響を 与えるかを検討課題としている。すなわち、先住民の管理システムや知識が管 理システムをどのように形成するか、および用語の仕様、概念、手法がどのよ うに決定プロセスに反映されるかが検討課題である。
研究者と土地所有者は直接試料採取の契約を行う。学術機関、研究者、あるい は私企業の間では素材移転に関する契約が存在する。また、多くの企業セクタ ーでは遺伝資源へのアクセスと利益配分に関する考え方や慣例を持っており、 多くの場合、遺伝資源へのアクセスと利益配分は、直接関与する機関の考え方 や慣例か日々の実践によって統治されている。
カナダの三つの準州、すなわちユーコン準州、北西準州、ヌナブト準州は、遺 伝資源へのアクセスと利益配分に調和するアクセス制度をはるかに早く取り入 れている。各準州は研究ライセンス法をアクセス制度という形で制定している。 北西準州とヌナブト準州は科学者法という法律で研究ライセンスを実行してい る。科学者法では、準州内で科学研究目的の研究活動を行ったり、試料を収集 したりするにはライセンスを得なければならない。ただし、野生生物研究や野生生物試料収集は例外であるが、これらの行為は他の法律の下で許可を取るこ とが必要となる。
67http://cisdl.org/biodiversity-biosafety/public/policies/Canada_2010_Domestic_Policy_Guidance_on_AB S.pdf
68The federal government has a permitting system in place for research and collection in national parks
ユーコン準州での研究は研究者と探索法によってライセンスが与えられる。北 西準州のライセンス申請は Aurora Research Institute に、ヌナバート準州のラ イセンス申請は Nunavut Research Institute に提出する。Aurora Research Institute は Aurora 大学の一部であり、その役割は、科学的、技術的および先 住民の知識によって北西準州住民の生活向上し、社会的あるいは経済的な目標 を達成することである。
Nunavut Research Institute のミッションは、Inuit Qaujimanituqangit の開 発、促進および発展のリーダシップを与え、ヌナブト住民の豊かな生活の糧と して科学、研究、技術を供給することである。研究者法では、科学研究と商用 研究の区別はない。Aurora Institute の解釈によれば、北西準州で行われるすべ ての研究は例外なくライセンスが必要である。先住民の伝統的知識研究のみな らず物理的、社会的および生物的研究にも適用される。
北西準州の研究者法は、事前の情報に基づく同意について記載がないが、申請 過程で研究者が研究計画を政府当局あるいは/および影響を受ける地域社会と議 論しており、関係者がその推進を支持していることを書面で確認される。また、 環境、天然資源、森林管理部門はすべての森林関係の研究申請を審査する。こ のことは、樹木や植物に関連する研究は、森林管理法および規則のもとで森林 研究ライセンスも受けなければならないことを意味している。
利益配分の義務は報告と研究結果の共有に限定されている。北西準州とヌナブ ト準州の研究ライセンス制度はしばしば利用されている。Aurora Research Institute は ethnography,生物、保護区域、伝統的知識の分野で 2007 年の研究 者法のもとで発行したライセンス状況を発表している。同様に Nunavut Research Institute は 2002 年のライセンス数は数百と報告している。
The Development and Future of the ABS regime in Canada
アクセスと利益配分問題を主題とする特別な連邦法は存在しない。アクセスと 利益配分法を公正する主題の立法措置は、連邦議会、州政府や準州政府や先住 民族社会の間で配分される。一般的に、連邦議会は、連邦政府の所有地に生息 する遺伝資源あるいは連邦政府所有物(連邦植物研究施設などに保存されてい る植物など)に対して立法する権限がある。また、連邦議会は、特許、著作権、 地方政府間あるいは国際間の取引、及び先住民やそれらの土地に対して立法権 限を持つ。
バイオテクノロジーイノベーションに関する規制は、カナダ環境保護法のもと 連邦政府の環境規制権力によって実行されている。一方地方州と準州は、統治 地域における公共地および関連する森林資源に対いて権限を持つ。私有地への アクセス管理や土地利用計画の法律など所有権に対する統治も行う。また、契 約や tort に対する立法権限も持っている。
2004 年から 2006 年の間に、カナダ環境省のリーダシップのもとで、アクセス と利益配分に関するカナダの権益をより明確に理解するために一連の啓発活動 が行われた。この啓発活動には連邦政府、地方州政府、準州政府が関与した。 本活動の目標は、カナダの利害関係者に政策形成過程を明らかにし、それに対 する見解を得るためである。
2005 年には、連邦政府、地方州政府、準州政府の間で、遺伝資源を管理するカ ナダのアプローチについて次のような政策目標と基本方針が合意された。
表2 カナダの ABS 政策の基本方針及び特徴
以下に、ABS政策の基本原則の作成及び策定に使用できる方針を提案する。この方針は、カナダ及び他国でABS政策を実施した実例及び実際的経験から得られたものである。 |
・ 環境を重視ー生物多様性の保全及び接続可能な利用に貢献する。 |
・ 実用的かつ経済的?遺伝資源の利用による社会経済的な利益を利用者と提供者にもたらし配分することを目的として、遺伝資源の所有権に関する問題を明確化し、規制制度を確立することにより、持続可能な開発に貢献 する。 |
・ 簡潔、有効かつ柔軟?様々な ABS 政策・アプローチが相互に連携し補完しあうことを可能にする |
・ 政府の法律及び政策を支持、補完?カナダの国際的な公約を基盤とし、尊重する。 |
・ バランスよく衡平かつ透明?明瞭で、かつ当事者全員が納得する論理的根拠のある方法で、遺伝資源の利用者と提供者の間でバランスよく責任を分 担する。 |
・ 包括的?先住民グループ、地域社会及び利害関係者の適切な参加を得て、策定・実施されている。 |
・ 各管区の権限を尊重しつつ、ABS政策の策定には管区間の連携が望ましいことに留意する。 |
2004 年から 2006 年の間に行われた進展にもかかわらず、2006 年に成立した新 連邦政府政権の登場によって、アクセスと利益配分政策形成が遅れている。2009 年春、連邦政府環境省によって、連邦、地方州、準州と、森林省委員会、公園 委員会、絶滅危倶種保護委員会を含むカナダ資源省委員会による対策グループ が形成された。本対策チームはカナダにおけるアクセスと利益配分に関する問 題を検討し、国民の意見形成のための選択肢を与えることを目的としている。
議論は、「カナダにおける遺伝資源へのアクセスとその利用による利益配分:新 政策の方向性69」という文書に基づいて行われる。本文書は、アクセスと利益配 分の国内政策に関するオプションと伝統的知識の取り扱い方法を提示している。
この文書のみそは、アクセスと利益配分の適用に連邦政府がコミットしないと いうことである。受領した意見に基づいて、どのようにカナダの ABS 政策を開 発するか、政策そのものを開発するのかさえ決めていない。
69Environment Canada: Discussion Paper “ Access to Genetic Resources and Sharing the Benefits of Their Use in Canada: Opportunities for a New Policy Direction” , http://www.biodivcanada.ca/1AB19CC4-9C19-44B6-972B-42243654600B/accessing_genetic_e.pdf
カナダには遺伝資源を利用する研究開発に対し、その研究場所によって許可を 取らなければならない。またワシントン条約で定められている希少生物の場合、 その国内外移動について許可を取らなければならない。
表 3 カナダ遺伝資源利用研究関連ライセンス制度
ライセンス | 地域 | 適用法令 | 許可部門 |
移転許可 | 連邦政府 | 野生動植物保護法 | 環境省 |
森林研究ライセ ンス連邦政府 | 森林管理法及び規 則 | 環境天然資源省森林管 理局 | |
研究ライセンス | 北西準州 | 科学者法 | Aurora Research Institute |
研究ライセンス | ヌナブト準州 | 科学者法 | Nunavut Research Institute |
研究ライセンス | ユーコン準州 | 科学者及び探索法 |
CONSOLIDATION
Wild Animal and Plant Protection and Regulation of International and Interprovincial Trade Act
S.C. 1992, c. 52
Current to March 31, 2015
Last amended on December 10, 2010
Published by the Minister of Justice at the following address: http://laws-lois.justice.gc.ca
An Act respecting the protection of certain species of wild animals and plants and the regulation of international and interprovincial trade in those species [Assented to 17th December 1992] Her Majesty, by and with the advice and consent of the Senate and House of Commons of Canada, enacts as follows: |
特定の野生動物及び植物種の保護についての法、及びそれらの種の国家間・州間での取引についての原則 (1992年12月17日に承認) 上院及び下院の助言と同意により、女王陛下は以下を制定する |
SHORT TITLE 1. This Act may be cited as the Wild Animal and Plant Protection and Regulation of International and Interprovincial Trade Act. |
省略 1. 本法は、「野生動物植物保護法及び国歌・州間での取引規則」と称することができる |
INTERPRET ATION 2. In this Act, “animal” means any specimen, whether living or dead, of any species of animal that is listed as “fauna” in an appendix to the Convention, and includes any egg, sperm, tissue culture or embryo of any such animal; “Convention” means the Convention on international trade in endangered species of wild fauna and flora, made on March 3, 1973 in Washington, D.C., United States and ratified by Canada on April 10, 1975, as amended from time to time, to the extent that the amendment is binding on Canada; “conveyance” means any vehicle, aircraft or water-borne craft or any other contrivance that is used to move persons or goods; “distribute” includes sell; “Minister” means the Minister of the Environment; “officer” means a person, or a person who belongs to a class of persons, designated pursuant to section 12; “plant” means any specimen, whether living or dead, of any species of plant that is listed as “flora” in an appendix to the Convention, and includes any seed, spore, pollen or tissue culture of any such plant; “prescribed” means prescribed by regulation; “transport” includes send. |
