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ABS情報

平成30年度 大学・研究機関におけるABS対応体制に関するアンケート 結果報告

平成31年1月
国立遺伝学研究所 ABS学術対策チーム


〒411-8540 静岡県三島市谷田1111
情報•システム研究機構 国立遺伝学研究所
e-mail: abs@nig.ac.jp
TEL: 055-981-5831


平成29年8月20日に我が国が名古屋議定書の締約国となり、海外遺伝資源に対するアクセス(access)と利益配分(Benefit-Sharing)に関して、更なる法令遵守の徹底が必要になりました。

 大学・公的研究機関のABSに関連する対応支援を担当している国立遺伝学研究所ABS学術対策チームでは、平成30年5月に皆様のご所属の大学・研究機関に対して、ABSへの対応体制の現状を把握するためのアンケートへのご協力をお願いいたしました(参考資料1-3)。(公的研究機関は文科省管轄の研究機関を対象といたしました。)

 本アンケートには、日本国内の1212の大学・公的研究機関のうち、602機関のご協力をいただき、このタイプのアンケートとしては非常に高い回収率(50%)でご回答を得ることができました。皆様のご協力について心よりお礼申し上げます。

国立 公立 私立 短大 高専 その他 合計
回答率 100% 86% 44% 33% 75% 49% 50%
回答数 86 78 264 108 43 23 602
機関数 86 91 600 331 57 47 1212

 本アンケートの結果、ご回答いただいた602の大学・公的研究機関のうち、163機関(27%)で海外に由来する遺伝資源の利用があることが判明いたしました。また、多くの大学・研究機関、特に国立・公立大学においては、生物多様性条約、名古屋議定書、国内措置(ABS指針)に対する認知、および組織としてのABS対応体制への準備が順調に進んでいることが確認できました。今後、ABS学術対策チームでは、このアンケート結果を元に、さらに日本の大学・研究機関におけるABS対応体制の構築を促進して行きたいと考えております。皆様のさらなるご協力、ご支援を心よりお願いいたします。(記載の都合上、短大は公立・私立を同項目に、また、高専においても、国立・公立・私立を同項目に分類させていただいています。また、大学共同利用機関はその他の中に入れております。)

 次頁以下で、各問に対する結果について報告を行います。貴大学・公的研究機関におけるABS対応体制のさらなる充実のために参考にしていただければ幸甚です。(参考「大学体制構築ハンドブック」(近日中にバージョンアップの予定)ダウンロードURL: https://idenshigen.jp/abs_tft/dllist/)

1. 大学・研究機関における対応体制の現状把握について

問1-1:貴大学・研究所に所属する研究者は、海外から入手した遺伝資源を研究に利用していますか?

国立 公立 私立 短大 高専 その他 合計
はい 69% 31% 23% 1% 19% 43% 27%
わからない 14% 12% 11% 3% 0% 4% 9%
いいえ 17% 58% 66% 96% 81% 52% 64%
回答合計 86 78 264 108 43 23 602

 ご回答いただいた大学・研究機関のうち27.1%(602機関中、163機関)がABSの対象となり得る外国由来の遺伝資源を利用されていることが分かりました。これらの遺伝資源の詳細については今回の調査は行っていませんが、これらについて調査を行うことで大学・研究機関への潜在的なリスクを解消することが可能になります。ご心配がある場合は、サンプルについての情報(*)をお調べいただき、国立遺伝学研究所ABS学術対策チーム(abs@nig.ac.jp, 055-981-5831)までご遠慮なくご連絡ください。


(*)海外遺伝資源の利用に関する調査を行う場合にお知らせいただきたい内容

  • 相談者氏名
  • 相談者所属
  • 生物種名
  • 提供国(第三国が提供国の場合は原産国)
  • 取得(予定)年月日
  • 取得の経緯
    (共同・単独採取、共同研究者・第三者からの送付、留学生・研究者による持込み)
  • 利用目的(学術研究・商用利用など)
  • 提供国における共同研究者・共同研究機関
  • 共同研究契約書(相互合意条項(MAT)の記述があるかどうか)
  • 政府許可証(PIC、輸出許可証、検疫に関わる検査証明書など)

注:問1-2以下の質問は問1-1で、「貴大学・研究所に所属する研究者は、海外から入手した遺伝資源を研究に利用していますか?」に「はい」または「わからない」とお答えいただいた機関に対して、お答えをお願いいたしました。「いいえ」のご回答を寄せられた大学については、海外遺伝資源の利用がないとのことでしたので、以下の質問については省かせていただきました。(なお、問1-1で「いいえ」と回答された機関からも、以下の質問に回答された場合がありました。これらの回答データは集計に加えました。)

問1-2:貴大学・研究所に所属する研究者の海外遺伝資源の利用に対応する窓口担当部署、担当者を決めていますか?

