はじめに
1.米国国立衛生研究所の ICBG プログラムのもとでのイリノイ大学とラオス ―ベトナムバイオ探索プロジェクト
1.1 ベトナムのアクセスと利益配分の現状(2015 年現在)
1.2 米国国立衛生研究所(NIH)の ICBG プログラムとは何か
1.3 ICBG プロジェクト申請に必要な事項
1.3.1 バイオ探索研究から得られる利益
1.3.2 利益配分を受ける利害関係者の特定
1.3.3 交渉によって解決すべき事項
1.3.4 プロジェクトに参加する利用研究者の間での相互契約
1.4 イリノイ大学の ICBG ラオス―ベトナムプロジェクトの実際
1.4.1 背景
1.4.2 コンソーシアムの目的
1.4.3 コンソーシア内のアクセスと利益配分に関する予備議論
1.5 コンソーシアムの覚書(MOU)内容
1.5.1 覚書の構成
1.5.2 覚書条項
1.5.3 覚書締結のための重要課題に対する議論と考察
1.6 結論
2. University of California Berkeley の行うフランス領ポリネシアの Moorea バイオコードプロジェクト
2.1 フランス領ポリネシアのアクセスと利益配分規制
2.2 Moorea バイオコードプロジェクト
2.3 Moorea バイオコードプロジェクトのフランス領ポリネシアのアクセス規 制のクリア
2.3.1 国内法令・規則の遵守
2.3.2 先住民社会の事前の情報に基づく同意取得
2.3.3 その他の法規制の遵守
2.4 Moorea バイオコードプロジェクトにおける利益配分契約
2.5 結論
4.ドイツ研究財団(DFG)インドネシアポゴール農業大学、タズラコ大学とド イツジョージアウグスト大学の長期森林生態研究プロジェクト
4.1 インドネシアにおける遺伝資源アクセスと利益配分制度事情
4.2 インドネシア熱帯雨林能力の安定性に関する CRC552 プロジェクト
4.3 CRC552 プロジェクト体制の構築
4.4 CRC552 プロジェクトの法的基盤
4.4.1 基本体制覚書(Memorandum of Arrangement(MoA)
4.4.2 知的財産権契約
4.4.3 データ交換プロトコール
4.4.4 素材移転契約
4.5 プロジェクトの内部関係者間の契約
4.5.1 内部組織
4.5.2 外部委員会組織
4.6 成果の取り扱い
4.7 利益配分
4.8 研究許可取得方法と必要書類
4.8.1 入国前に必要な手続き
4.8.2 研究許可入手後の手続き
4.9 利益配分方法
4.9.1 共同研究機関の利益配分
4.9.2 農民や村民との利益配分
4.10 結論
5.英国ストラスクライド大学とフィジー南太平洋大学のフィジーバイオ探索 共同研究プロジェクト
5.1 フィジーのアクセスと利益配分に関する法制度事情
5.2 英国ストラスクライド大学とフィジー南太平洋大学のフィジーバイオ 探索共同研究プロジェクトの概要
5.3 アクセスと利益配分契約についての考え方
5.3.1 潜在的な権利保持者の取り扱い
5.3.2 遺伝資源の権利関係
5.3.3 伝統的知識の取り扱い
5.4 プロジェクト体制の形成
5.4.1 プロジェクト組織形成と利害関係者の参加
5.5 関係者から事前の情報に基づく同意の取得
5.6 実際の利益配分
5.7 紛争解決方法
5.8 環境保全と持続可能な利用
5.9 結論
名古屋議定書が発効し、徐々に普及し、生物多様性条約の取り組みによって能力開発が進むと予想される。しかし、制度が明確でない、確立されていない国も多いのが現状である。制度が明確でない国でアクセスと利益配分に関する法令を遵守し、遺伝資源を取得して研究利用することは困難である。
多くの提供国で国内法令が整備されつつあるが、あくまで概略を示したもの、法令を解釈したガイドライン等は整備されていない。また、提供国の法令関係者が制度を熟知しているとは限らない。煩雑な手続きとさまざまなトライアンドエラーが、アクセス許可と当事者間契約の取得の長期化を招き、研究者の意欲を削いでいる。提供国での透明性、一貫性のあるアクセスと利益配分制度の確立を望む。
実際に遺伝資源にアクセスし、研究対象素材を取得し、研究に利用する場合、その具体定なアクセスと利益配分の方法は、個々の研究内容によって異なる。
研究対象遺伝資源の範囲について、当事者間あるいは提供国政府との交渉において個別に法令解釈をしなければならない。伝統的知識のように習慣法に基づいている場合は、その習慣法の理解が求められる。
このようにさまざまな関連規則の解釈と研究内容の多様性のために、アクセスと利益配分に関する規則遵守の実行性が困難になっているし、今後ますますこのような作業の量が増大するものと予想される。このような作業は研究者の能力をはるかに超えている。