解釈 2. 本法において 「動物」は、ワシントン条約の付属書に「動物」として掲載されている、生死を問わないあらゆる試料を意味し、当該動物の卵、精子、組織培養、あるいは胚を含む;「ワシントン条約」は、1973年3月3日に米国ワシントンにて制定され、1975年4月10日にカナダが批推し、折に触れて修正され、その修正の範囲内でカナダを法的に拘束する、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」を意味する;「乗り物」は、人や物を移動させる、あらゆる車両、航空機、’水上輸送機、あるいは他の装置を意味する;「配布」には、販売も含まれる; 「大臣」は、環境大臣を意味する;「職員」は、第12条に従って指名された人、あるいは指名された階級に属する人を意味する「植物」は、ワシントン条約の附属書で「植物」として掲載されている、生死を問わないあらゆる試料を意味し、当該植物の種子、胞子、花粉あるいは組織培養を含む;「所定の」は、規則により定められたものを意味する;「移転」には、送付も含まれる。 |
BINDING ON HER MAJESTY 3. This Act is binding on Her Majesty in right of Canada or a province. |
女主陛下への法的拘束 3. 本法は、カナダあるいは州の権利について、女主陛下に法的に拘束する。 |
PURPOSE 4. The purpose of this Act is to protect certain species of animals and plants, particularly by implementing the Convention and regulating international and interprovincial trade in animals and plants. |
目的 4. 本法は、ワシントン条約を実行し、国家及び州間での動植物の取引を規制することで、特定の動植物種の保護することを目的とする。 |
AGREEMENTS 5. The Minister may enter into an agreement with the government of any province to provide for the cooperative management and administration of this Act and to avoid conflict between, and duplication in, federal and provincial regulatory activity. |
契約 5. 大臣は、本法の協力的な管理及び運営のため、また国家と州の規制活動の衝突及び重複を回避するために、州政府と契約を締結することができる。 |
PROHIBITIONS 6. (1) No person shall import into Canada any animal or plant that was taken, or any animal or plant, or any part or derivative of an animal or plant, that was possessed, distributed or transported in contravention of any law of any foreign state. (2) Subject to the regulations, no person shall, except under and in accordance with a permit issued pursuant to subsection 10(1), import into Canada or export from Canada any animal or plant, or any part or derivative of an animal or plant. (3) Subject to the regulations, no person shall, except under and in accordance with a permit issued pursuant to subsection 10(1), transport from one province to another province any animal or plant, or any part or derivative of an animal or plant. 7. (1) Where the transportation out of a province of an animal or plant, or any part or derivative of an animal or plant, is permitted by the province only if the person who transports it holds a permit issued by a competent authority in that province, no person shall, except under and in accordance with such a permit, transport any animal, plant or part or derivative of an animal or plant from that province to another province. 8. Subject to the regulations, no person shall knowingly possess an animal or plant, or any part or derivative of an animal or plant, (a) that has been imported or transported in contravention of this Act; (b) for the purpose of transporting it from one province to another province in contravention of this Act or exporting it from Canada in contravention of this Act; or (c) for the purpose of distributing or offering to distribute it if the animal or plant, or the animal or plant from which the part or derivative comes, is listed in Appendix I to the Convention. 9. Every person who imports into Canada, exports from Canada or transports from one province to another province an animal or plant, or any part or derivative of an animal or plant, shall keep in Canada, in the prescribed manner and for the prescribed period, any documents that are required to be kept by the regulations. |
禁止事項 6. (1) 何人も、外国の法に違反して所有、配布、移転された動植物、捕獲された動植物、あるいは動植物の一部及び派生物を、カナダに輸入してはならない。 (2) 規則に従い、第10条(1)に基づいて発行された許可証による場合を除き、何人も、動植物あるいは動植物の一部及び派生物を、カナダに輸入、カナダへ輸出してはならない。 (3) 規則に従い、第10条(1)に基づいて発行された許可証による場合を除き、何人も、動植物あるいは動植物の一部及び派生物を、ある州から他の州へ移転させてはならない。 7. (1) 動植物あるいは動植物の一部及び派生物を州外への移転は、移転する物が州の権限ある当局が発行した許可証を所持している場合のみ許可され、当該許可証による場合を除き、何人も、動植物あるいは動植物の一部及び派生物を、その州から他の州へ移転させてはならない。 8. 規則に従い、何人も、以下のような動植物、あるいは動植物の一部及び派生物を、そうと知りながら所有してはならない; 9. 動植物、あるいは動植物の一部及び派生物をカナダへ輸入、カナダから輸出、あるいはある州から他の州へ移転する者は、それらをカナダ国内で所定の方法で保管し、所定の期間の間は、規則で要求される書類を保管しなければならない。 |
FEDERAL PERMITS 10. (1) The Minister may, on application and on such terms and conditions as the Minister thinks fit, issue a permit authorizing the importation, exportation or interprovincial transportation of an animal or plant, or any part or derivative of an animal or plant. (2) An application shall be made in the form and on the terms and conditions that the Minister requires, contain all the information that the Minister requires and be accompanied by the prescribed fees. (3) The Minister may, after giving a person who holds a permit an opportunity to make representations, revoke or suspend the permit for contravention of any term or condition of the permit. (4) The Minister may delegate to any minister of the Crown in right of Canada or of a province or to any person who is employed by the Government of Canada, the government of a province or any other government in Canada any power conferred on the Minister under this section relating to permits. The minister or other person to whom the power is delegated may then exercise the power subject to any terms and conditions that the Minister specifies. 1992, c. 52, s. 10; 2002, c. 29, s. 139. 11. No person shall knowingly furnish any false or misleading information or make any misrepresentation with respect to any matter in this Act. |
連邦政府による許可 10. (1) 大臣は、申請及び大臣が適切と考える条件に基づき、動植物あるいは動植物の一部及び派生物を輸入、輸出、州間の移転を許可する許可証を発行することができる。 (2) 申請は、大臣の要求する書式及び条件で、大臣の要求する情報をすべて含み、かつ所定の費用と共になされなければならない。 (3) 大臣は、条件に違反した許可証を、許可証を所持する者に陳情の機会を与えた後、撤回あるいは停止することができる。 (4) 大臣は、本セクションで大臣に与えられている許可証に関する権限を、カナダや州の他の大臣あるいはカナダ政府に雇われている者に委譲することができる。そして、大臣あるいは権限を委譲された者は、大臣が明記した条件に従って権力を行使することができる。1992, c. 52, s. 10; 2002, c. 29, s. 139. 11. 何人も、本法に関する物事について、虚偽のあるいは誤解を与える情報をそうと知りながら提供したり、虚偽の陳述をしたりしてはならない。 |