国立 公立 私立 短大 高専 その他 合計
はい 79% 44% 34% 0% 50% 67% 51%
現在検討中 19% 19% 36% 29% 25% 17% 26%
いいえ 3% 38% 30% 71% 25% 17% 23%
回答合計 70 32 89 7 8 12 218

 ご回答いただいた大学・研究機関のうち、51%がすでに窓口担当部署・担当者を決定しており、26%が検討中という回答をいただき、77%の大学・研究機関で準備が進んでいることが確認できました。
 提供国法令への対応や、研究機関の間での契約の締結には機関としての対応が必要です。海外に由来する遺伝資源を利用する研究者が機関におられる場合、まず窓口担当部署・担当者の決定が必要になります。当チームとの連絡を行うためにも、機関としてABSへの対応を進める第一歩として、窓口担当部署・担当者の決定をお願いいたします。これまでに我々が収集した実例として、大学・研究機関において、ABSに関する対応窓口は次のような部署が担当する場合がありました(研究推進部門、URA部門、知的財産部門、法務部門、産学連部門、リスクマネジメント部門、外為法担当部門など)。(参考「大学体制構築ハンドブック」(近日中にバージョンアップの予定)ダウンロードURL: https://idenshigen.jp/abs_tft/dllist/)


問1-3:アンケート等による所属研究者の遺伝資源の利用の有無やABS対応についての現状把握を行いましたか?

国立 公立 私立 短大 高専 その他 合計
はい 54% 28% 25% 0% 63% 55% 37%
実施予定 23% 16% 25% 14% 13% 18% 22%
いいえ 23% 56% 51% 86% 25% 27% 41%
回答合計 70 32 89 7 8 11 217

 大学・研究機関のうち37%でアンケート等による現状把握を行なっており、22%が実施予定というご回答をいただきました。まだ41%の機関ではアンケートなどが行われず、その予定もないという結果になりました。
 機関としてABSへの対応を行う場合、その機関でどのぐらいの数の研究者が、どのような国から、どのようなサンプルを入手・利用しているかについての現状把握が必要となります。この場合、全大学職員に対するアンケート調査(*)が最も有効な方法です。(アンケート例: https://idenshigen.jp/abs_tft/dllist/) また、他にも研究室のホームページ、科研費申請書類、論文などの内容からも海外遺伝資源の利用を調査することが可能です。場合によっては、個別のヒアリングも効果的な現状把握の方法だと思われます。


(*)アンケート調査推奨項目

  • 海外に由来する遺伝資源を利用しているか?
  • 遺伝資源の由来はどの国か?
  • 遺伝資源の種類(生物種)は何か?
  • どのような経緯で遺伝資源を入手したのか?
     (共同・単独採集、共同研究者からの送付、留学生の持ち込みなど)

 なお、特に留意すべき点として、留学生が自国から遺伝資源を持ち込む際、必要な手続きを行なっていないケースがあります。この場合にも、日本の大学・研究機関による対応が必要です。指導教官や留学生を担当する部局は、留学生の受け入れの際には特にお気をつけ下さい。

問1-4:大学・研究所として、所属研究者が海外遺伝資源を利用する場合の対応プロセス・ルール作りを行いましたか?