このような直面する困難を解決し、遺伝資源利用研究を促進するためには何ら かの方策が必要であると考える。名古屋議定書でもこの問題について、第 19 条 契約の条項のひな型あるいは第 20 条行動規範、指針及び最良の実例又は基準を 作り解決の指針を示している。これに基づき、生物多様性条約事務局を中心に 様々な取り組みが実行されている。
このような問題を解決する一つの方法として、名古屋議定書第 20 条にあるよう に、ベストプラクティスを目指す取り組みがある。これは、アクセスと利益配 分経験を共有し、その中からベストな実例を選択することである。
遺伝資源を研究利用した経験のある研究者の体験談、レポートを集積し、それを分析して、最良の例を選択するという試みは有意義である。米国では、生物多様性条約に関する国の方針が示されないため、このような実際の経験を共有・分析、レポート化するのが盛んに行われており、それらを規則化する試みが多数報告されている。これらの集積された情報を更に法制度化するため、法律関係の学術的取り組みも多数ある。
ここでは、それらの集積された論文の中から、アジア地域で行われた遺伝資源利用研究について、アクセスと利益配分に関係する部分を中心に、詳細なレポート内容を提供する。これらを参考にして、遺伝資源へのアクセスと利益配分に関する法令遵守の取り組みを実践していただきたい。
しかし、ここで紹介するのはあくまで過去の事例であって、これから実行する研究活動と完全に一致するものではない。また、紹介したのは実施された時点におけるそれぞれの提供国の国内法令に基づいているため、現在の状況あるは将来の変化に対応しているとはいえない。したがって、記載されたさまざまな手続き等がそのまま実施可能とは言えないので、実際の活動の中では、現在の状況との対比を行うことが必須である。
ベトナムは社会主義国家である。国土は国のものであり、私有という概念はな い。したがって、国土の利用に関しては政府、地方の人民委員会が判断する。 このことは、ベトナム生物多様性法 2008 にも色濃く反映されている。
天然資源環境省が一元的に生物多様性を管理運営する責任を持っている。天然資源環境省から権限移譲された地方省の人民委員会には、生物多様性を管理運営する部署が組織されている。各省の中の各町にも人民委員会があり、そこでも専門の係官が生物多様性を管理運営している。この生物多様性の管理運営の方式は、インド方式に似ている。
対象生物種に応じて対応する政府窓口が異なる。天然資源環境省は絶滅危惧種生物を直接管理している。したがって、ワシントン条約関連の許可は天然資源環境省と直接交渉することになる。その他の生物へのアクセスと利益配分は、管理権限を移譲されている対象地域の人民委員会と直接交渉ことにする。最終的には各省の人民委員会が認可を行い、それを天然資源環境省に報告する方式である。
現在アクセスと利益配分に関する規則は生物多様性法 2008 に記載されている。 更に本法の一部をより詳しくした政令が2010年に作成されている。その中のア クセスと利益配分の手続きについて書かれた条項があるが、それほど詳しくは ない。アクセスと利益配分に関する規則に対する実践者の批判は高く、改正を 検討中である。
遺伝資源を利用して医薬化合物を探索する国立衛生研究所(NIH)のプログラムは、
1 D. D. Soejarto,*,† C. Gyllenhaal,† H. H. S. Fong,† L. T. Xuan,‡ N. T. Hiep,‡ N. V. Hung,‡ T. Q. Bich,§ B. Southavong,# K. Sydara,# and J. M. Pezzuto; “The UIC ICBG (University of Illinois at Chicago International Cooperative Biodiversity Group) Memorandum of Agreement: A Model of Benefit-Sharing Arrangement in Natural Products Drug Discovery and Development”, 2004 American Chemical Society and American Society of Pharmacognosy Published on Web 01/30/2004
Djaja Djendoel Soejarto,et al.,; “Bioprospecting Arrangements: Cooperation between the North and the South” in CHAPTER 16.5, HANDBOOK OF BEST PRACTICES.