ADMINISTRATION 12. (1) The Minister may designate such persons or classes of persons as the Minister considers necessary to act as officers or analysts for the purposes of this Act or any provision of this Act, and if the person to be designated is an employee, or the class of persons to be designated consists of employees, of the government of a province, the Minister shall only designate that person or class with the agreement of that government. (2) Officers designated under subsection (1) have, for the purposes of this Act, all the powers of a peace officer, but the Minister may limit, in any manner the Minister considers appropriate, the powers that certain officers may exercise for the purposes of this Act and, where those powers are so limited, they shall be specified in the certificate referred to in subsection (3). (3) On entering any place under this Act, an officer or analyst shall, on request, show the person in charge or the occupant of the place a certificate, in the form approved by the Minister, certifying that the officer or analyst, as the case may be, has been designated under this section. (4) No person shall knowingly make any false or misleading statement either orally or in writing to, or obstruct or hinder, an officer or analyst who is carrying out duties or functions under this Act or the regulations. (5) Officers and analysts are not personally liable for anything they do or omit to do in good faith under this Act. 1992, c. 52, s. 12; 2009, c. 14, s. 116. 12.1 (1) A document made, given or issued under this Act and appearing to be signed by an analyst is admissible in evidence and, 116. in the absence of evidence to the contrary, is proof of the statements contained in the document without proof of the signature or official character of the person appearing to have signed the document. (2) The party against whom the document is produced may, with leave of the court, require the attendance of the analyst who signed it. (3) No document referred to in subsection (1) may be received in evidence unless the party intending to produce it has given to the party against whom it is intended to be produced reasonable notice of that intention together with a copy of the document. 2009, c. 14, s. 116.1. 13. Any thing that has been imported into or is about to be exported from Canada, or has been transported, or is about to be transported, from a province to another province, may be detained by an officer until the officer is satisfied that the thing has been dealt with in accordance with this Act and the regulations. 14. (1) For the purpose of ensuring compliance with this Act and the regulations, an officer may at any reasonable time enter and inspect any place in which the officer believes, on reasonable grounds, there is any thing to which this Act applies, or there are any documents relating to the administration of this Act or the regulations, and the officer may (a) open or cause to be opened any container that the officer believes, on reasonable grounds, contains such a thing; (b) inspect any such thing and take samples free of charge; (c) require any person to produce for inspection or copying, in whole or in part, any document that the officer believes, on reasonable grounds, contains any information relevant to the administration of this Act or the regulations; and (d) seize any thing by means of or in relation to which the officer believes, on reasonable grounds, this Act or the regulations have been contravened or that the officer believes, on reasonable grounds, will afford evidence of a contravention of this Act or the regulations. (1.1) An analyst may, for the purposes of this Act, accompany an officer who is carrying out an inspection of a place under this section, and the analyst may, when accompanying the officer, enter the place and exercise any of the powers described in paragraphs (1)(a) and (b). 14.1 While carrying out duties or functions under this Act, officers and analysts, and any persons accompanying them, may enter on and pass through or over private property without being liable for doing so and without any person having the right to object to that use of the property. 2009, c. 14, s. 118. 14.2 The owner or person in charge of a place being inspected under section 14, and every person found in the place, shall (a) give the officer or analyst all reasonable assistance to enable the officer or analyst to carry out their duties or functions under this Act; and (b) provide the officer or analyst with any information with respect to the administration of this Act that he or she may reasonably require. 2009, c. 14, s. 118. 15. For the purpose of ensuring compliance with this Act and the regulations, an officer may exercise the powers of search and seizure provided for in section 487 of the Criminal Code without a warrant if the conditions for obtaining a warrant exist 2009, c. 14, s. 118. but, by reason of exigent circumstances, it would not be feasible to obtain a warrant. 16. (1) An officer who detains or seizes a thing under section 13, 14 or 15 or under a warrant issued under the Criminal Code may retain custody of the thing or transfer custody of it to such person as the officer may designate. 17. The owner, importer or exporter of any thing detained or seized under this Act may abandon the thing to Her Majesty in right of Canada. 18. (1) Where an officer believes, on reasonable grounds, that any thing is being or has been imported into Canada in contravention of this Act or the regulations, the officer may, whether or not the thing is detained or seized, require, by delivering a notice in the prescribed form and manner, that it be removed from Canada in accordance with the regulations. 19. (1) Where a person is convicted of an offence under this Act, the convicting court may, in addition to any punishment imposed, order that any thing detained or seized, or any proceeds realized from its disposition, be forfeited to Her Majesty. 20. (1) Where a sample has been taken pursuant to paragraph 14(1)(b) or a thing has been forfeited or abandoned under this Act, it shall be dealt with and disposed of as the Minister may direct. 21. (1) The Governor in Council may make regulations for carrying out the purposes of this Act, including regulations 21.1 (1) The Governor in Council may, on the recommendation of the Minister, by order, amend the definition “animal” or “plant” in section 2 for the purposes of subsection 6(2). |