国立 公立 私立 短大 高専 その他 合計
はい 31% 6% 7% 0% 13% 33% 16%
現在作成中 39% 22% 24% 0% 25% 8% 27%
いいえ 30% 72% 70% 100% 63% 58% 57%
回答合計 70 32 89 7 8 12 218

 海外の遺伝資源を利用する場合、海外研究機関との共同研究契約、提供国からの許可の取得、またこれらに付随するABSに関する手続きなどは個人ではなく機関として対応する必要があります(*)。アンケートの結果、大学・研究機関のうち16%で遺伝資源利用の際の機関内プロセス・ルールが決められており、27%が作成中というご回答をいただきました。一方、57%の機関ではまだその予定もないという結果になりました。

 他の対応状況と比較して達成度が低い値になっておりますが、機関内プロセス・ルールは準備や調整に手間と時間が必要なため、現状での数字もやむないと考えております。まずは窓口の設定、現状把握を行い、それぞれの大学・研究機関に相応しい形で機関内プロセス・ルールを作成して下さい。どの部署がどの対応を担当するのか、またこれらを漏れなく潤滑に進めるためにはどのような学内規則が必要かなどについてご検討下さい。なおこの際、すでに先行してABSへの対応を進めておられる大学・研究機関の実例などを参考にされることをお勧めいたします。(参考「大学体制構築ハンドブック」(近日中にバージョンアップの予定)ダウンロードURL: https://idenshigen.jp/abs_tft/dllist/)

*)機関としての対応が必要な内容

  • 海外研究機関との共同研究契約の締結
  • 共同研究契約に含める研究機関間で相互に合意できる条項(MAT: Mutually Agreed Terms)の設定
  • 留学生・海外研究者、およびサンプルの提供国からの持ち出し・日本への受け入れ手続き
  • 提供国政府への許可証(PIC: Prior Informed Consent、研究許可、取得許可、輸出許可など)の申請
  • 持ち込んだサンプル、各種契約書、許可証などの管理(いつ、誰が、どこに、どれだけ)
  • 環境省への利用報告
  • 特許申請、など

問1-5 海外遺伝資源の利用や生物多様性条約・名古屋議定書に関連するセミナー、講習会開催などの啓発・周知活動を大学・研究所で行いましたか?

国立 公立 私立 短大 高専 その他 合計
はい 69% 25% 22% 0% 25% 33% 38%
実施予定 10% 6% 17% 14% 25% 17% 13%
いいえ 21% 69% 61% 86% 50% 50% 49%
回答合計 70 32 89 7 8 12 218

 大学・研究機関のうち38%でABSに関する講習会が実施され、13%が実施予定というご回答をいただきました。一方、49%の機関ではまだその予定もないという結果になりました。

 ABSに関するリスクは、遺伝資源の利用者である研究者・留学生などへの周知によって大幅に低下させることができます。特に注意が必要なのは、ABSについて知識がない(関心を持たない)研究者が何の手続きもせず、海外でサンプルを採取して空港で逮捕されてしまう、などの場合、また留学生が自国で使用していたサンプルを、必要手続きを行わずに持参して研究利用を行い、学位取得・論文発表の直前に問題が発覚する場合などがあります。これらの場合、「知らなかった」では済まない、深刻な問題となりかねません。

 研究者・留学生などへの周知の方法としては、1)ABSに関するウェブサイトの開設、2)ABSに関するパンフレット、チラシ、ポスターの配布、3)ABSに関する学生・留学生指導、4)教員研修や機関内セミナーの開催、が挙げられます。当チームでも積極的に日本全国の大学・研究機関を周り、ABS講習会で周知活動を行なっております。ご希望がありましたら、国立遺伝学研究所ABS学術対策チーム(abs@nig.ac.jp, 055-981-5831)まで、ご遠慮なくご連絡ください。

 また、ABSに関するパンフレット、チラシ、ポスターなども用意しておりますので、当チームまでご連絡下さい。これらの資料については郵送もさせていただきます。ぜひご活用ください。(abs@nig.ac.jp, 055-981-583、パンフレット、チラシ等、ダウンロードhttp://nig.chizai.sakura.ne.jp/abs_tft/database/dllist/)


2. 大学・研究機関における意識調査について

問2-1 生物多様性条約をご存知ですか?

国立 公立 私立 短大 高専 その他 合計
はい 94% 72% 62% 29% 63% 75% 74%
詳細は知らないが聞いたことはある 4% 25% 29% 43% 38% 17% 21%
いいえ 1% 3% 9% 29% 0% 8% 6%
回答合計 70 32 90 7 8 12 219

問2-2 名古屋議定書をご存知ですか?