International Corporative Biodiversity Group(ICBG と以下略)と呼ば れる。本プログラムの管理の仕組みは図1のようになっている。研究機関が、 ICBG から資金を受けて探索プロジェクトを立ち上げるためには、ICBG の定め たプログラム原則を遵守することが求められ、宣誓書の提出が必要となる。こ の原則を、『NIH の ICBG プログラム資金原資の研究に伴う遺伝資源へのアク セス、知的財産の扱い、利益配分に関する原則』という 2。以下のように 6 つの 原則がある。
原則 1:先住民やその他地域世話役への情報開示と同意
原則 2:すべてのバートナーの権利と責任の明確な指定
原則 3:特許およびその他の法的措置による発明の保護
原則 4:適切な提供国関係者との利益配分
原則 5:独占、共同、公共それぞれの要求を均衡させる情報の流れ
原則 6:適切な国内あるいは国際法、協定、その他の基準の敬意と遵守
ICBG プログラムの下で行われるプロジェクトの組織体制は図1のようになる。 実施機関は中心となる機関がプロジェクト目的にあわせて選定する。製薬会社 などが参加する場合もある。提供国との契約などの法的業務を専門弁護士集団 に委託する場合が多くなっている。契約業務が比較的短期間で取得することが できるからである。
2 “Principles for Accessing Genetic Resources, the Treatment of Intellectual Property and the Sharing of Benefits Associated with ICBG-Sponsored Research”, http://www.icbg.org/program/principles.php.
図 1 NIH の主催する ICBG プロジェクトの管理運営機構
ICBG プロジェクト申請する前に以下の点についての考え方、ポリシーを明確に 持つことが必要である。NIH の ICBG プロジェクトは、バイオ探索研究と呼ば れる主に医薬品を目指した商業開発とみなされるからである。
利益予想をする場合、バイオ探索研究計画の成功確率とライセンス確率の予測が重要である。バイオ探索研究で想定される利益の種類とその成功予想について明確にしなければならない。具体的には下記の項目について考え方を確定する必要がある。
a. バイオ探索研究によって開発される医薬品の販売額予想とそのロイヤ リティ率の予測
b. 先行一時金(アクセス費用、商業開発者が参加する時のサンプル費用)の見積もり
c. 能力開発(機器、訓練、施設)に必要な費用の見積もり
d. 利用側研究所の考えるターゲット疾患の特定と予想される研究開発費用見積もり
e. 環境保全に高い優先性を持つ生物種や生息地域の特定とそれを実行するのに必要とされる費用見積もり
利益配分の対象者には、個人、先住民や地域社会、政府所轄研究所(国立公園、 森林管理、国立植物園等を含む)、非政府系研究所(大学、環境保全開発機関)、 私企業等が含まれる。伝統的医学知識に関係なく、先住民や地域社会は研究過 程での協力に対して短期的及び長期的利益を受けるように計画しなければなら ない。
当事者間の交渉において、次の項目を必ず合意しなければならない。
a. 先住民や地域社会から得られた利用可能な非公式情報から、プロジェク ト内容や関連する素材に関する情報の公式な文書化についての合意
b. 公式文書化された情報について公開可能かどうかの判断と、得られた公式情報の所有権に関する合意