管理 12. (1) 本法あるいは本法のあ らゆる条項の目的のために、職員あるいはアナリストの役割を果たす者を大臣が必要と考えれば、大臣は、そうした人あるいは人々を指名することができる。そして、指名された者が政府や州の職員である場合は、大臣は、当該政府との合意によらなければそれらの者を指名することはできない。 (2) (1)に基づき指名された職員は、本法の目的のために、保安官の権限をすべて有するが、大臣は、大臣が適切と考えるあらゆる方法において、ある職員が本法の目的のために行使する権限を制限することができる。権力を制限する場合には、(3)で述べる証明書において、それを明記しなければならない。 (3) 本法に基づいて立ち入りを行う場合、職員あるいはアナリストは、要求に応じて、その場所の担当者あるいは所有者に対し、当該職員あるいはアナリストが本セクションに基づき指名された旨を証明した、大臣の承認した書式による証明書を提示しなければならない。 (4) 何人も、本法または規則に基づき職務を執行する職員あるいはアナリストに対し、虚偽あるいは誤解を与える陳述を口頭または書面で行ったり、妨害をしたりしてはならない。 (5) 職員及びアナリストは、本法に基づいて行ったあるいは行わなかったことについて、個人的な責任は負わない。1992, c. 52, s. 12; 2009, c. 14, s. 12.1 (1) 本法に基づき作成あるいは発行され、アナリストが署名したとされる書類は法廷で証拠能力を有し、それとは反対に証拠が不在の場合において、それに署名したとされる者の署名又は公的身分の立証なしに、書類に含まれる陳述についての証拠となる。 13. カナダへ輸入、あるいはカナダから輸出されようとしている物、ある州から他の州へ移転ている物は、それらが本法及び規則に従って扱われていると職員が納得するまで、職員によって留置することができる。 14. (1) 本法及び規則の遵守を確保する目的で、職員は、本法が適用される物、あるいは本法や規則の執行に関連する書類が存在すると、妥当な理由に基づき信じる場所に、合理的な時機にいつでも立ち入って検査をすることができる。さらに、職員は、以下のことができる(a) そうした物が入っていると、妥当な理由に基づき信じる容器を開封する、あるいは開封させる;(b) それらを検査し、無償でサンプルを採取する;(c) 本法や規則の執行に関連すると、妥当な理由に基づき信じる書類の一部又は全部を、検査のために作成あるいは複写するよう要求する;(d) 本法や規則の違反の手段である、又は違反に関連すると、職員が妥当な理由に基づき信じる物、あるいは本法や規則の違反の十分な証拠となると妥当な理由に基づき信じる物を差し押さえる。(1.1) アナリストは、本法の目的として、本セクションに基づいて検査を行う職員に同行することができ、また職員に同行する際には、当該場所に立ち入り、上記(1)項(a)及び(b)で述べられた権利を行使することができる。 14.1 本法に基づく責務を果たす一方で、職員及びアナリスト、及び彼らに同行する者らは、責任なく、また所有物の利用に反対する権利を持つ者なくして、個人の所有物への立ち入り、回覧をすることができる。2009, c. 14, s. 118. 14.2 セクション14に基づき検査をされている場所の所有者あるいは担当者、及び当該場所に居る者らは、以下を行わなければならない(a) 職員あるいはアナリストに対し、彼らが本法に基づく責務を果たすことができるよう、あらゆる合理的な援助を行う;(b) 職員あるいはアナリストに対し、本法の執行に関して求められたあらゆる情報を提供する。 15. 本法及び規則の遵守を確保する目的で、職員は、令状を取得する条件は存在するものの緊急状況で令状を取得できない場合には、令状無くして刑法第487条で与えられた検索及び押収の権限を行使することができる。 16. (1) セクション13、14、15に基づき、あるいは刑法より発行された令状に基づき物品を留置又は差し押さえた職員は、当該物品を自ら拘束し続けるか、あるいは職員が指名した者に拘束させることができる。 17. 本法に基づき留置又は差し押さえられた物品の所有者、輸入者、輸出者は、カナダの権利として女主陛下に引き渡すことができる。 18. (1) 職員が、ある物品が本法や規則に違反してカナダに輸入されている、あるいはされていたと妥当な理由に基づき信じる場合、職員は、当該物品が留置されているかいないかにかかわらず、それらをカナダから除去するよう、所定の形式と方法で通知を送ることができる。 19. (1) 本法の違反について有罪判決を下された者に対し、当該判決を下した裁判所は、処罰を科すのに加え、留置又は差し押さえられた物品、あるいは処分で生じた利益を女主陛下に没収させるよう命じることができる。 20. (1) 14(1)(b)に従ってサンプルが採取された、あるいは没収、遺棄された場合、それらは大臣の指示に従って取扱われ、処理される。(2) [削除、 2009, c. 14, s. 119] 21. (1) 評議会の地方長官は、以下の規則を含め本法の目的を達成するため、規則を制定できる。 |
OFFENCE AND PUNISHMENT 22. (1) Every person who contravenes a provision of this Act or the regulations (a) is guilty of an offence punishable on summary conviction and is liable in the case of a person that is a corporation, to a fine not exceeding fifty thousand dollars, and a person other than a person referred to in subparagraph (i), to a fine not exceeding twenty-five thousand dollars or to imprisonment for a term not exceeding six months, or to both; or (b) is guilty of an indictable offence and is liable (i) in the case of a person that is a corporation, to a fine not exceeding three hundred thousand dollars, and (ii) in the case of a person other than a person referred to in subparagraph (i), to a fine not exceeding one hundred and fifty thousand dollars or to imprisonment for a term not exceeding five years, or to both. (2) Where a person is convicted of an offence under this Act a second or subsequent time, the amount of the fine for the subsequent offence may, notwithstanding subsection (1), be double the amount set out in that subsection. (3) Notwithstanding subsection (1), any fine imposed on a conviction for an offence involving more than one animal or plant, or part or derivative of an animal or plant, may be computed in respect of each animal, plant, part or derivative as though it had been the subject of a separate complaint or information and the fine imposed shall then be the sum payable in the aggregate as a result of that computation. (4) Where an offence under this Act is committed or continued on more than one day, it shall be deemed to be a separate offence for each day on which the offence is committed or continued. (5) Where a person has been convicted of an offence under this Act and the court is satisfied that as a result of the commission of the offence monetary benefits accrued to the person, the court may order the person to pay, notwithstanding the maximum amount of any fine that may otherwise be imposed under this Act, an additional fine in an amount equal to the court’s estimation of the amount of those monetary benefits. (6) Where a person is convicted of an offence under this Act, in addition to any punishment imposed, the court may, having regard to the nature of the offence and the circumstances surrounding its commission, make an order containing any one or more of the following prohibitions, directions or requirements: (a) prohibiting the person from doing any act or engaging in any activity that could, in the opinion of the court, result in the continuation or repetition of the offence; (b) directing the person to take any action the court considers appropriate to remedy or avoid any harm to any animal or plant to which any provision of this Act applies that resulted or may result from the commission of the offence; (c) directing the person to publish, in any manner the court considers appropriate, the facts relating to the commission of the offence; (d) directing the person to pay the Minister or the government of a province an amount of money as compensation, in whole or in part, for the cost of any remedial or preventive action taken by or caused to be taken on behalf of the Minister or that government as a result of the commission of the offence; (e) directing