国立 公立 私立 短大 高専 その他 合計
はい 96% 69% 63% 29% 63% 67% 73%
詳細は知らないが聞いたことはある 4% 25% 28% 14% 38% 25% 20%
いいえ 0% 6% 9% 57% 0% 8% 7%
回答合計 70 32 89 7 8 12 218

問2-3 遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する指針(ABS指針)をご存知ですか?

国立 公立 私立 短大 高専 その他 合計
はい 94% 59% 52% 0% 50% 67% 66%
詳細は知らないが聞いたことはある 4% 28% 26% 29% 50% 25% 20%
いいえ 1% 13% 22% 71% 0% 8% 14%
回答合計 70 32 90 7 8 12 219

 問2-1から問2-3では、生物多様性条約、名古屋議定書、ABS指針の認識状況についてお尋ねさせていただきました。その結果、生物多様性条約、名古屋議定書についてはよく認識されており、ご存知の方はどちらの条約についても70%以上、詳細は知らないが聞いたことがあるというお答えを加えると90%以上の方がこれらの条約について、高い割合で認識されていることがわかりました。一方、ABS指針については認知がやや低め(ご存知の方は66%、詳細は知らないが聞いたことがある方は20%)でしたので、今後、特に周知に努めたいと考えております。

生物多様性条約(Convention on Biological Diversity; CBD):
 1. 生物の多様性の保全、2. 生物多様性の構成要素の持続可能な利用、3. 遺伝資源の取得の機会 及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分 (ABS)を目的に定められた国際条約です。
 URL: http://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/treaty/about_treaty.html

名古屋議定書(Nagoya Protocol):
 生物多様性条約の目的3(ABS)の実効性を高めるための国際ルールで、生物多様性条約の子条約に相当します。利用国での遺伝資源の利用の監視などが定められています。
 URL: http://www.env.go.jp/nature/biodic-abs/nagoya-protocol.html

ABS指針:
 生物資源を適法取得について国際遵守証明書が発行された場合に行う日本国内での手続き。環境大臣への適法取得の報告、国内外への周知、利用に関するモニタリング(取得5年後)、提供国の法令違反の申し立てへの協力が必要となります。
 URL: http://www.env.go.jp/nature/biodic-abs/consideration.html

(参考:パンフレット、チラシ等のダウンロードURL: https://idenshigen.jp/abs_tft/dllist/)

3. 国立遺伝学研究所ABS学術対策チームにおける支援活動について

問3-1 国立遺伝学研究所ABS学術対策チームが、大学・研究所の名古屋議定書への対応への支援を行なっていることをご存知ですか?

国立 公立 私立 短大 高専 その他 合計
はい 94% 59% 61% 29% 50% 82% 71%
いいえ 6% 41% 39% 71% 50% 18% 29%
回答合計 70 32 90 7 8 11 218

 日本の大学・公的研究機関に対して、国立遺伝学研究所ABS学術対策チームが、組織のABS対応体制の構築の支援、実際に海外遺伝資源を取得する際の支援などを行なっております。お陰様で、ご回答いただいた大学・研究機関の71%で、我々の支援活動は認知されていることが把握できました。特に国立大学においては高い認知がありましたが、今後は公立、私立、短期大学、高等専門学校などでも、認知をしていただくように努めてまいります。どうぞよろしくお願いいたします。


問3-2 海外遺伝資源の取り扱い、および大学・研究所の体制構築について国立遺伝学研究所ABS学術対策チームに相談を希望される場合は相談内容の概略をお書きください。

 この問に寄せられました質問については、必要に応じて個別に回答をお送りさせていただきました。今後もABSに関するご質問、ご意見などがございましたら、国立遺伝学研究所ABS学術対策チームまでいつでもご遠慮なくご連絡をお願いいたします(abs@nig.ac.jp, 055-981-5831)。

資料 形式 サイズ DL
参考資料1: 海外遺伝資源の利用における大学対応体制に関するアンケートのお願い PDF 106kb
参考資料2: 海外遺伝資源の利用における大学対応体制に関するアンケート PDF 131kb
参考資料3: 研究機関等における遺伝資源の取り扱いについて PDF 131kb

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