c. 交渉相手である政府あるいは非政府系組織とのアクセスと利益配分の関する相互合意
d. プロジェクトメンバーに対する独立した法的助言の提供方法
プロジェクトに参加する関係者はお互いに相互契約を結ばなければならない。 ICBGプロジェクトでは、研究参加者間の相互合意に対して、包括契約、複数間 契約、二者間契約、三者間契約などのモデルを用意している。 すべての契約モ デルには、研究条項、利益配分条項、知的財産条項、素材移転条項、ノウハウ ライセンス条項、秘密保持条項、研究発表条項、その他が含まれる。
研究者間の相互契約で最も重要な条項は、研究成果の発表に関するルールである。研究成果を学会発表する場合の取り扱い方法や、成果の特許出願する際の取り扱いに合意しなければならない。通常、研究成果取り扱い委員会を設立して、事例毎に検討する場合が多い。
イリノイ大学シカゴ校(UIC)が主宰するベトナム-ラオス ICBG コンソーシア ムの構成員は、イリノイ大学シカゴ校、ベトナムハノイにあるベトナム国立科 学技術センター(NCST)(実際の運営は傘下のバイオテクノロジー研究所(IBT)、 化学研究所(ICH)、生態生物資源研究所(IEBR)が担当)、ニンビンにあるカ クポン国立公園(CPNP)、ラオスビエンチャンにある伝統医学研究センター (TMRC)(旧国立薬草研究所)、英国の GlaxoWellcome(現 GlaxoSmithKline) (GW)である。組織図は図2に示す。
1997年にイリノイ大学シカゴ校(UIC)は米国国立衛生研究所(NIH)傘下の 海外協力機関Fogarty International Center(資金管理者)と意思確認書(Letter of Intent:LOI)を交わして、プロジェクトの申請を行った。プロジェクト計画 については、イリノイ大学シカゴ校の知的財産室と主宰研究者の間で議論され、 イリノイ大学シカゴ校の知的財産室が契約を担当した。
1998年にNIHから許可がおり、正式に研究資金を受け、研究が開始された。プ ロジェクトの実質運営は、イリノイ大学シカゴ校の医薬品科学研究所に設立さ れたProgram for Collaborative Research in the Pharmaceutical Sciences (PCRPS))が行った。
図 2 ベトナム-ラオス ICBG コンソーシアムの構成
イリノイ大学シカゴ校-ベトナム-ラオス ICBG プロジェクトの目的は下記の通 りである。
・ベトナム、ラオスの遺伝資源から医薬品に使う化合物を発見し、それを用い て、癌、AIDS、マラリア、結核、疼痛、アルツハイマー病のような神経疾 患の治療薬を開発
・Cuc Phuong 国立公園とラオスの薬用植物の生物多様性評価を行い、その保 全実施
・協力してくれるベトナム、ラオス地域社会の経済開発、生活向上 ・提供国の協力研究機関の能力開発
プロジェクト形成に当たって、合意を得なければならない重要な項目に利益配分がある。本コンソーシアムでどのような方針で対ベトナム―ラオス交渉に臨むか関係者で議論した。その結果、利益配分の基本的な考え方は、東南アジアの天然物化学に関する1990年開催のアジア地域ワークショップで決定されたい わゆるマニラ宣言に従うことになった。マニラ宣言では、関係国で採取された 植物に由来する医薬品が商業利用された場合、研究機関が商業利用から得た利 益の最低51%が、その植物の起源国にある研究機関に配分されると決定されて いる。本プロジェクトの利益配分の基本方針はマニラ協定に従うことに関係者 内で合意された。