the person to perform community service in accordance with any reasonable conditions that may be specified in the order; (f) directing the person to post a bond or pay into court an amount of money the court considers appropriate for the purpose of ensuring compliance with any prohibition, direction or requirement mentioned in this subsection; (g) directing the person to submit to the Minister, on application by the Minister within three years after the date of the conviction, any information respecting the activities of the person that the court considers appropriate in the circumstances; and (h) requiring the person to comply with any other conditions that the court considers appropriate for securing the person’s good conduct and for preventing the person from repeating the offence or committing other offences under this Act. (7) Where a person is convicted of an offence under this Act and the court suspends the passing of sentence pursuant to paragraph 731(1)(a) of the Criminal Code, the court may, in addition to any probation order made under that paragraph, make an order directing the person to comply with any prohibition, direction or requirement mentioned in subsection (6). (8) Where a person whose sentence has been suspended fails to comply with an order made under subsection (7) or is convicted, within three years after the day on which the order was made, of another offence under this Act, the court may, on the application of the prosecution, impose any sentence that could have been imposed if the passing of sentence had not been suspended. (9) Proceedings by way of summary conviction in respect of an offence under this Act may be instituted at any time within, but not later than, two years after the day on which the Minister became aware of the subject-matter of the proceedings. (10) A document purporting to have been issued by the Minister, certifying the day on which the Minister became aware of the 1992, c. 52, s. 22; 1995, c. 22, s. subject-matter of any proceedings, shall be 18. received in evidence and, in the absence of any evidence to the contrary, shall be considered as proof of that fact without proof of the signature or the official character of the person appearing to have signed it. (11) Any person who has attained the age of majority may, where the Attorney General of Canada does not intervene, institute proceedings to which this Act applies. 1992, c. 52, s. 22; 1995, c. 22, s. 18. |
違反及び罰則 22. (1) 何人も、本法の条項の違反に際し、(a) 即決判決で有罪となり罰せ られる場合には、以下を免れない (i) 企業による違反の場合、5万ドル以下の罰金 (ii) (i)以外の者による違反の場合、2.5万ドル以下の罰金又は6か月以内の懲役、あるいはその両方; (b) 起訴犯罪で有罪となり、以下を免れない(i) 企業による違反の場合、10万ドル以下の罰金(ii) (i)以外の者による違反の場合、5万ドル以下の罰金又は5年以内の懲役、あるいはその両方; (2) 本法への違反について2回以上の有罪判決を受けた者は、2回目以降の違反についての罰金は、(1)項の定めにかかわらず、規定の2倍となる。 (3) (1)項の定めにかかわらず、2種以上の動物あるいは植物に関する違反について有罪となった場合に科される罰金は、その違反が独立した告発あるいは情報による事件であるかのように、各動植物、動植物の一部又は派生物ごとに計算され、したがって科される罰金は、計算の結果としてその合計額となる。 (4) 本法への違反が2日以上にわたってなされた、あるいは継続した場合、それらは各日ごとに違反がなされた、あるいは継続したものとして、独立した違反とみなされる。 (5) 本法に違反し有罪判決を受けた者が、その違反の結果として金銭的な利益を得たと裁判所が納得した場合には、裁判所はその者に対し、本法で定められている罰金の最大金額にかかわらず、当該金銭的利益と裁判所が見積った金額を、追加の罰金として支払いを命じることができる。 (6) 本法に違反し有罪判決を受けた者に対し、裁判所は、罰則を科すのに加えて、違反の本質及び当該違反行為を取り巻く状況を考慮して、以下の禁止、指示、要求を1つあるいはそれ以上含む命令を出すことができる: (a) 違反の継続あるいは反復をもたらしうると裁判所が考える行動や活動に従事することを禁じる; (b) 本法の条項への違反行為がもたらした動植物への危害を改善する、あるいは危害を回避するために裁判所が適切と考える行動取るよう指示する; (c) 裁判所が適切と考える方法で、違反行為に関する事実について公表するよう指示する; (d) 大臣あるいは州政府に対し、大臣あるいは当該政府を代表して取った、あるいは取らされた改善あるいは予防のための行動のかかった費用の一部あるいは全部を、補償として支払うよう指示する; (e) 命令において明記された合理的な条件に従って、社会奉仕活動を行うよう指示する; (f) 本項で述べられたあらゆる禁止、指示、要求の遵守を確実にする目的で、保証金あるいは裁判所が適切と考える額の金銭を裁判所に対して支払うよう指示する; (g) 有罪判決が出された日から3年以内に、大臣からの申し出により、その時の状況において裁判所が適切と考える、その者の活動に関する情報を大臣に提出するよう指示する; (h) 善い行動を確実に行えるようにし、さらに違反を繰り返す、あるいは本法の下で他の違反を行うことを防ぐために、裁判所が適切と考える他のすべての条件に従うよう要求する; (7) 本法に違反し有罪判決が下されたが、裁判所が刑法第731条(1)(a)に従って刑の宣告を一時停止した場合、裁判所は、本項に基づき出された執行猶予命令に加えて、(6)項で述べた禁止、指示、要求に従うよう命令を出すことができる。 (8) 刑の執行を一時停止された者が(7)項に基づき出された命令に従わなかった場合、あるいは命令が出された日から3年以内に、本法の他の違反について有罪判決を受けた場合、裁判所は、検察からの申し出により、刑の宣告が一時停止されなければ科されていたであろう刑罰を科すことができる。 (9) 本法への違反に関する即決判決の方法による訴訟は、訴訟の対象となる事項について、大臣が知って以降2年以内であれば、いつでも提起することができる。 (10) 訴訟の対象となる事項を大臣が知った日を証明する、大臣により発行されたと称する書類は証拠として受領され、反対の証拠が存在しない場合には、それに署名したとされる者の署名又は公的身分の立証なしに、当該事実についての証拠とみなされる。 (11) 成年に達した者は誰でも、カナダ司法長官が訴訟参加しない場合は、本法の適用する事項につき訴訟を提起することができる。 |
TICKETABLE OFFENCES 23. (1) In addition to the procedures set out in the Criminal Code for commencing a proceeding, proceedings in respect of any prescribed offence may be commenced by an officer (a) completing a ticket that consists of a summons portion and an information portion; (b) delivering the summons portion of the ticket to the accused or mailing it to the accused at the accused’s latest known address; and (c) filing the information portion of the ticket with a court of competent jurisdiction before or as soon as practicable after the summons portion has been delivered or mailed. (2) The summons and information portions of a ticket shall (a) set out a description of the offence and the time and place of its alleged commission; (b) include a statement, signed by the officer who completes the ticket, that the officer has reasonable grounds to believe that the accused committed the offence; (c) set out the amount of the prescribed fine for the offence and the manner in which and period within which it may be paid; (d) include a statement that if the accused pays the fine within the period set out in the ticket, a conviction will be entered and recorded against the accused; and (e) include a statement that if the accused wishes to plead not guilty or for any other reason fails to pay the fine within the period set out in the ticket, the accused must appear in the court and at the time set out in the ticket. (3) Where any thing is seized under this Act and proceedings relating to the thing are commenced by way of the ticketing procedure described in subsection (1), the officer who completes the ticket shall give written notice to the accused that if the accused pays the prescribed fine within the period set out in the ticket, the thing, or any proceeds realized from its disposition, shall thereupon be forfeited to Her Majesty. (4) Where an accused to whom the summons portion of a ticket is delivered or mailed pays the prescribed fine within the period set out in the ticket, (a) the payment constitutes a plea of guilty to the offence described in the ticket and a conviction shall be entered against the accused and no further action shall be taken against the accused in respect of that offence; and (b) any thing seized from the accused under this Act relating to the offence described in the ticket, or any proceeds realized from its disposition, are forfeited to Her Majesty and may be disposed of as the Minister directs. (5) The Governor in Council may make regulations prescribing (a) offences under this Act to which this section applies and the manner in which those offences may be described in tickets; and (b) the amount of the fine for a prescribed offence, which amount shall not exceed one thousand dollars. |
違反切符の対象となる違反 23. (1) 訴訟の開始について刑法で定められた手続きに加えて、所定の違法行為に関する訴訟は、以下の職員によっても開始することができる (a) 出頭命令部分と情報部分からなる違反切符を完成させた者; (b) 被告人宛の違反切符の出頭命令部分を被告人に対して配達、あるいは被告人の最新の住所に送付した者; (c) 出頭命令部分が配達あるいは送付された後、実施可能となる前、あるいはなるべく早くに違反切符の情報部分を管轄裁判所に対して申し立てた者。 (2) 違反切符の出頭命令及び情報部分には、 (a) 違反の内容及び、違反があったとされる場所と時間について詳述する; (b) 違反切符を作成した職員は、被告人が違反を犯したと信じる合理的な理由を有しているとの声明文を、当該職員の署名とともに盛り込む; (c) 当該違反に対する所定の罰金額、支払い方法及び期限を詳述する; (d) 被告人が違反切符に記載した期限内に罰金を支払った場合、被告人についての有罪判決が記録されるとの声明文を盛り込む; (e) 無罪を申し立てたい場合、あるいはその他の理由で違反切符に記載した期限内に罰金を支払わなかった場合、被告人は記載された日時に裁判所に出頭しなければならないという声明文を盛り込む; (3) 本法の下で物品が没収され、物品に関する審理が(1)に記載された違反切符の手続きによる方法で開始された場合、切符を作成した職員は被告人に対し、違反切符に記載した期限内に所定の罰金を支払わなかった場合、物品あるいはそれらの処分で生じた収益はすべて女主陛下に没収される旨の書面通知を渡さなければならない。 (4) 違反切符の出頭命令部分が配達あるいは送付された被告人が、切符に記載された期限内に所定の罰金を支払った場合、 (a) その支払いは切符に記載された違反について有罪の申立となり、被告人の有罪判決が記録され、当該違反についてはそれ以上何も行われない。 (b) 切符に記載された違反に関して本法の下で没収された物品、あるいはそれらの処分で生じた収益は女主陛下に没収され、大臣の指示に従って処分される。 (5) 評議会の地方長官は、以下について規則を制定できる (a) 本条が適用される本法への違反、及びそれらの違反を違反切符に記載する方法; (b) 所定の違反に関して、1000ドルを超えない範囲での罰金額 |
GENERAL
24. Where a corporation commits an offence under this Act, any officer, director or agent of the corporation who directed, authorized, assented to or acquiesced or participated in the commission of the offence is a party to and guilty of the offence and is liable on conviction to the punishment provided for the offence, whether or not the corporation has been prosecuted or convicted. 25. In any prosecution for an offence under this Act, it is sufficient proof of the offence to establish that it was committed by an employee or agent of the accused, whether or not the employee or agent is identified or has been prosecuted for the offence, unless the accused establishes that the offence was committed without the knowledge or consent of the accused and that the accused exercised all due diligence to prevent its commission. 26. A prosecution for an offence under this Act may be instituted, heard and determined in the place where the offence was committed or the subject-matter of the prosecution arose, where the accused was apprehended or where the accused happens to be, or is carrying on business. 27. Where any fee or charge imposed under this Act is unpaid, the fee or charge, as the case may be, may be recovered from the person on whom it was imposed as a debt due to Her Majesty. 27.1 (1) For the purpose of encouraging compliance with this Act and the regulations, the Minister shall maintain, in a registry accessible to the public, information about all convictions of corporations for offences under this Act. 28. The Minister shall annually prepare a report with respect to the administration of this Act during the preceding calendar year and shall cause a copy of the report to be laid before each House of Parliament on any of the first fifteen days that the House is sitting after its completion. 28.1 (1) The Minister shall, 10 years afterthe day on which this section comes into the day on which this section comes into force and every 10 years after that, undertake a review of sections 22 to 22.16. |
総則
24. 企業が本法の違反を犯した場合、違反行為について監督、許可、承認、黙認、参加した当該企業の役員、取締役、代理人は違反に加担し有罪であり、企業が起訴され有罪判決を受けたか否かにかかわらず、当該違反に対して科された罰則と有罪判決について責任を負う。 25. 本法の違反に関する起訴においては、被告人が当該違反は被告人が知らずにあるいは同意なく行われ、かつ被告人が違反行為を防ぐために相当な注意を払ったと立証しない限り、従業員又は代理人が特定された、あるいは違反について起訴されたか否かにかかわらず、従業員あるいは被告人の代理人によってなされたという十分な証拠となる。 26. 本法の違反に関する訴訟は、違反がなされたあるいは訴訟の対象となる事項が発生した場所、被告人が逮捕された場所あるいはたまたま業務を行っていた場所において提起し、審問し、終結させることができる。 27. 本法に基づいて課される手数料や課徴金が支払われない場合、それら手数料や課徴金は、場合によっては女主陛下に支払うべき借金として、それらを課された者から回収される。 27.1 (1) 本法および規則の遵守を奨励を目的として、大臣は、一般に公開されている登録簿において、本法に違反した企業の有罪判決についての情報を保持する。 28. 大臣は年に1度、前年の本法の運営に関する報告書を準備し、完成後、議会が会期に入って15日以内に、その複製を各議院に提出する。 28.1 (1) 大臣は、本条の発効日から10年後、及びその後も10年ごとに、22条から22.16条について再審査する。 |
REPEAL 29. [Repeal] |
削除 29. [削除] |
COMING INTO FORCE *30. This Act or any provision thereof shall come into force on a day or days to be fixed by order of the Governor in Council. * [Note: Act in force May 14, 1996, see SI/96-41.] |
発効 *30. 本法のすべての条項は、評議会の地方長官の命令によって決定した日に発効する。 * [注: 1996年5月14日発効。SI/96-41参照] |
SCIENTISTS ACT
R.S.N.W.T. 1988,c.S-4
AMENDED BY
S.N.W.T. 2014,c.10 In force April 1, 2014
use in scientific research, unless (a) he or she is the holder of a licence issued under this Act; or (b) the research consists solely of archaeological work for which a permit has been issued under the Archaeological Sites Act. |
標本採取をしてはならない (a) 本法に基づくライセンスを所有している; あるいは (b) 研究が、考古学法に基づき許可証が発行されている、考古学的調査のみである。 S.N.W.T. 2014,c.10,s.22. |
3. (1) The Commissioner may issue licences, subject to the conditions that the Commissioner may determine, that authorize the holders of the licences to carry out scientific research in or based on the Territories.
(2) The Commissioner shall issue a licence within one year after the receipt of the application for a licence unless, in the opinion of the Commissioner, to be stated in writing with the reasons for the opinion, the research proposed to be carried out might be injurious to or unduly interfere with the natural and social environment of the Territories or any part of that environment. (3) The Commissioner may at any time, for any cause that to the Commissioner seems sufficient, extend, renew, alter or revoke a licence issued under this section. |
3. (1) 委員会は、準州内あるいは準州を基点とした科学研究を行うライセンス保持者を認可するための、委員会が決定した条件に従い、ライセンスを発行することができる。
(2) 委員会は、委員会の意見において、計画された研究の遂行が、準州の自然及び社会環境あるいはそれらの一部にとって有害、あるいは過度に阻害する可能性があるとされ、その意見について理由と共に書面に記載した場合を除き、ライセンスの申請を受領してから1年以内に発行しなければならない。 (3) 委員会はいつでも、委員会が十分であると考える理由で、本セクションに基づき発行されたライセンスを延長、更新、あるいは取り消すことができる。 |
4. (1) Every applicant for a licence shall provide an accurate statement giving the information on the proposed scientific research that the Commissioner may require. | 4. (1) ライセンスの申請者は、計画している科学研究について、コミッショナーが要求する情報を正確な文書で提供しなければならない。 |
(2) Where any material change takes place after the provision of the information referred to in subsection (1), the applicant shall without delay provide corrected information to the Commissioner or a person designated by the Commissioner. | (2) (1)で述べた情報の提供後に重大な変更が生じた場合は、申請者は遅滞なく訂正後の情報を委員会あるいは委員会が指名した者に提供しなければならない。 |
5. (1) Every person to whom a licence is issued under this Act shall, within six months after the date on which the licence expires, furnish in duplicate to the Commissioner or a person designated by the Commissioner, (a) a report setting out the scientific work done and the information obtained; and (b) such other information as the Commissioner may determine. (2) The Commissioner may, as the Commissioner sees fit, extend the time for submission of the report and other information required under subsection (1). |
5. (1) 何人も、本法に基づきライセンスが発行された者は、ライセンスの有効期限から6か月以内に、委員会あるいは委員会が指名した者に対し、以下を正副2通提供しなければならない。 (a) 遂行された研究内容、及び得られた情報について説明した報告書; 及び (b) 委員会が決定したその他の情報。 (2) 委員会は、委員会が適切とみなした場合には、(1)で要求された報告書、及び他の情報の提出期間を延長することができる。 |
6. Where a person to whom a licence is issued under this Act collects any specimens, the Commissioner may require that person to submit to the Commissioner or a person designated by the Commissioner any or all of the specimens collected, and the specimens may be disposed of in the manner that the Commissioner considers proper. | 6. 本法に基づきライセンスを発行された者が標本を採取する場合、委員会はその者に対し、標本の一部あるいは全部を委員会あるいは委員会が指名した者に提出するよう要求することができ、それらの標本は委員会が適切と考える方法で処分することができる。 |
7. Every person who contravenes this Act or the regulations or a condition of a licence issued under this Act is guilty of an offence and liable on summary conviction to a fine not exceeding $1,000 or to imprisonment for a term not exceeding six months or to both. | 7. 何人も、本法あるいは規則、本法に基づき発行されたライセンスの条件に違反した者は、当該違反につき有罪であり、即決判決において1000ドル以下の罰金又は6か月以下の期間の懲役、あるいはその両方を科される。 |
8. The Commissioner, on the recommendation of the Minister, may make such regulations as the Commissioner considers necessary for carrying out the purposes and provisions of this Act. | 8. 委員会は、大臣の推薦により、本法の条項及び目的を遂行するために委員会が必要と考える規則を制定することができる。 |
SCIENTISTS AND EXPLORERS ACT
研究探索法
RSY 2002, c.200
Please Note: This document, prepared by the Yukon Legislative Counsel Office, is an unofficial consolidation of this Act and includes any amendments to the Act that are in force and is current to: currency date.
For information concerning the date of assent or coming into force of the Act or any amendments, please see the Table of Public Statutes and the Annual Acts. |
ご留意ください: 当文書は、ユーコン立法相談局が作成したものだが、本法の非公式な統合であり、2015年7月30日の時点で流通している本法の、実施されている修正箇所も含めたものです。
本法の修正について、承認日や発 効日に関する情報については、公 法体系あるいは年報を参照して ください。 誤りや欠落等を見つけた場合には、以下まで連絡を下さい: |
Licences 1(1) The Minister may issue a licence, subject to any conditions as to duration, area, or otherwise that the Minister may prescribe, to a person to enter the Yukon for scientific or exploration purposes and to carry out those purposes in the Yukon. (2) The Minister may, at any time, for any cause that to the Minister seems sufficient, extend, renew, alter, or revoke a licence issued under this section. |
ライセンス 1 (1) 大臣は、科学探索の目的で ユーコンに立ち入り、ユーコン内 で当該目的を遂行しようとする 者に対し、期間、地域、あるいは その他大臣が規定した条件に従 ってライセンスを発行すること ができる。 (2) 大臣は、大臣にとって十分だと思える理由により、本セクションに基づき発行したライセンスを延長、更新、修正、あるいは取消すことができる。 |
Conditions applicable to all licences 2(1) In addition to any conditions prescribed with respect to a licence issued under section 1, every licence is subject to the following conditions (a) that the objects of entry of the holder of the licence into the Yukon are exclusively for scientific or exploration purposes and not, in any way, political or commercial; (b) that, subject to section 3, the licensee will strictly comply with the provisions of all laws of the Yukon. (2) Every applicant for a licence shall furnish to the Minister an accurate statement showing the number, identity, and nationality of the persons who will accompany the applicant as well as the applicant’s own identity and nationality. (3) The Commissioner in Executive Council may prescribe the fee for any licence issued under this Act. |
すべてのライセンスに適用される条件 2 (1) セクション1に基づき発行されたライセンスについて規定された条件に加え、すべてのライセンスは以下の条件に従う (a) ユーコンへの立ち入りライセンス保持者の目的は科学あるいは探索であり、決して政治的、商業的なものではない; (b) セクション3に従い、ライセンス保持者はユーコンのすべての法律の条項を遵守する。 (2) 何人も、ライセンスの申請者は、大臣に対し、申請者自身の身元及び国籍に加え、申請者に同行する者の人数、身元及び国籍を示した正確な文書を提供しなければならない。 (3) 評議委員会は、本法に基づき発行されるライセンスのための手数料を規定することができる。 |
No entry without licence 3 No person shall enter the Yukon for scientific or exploration purposes and no person shall carry out those purposes in the Yukon unless they are the holder of a valid licence issued under this Act. S.Y. 2002, c.200, s.3 |
ライセンスなくしての立ち入り禁止 3 何人も、本法に基づき発行されたライセンスなくして、科学又は探索目的でユーコンに立ち入ることはできず、またユーコン内で当該目的を達することはできない。 S.Y. 2002, c.200, s.3 |
Returns 4(1) Every licensee shall, at the close of the scientific or exploration work in respect of which their licence was issued, furnish, in duplicate, to the Minister (a) a statement setting forth the scientific information the licensee has acquired in carrying out the purposes in respect of which the licence was issued; (b) a report setting forth the localities visited and the time spent in each locality; (c) a descriptive catalogue of all specimens collected; (d) copies of all photographs taken and maps and plans made in connection with the work together with explanatory notes; and (e) any other information that the Commissioner in Executive Council may prescribe. (2) Every licensee shall immediately after being requested by them to do so, furnish to a member of the Royal Canadian Mounted Police or an officer in charge of a government patrol, or other Crown officer, a log of voyages by water taken by the licensee, or information of the route followed on journeys by land or air taken by the licensee, as the case may be, together with full particulars of those voyages or journeys. |
答申 4 (1) すべてのライセンス保持者は、発行されたライセンスに基づく科学探索を終了した時点で、大臣に対して、以下を正副2通提供しなければならない。 (a) ライセンスが発行された目的を遂行したことで、ライセンス保持者が獲得した科学的な情報について説明した文書; (b) 訪問した場所及び各場所で過ごした日時を明記した報告書; (c) 採取された標本についての記述的な目録; (d) 撮影した写真すべてのコピー及び作業に関連した地図や計画表に注釈を付けたもの; (e) 評議委員会が規定したその他のあらゆる情報。 (2) ライセンス保持者は、要求されたらすぐに、ライセンス保持者による’k上旅行の日誌を、場合によっては、それらの航海あるいは |
Specimens 5 The Minister may require a licensee to submit to the Minister or to any person that the Minister may designate, any orall of the specimens collected by the licensee, and those specimens may be disposed of in any manner the Minister thinks fit. S.Y. 2002, c.200, s.5 |
標本 5 大臣は、ライセンス保持者に対し、彼らが採取した標本の一部あるいは全部を大臣、あるいは大臣の指名する者に提出す両要求することができ、それらの標本は、大臣が的つと考える方法で処分することができる。 S.Y. 2002, c.200, s.5 |
Regulations 6 The Commissioner in Executive Council may, from time to time, make rules and regulations for carrying out the purposes and provisions of this Act. S.Y. 2002, c.200, s.6 |
規則 6 評議委員会は、本法の条項の目的を遂行するために、折に触れて規則を制定することができる。 S.Y. 2002, c.200, s.6 |
Offence and penalty 7 Any person who violates any provision of this Act or the regulations or the conditions of a licence issued under this Act commits an offence and is liable on summary conviction to a fine not exceeding $1,000 or to imprisonment for a term not exceeding six months, or to both fine and imprisonment. S.Y. 2002, c.200, s.7 |
違反及び罰則 7 何人も、本法又は規則の条項、あるいは本法に基づくライセンスの他の条件に違反した者は、即決判決において1000ドル以下の罰金又は6か月以下の期間の懲役、あるいは罰金と懲役の両方を科される。S.Y. 2002, c.200, s.7 |
Nunavut Act
S.C. 1993, c. 28
Assented to 1993-06-10
An Act to establish a territory to be known as Nunavut and provide for its government and to amend certain Acts in consequence thereof
Her Majesty, by and with the advice and consent of the Senate and House of Commons of Canada, enacts as follows: |
ヌナブトとして知られる準州を設立して政府について規定し、またそれに関連して特定の法律を修正するための法
女主陛下は、カナダの上院及び 庶民院の助言と同意により、以 下のように定める: |
SHORT TITLE 1. This Act may be cited as the Nunavut Act. INTERPRETATION PART I 3. There is hereby established a territory of Canada, to be known as Nunavut, consisting of Seat of Government Executive Power 6. (1) The Commissioner shall act in accordance with any written instructions given to the Commissioner by the Governor in Council or the Minister. 7. The executive powers that, immediately before the coming into force of this section, were vested by any laws of Canada in the Commissioner of the Northwest Territories shall be exercised by the Commissioner of Nunavut so far as they are applicable to and capable of being exercised in relation to the government of Nunavut as it is constituted at the time of the exercise of those powers. 8. The Governor in Council may appoint a Deputy Commissioner of Nunavut, who, if the Commissioner is absent, ill or unable to act or the office of Commissioner is vacant, has and may exercise and perform all of the powers, duties and functions of the Commissioner. 9. The Commissioner and the Deputy Commissioner shall, before assuming the duties of their respective offices, take and subscribe such oaths of office and allegiance as the Governor in Council may prescribe. 10. If both the Commissioner and the Deputy Commissioner are absent, ill or unable to act or both those offices are vacant, the senior judge, within the meaning of subsection 22(3) of the Judges Act, of the Nunavut Court of Justice has and may exercise and perform all of the powers, duties and functions of the Commissioner. Executive Council of Nunavut Legislative Power Legislative Assembly of Nunavut 14. The Legislature may make laws prescribing the number of members of the Assembly and describing and naming the electoral districts in Nunavut. 1993, c. 28, s. 14; 1998, c. 15, s. 2. 15. (1) Writs for the election of members of the Assembly shall be issued on the instructions of the Commissioner. 16. Each member of the Assembly shall, before assuming the duties of that office, take and subscribe before the Commissioner such oaths of office and allegiance as the Governor in Council may prescribe. 17. No Assembly shall continue for longer than five years from the date of the return of the writs for the general election, but the Commissioner may at any time, after consultation with the Executive Council, dissolve the Assembly. 18. The Assembly shall sit at least once every twelve months. 19. The Assembly shall elect one of its members to be Speaker, who shall preside over the Assembly when it is sitting. 20. A majority of the Assembly, including the Speaker, constitutes a quorum. 21. The Assembly may make rules for its operations and procedures, except in relation to the classes of subjects referred to in paragraphs 23(1)(b) and (c). 22. One thousand dollars of the indemnity paid in any year to a member of the Assembly for sittings of the Assembly is not income for the purposes of the Income Tax Act. Legislative Powers |
略称 1. 本法は、「ヌナブト法」と称することができる。 解釈 第1部 政府の所在地 行政権 6. (1) 長官は、総督あるいは大臣から長官に対して与えられた指示に従って行動する。 7.ノースウェスト準州の長官によって、本条が発効する直前に、カナダの法律で授権された執行権は、これらの権限を実行する時点でのヌナブト政府との関係で適用及び実行可能である限り、ヌナブト長官により実行される。 8. 総督は、長官が不在、病気、又は業務ができない、あるいは長官職が空席などの場合に、長官の権限や義務、機能をすべて行う、及び行うことができる、ヌナブトの次長を指名することができる。 9. 長官及び次長は、それぞれの職に関する義務を引き受ける前に、総督の規定した職務についての宣誓を行い、宣誓書に署名をする。 10. 長官及び次官がすべて不在、病気、又は業務ができない、あるいは両職が空席などの場合、ヌナブト裁判所の主席判事は、裁判官法第223条(3)の意味の範囲内で、長官が行う、及び行うことができる権利、義務、機能を実行することができる。 ヌナブト諮問委員会 立法権 ヌナブト立法議会 14. 当立法機関は、議会の定員数や、ヌナブトの選挙区の制定及び命名を規定する法律を制定することができる。 1993, c. 28, s. 14; 1998, c. 15, s. 2. 15. (1) 議会構成員の選挙についての令状は、長官の指示に従って発行される。 16. 議会の各構成員は、その職に関する義務を引き受ける前に、総督の規定した職務についての宣誓を行い、宣誓書に署名をする。 17. 議会は、普通選挙のための令状が返還された日から5年以上継続することはないが、長官は、評議委員会との議論の後、議会をいつでも解散することができる。 18. 議会会期は最短でも12ヶ月は継続する。 19. 議会は、構成員の1名を、会期中に議会を統括する議長として選出する。 20. 議会は、議長を含めた過半数で定足数を満たす。 21. 議会は、第23条(1)(b)及び(c)で述べられた種類を対象とするもの以外について、議会の運営及び手続きに関する規則を制定することができる。 22. 議会に参加した構成員に対して支払われる1000ドルの補償金は、所得税法の目的にならない収入である。 立法権 |