このマニラ宣言に従ってベトナムとラオス側関係者と議論した結果、イリノイ 大学シカゴ校プロジェクトでは、利益配分はマニラ宣言に従って行うことに合 意し、その条項が入った覚書(MOU)が1998年に作成された。その後、ベトナ ムとラオスの関係者に対し、覚書について信頼できる法律家の助言を受けるよ うに推薦した。そのため、ベトナムとラオス側関係者のサインを得るまでに約9 か月を要した。
覚書の詳細は以下に述べる。なお、英国グラクソウエルカムとスミスクライン ンビーチャムの合併に伴い、プロジェクト当初行っていたグラクソウエルカム の天然物探索プログラムが終了となり、2001 年からグラクソスミスクラインン ビーチャムは本プロジェクトから脱退した。
米国政府と契約しているイリノイ大学シカゴ校(UIC)が、本コンソーシアム の運営管理者と位置付けられている。研究資金の参加機関への配分は、グラク ソウエルカムを除き、参加研究機関の間で定められた契約により行われる。
グラクソウエルカムはICBG基金を受けることはないし、また、他のコンソーシ アム参加メンバーへの独自資金の提供も行わないことになっている。しかし、 グラクソウエルカムはベトナム、ラオスの研究者に対する能力開発には参加す る。
覚書第一部
コンソーシアムを構成する関係者の役割の範囲が規定されている。
覚書第二部
コンソーシアムの構成員の協力分野が規定されている。協力分野には研究者の交流、共同研究、共同セミナー開催、研究材料や研究情報の交換、短期学術プログラムへの参加などが含まれている。
覚書第三部
共同研究内容の詳細が記載されている。第三部Aでは、本研究プログラムに至っ た先例、経験が記載されており、特に、中心となる研究者、研究機関の組織構 造やその役割、ICBGプログラムの条件などが含まれる。
第三部Bは、本プログラムの目的が記載されている。目的は、新規な医薬化合物 の発見と開発、ベトナムカクポン国立公園やラオスの薬草の保全と持続可能な 利用、協力地域社会やICBG参加研究機関の経済発展支援となっている。
第三部Cでは、コンソーシアムの目標が定められている。採取植物の選択、対象 疾患の選択、ベトナムカクポン国立公園地域での種子植物の目録作成、活性化 合物を含む植物の大量生産方法、能力開発、保全教育、地域社会の経済開発、 ラオスでの薬草目録とデータベース作成、薬草と地域社会との関係調査、ベトナムとラオスのICBG参加研究機関の人材育成と施設強化などが含まれる。
第三部Dは研究参加メンバーの責任が記載されている。D-1ではイリノイ大学シ カゴ校)の責任、D-2ではNCST等の責任、D-3ではカクポン国立公園の責任、 D-4では伝統医学研究センター(TMRC)の責任、D-5ではグラクソウエルカム の責任がそれぞれ記載されている。
D-6では参加研究機関の共同責任が含まれる。共同責任として、覚書の有効期間、 脱退の条件、最初のスクリーニングに必要な標本の量、構造決定までの再採取 の条件、人材育成のための交流条件、論文発表の要求事項、契約終了後の収集 素材やデータの取り扱い、遺伝資源の共同利用の制限、出版における資金提供 機関への謝辞の掲載要件、紛争の国際仲裁の必要性などが含まれる。
第三部EではNIHの研究資金提供機関の特定が記載されている。
第四部では、本覚書の有効期間、終了、延長、覚書修正の各条件が定められている。
本覚書には5つの附属書があり、署名によって有効になると定められている。 附属書Iでは、イリノイ大学シカゴ校が発見した化合物が、グラクソウエルカム によって開発され商業化された場合についての利益配分案が示されている。ロ イヤリティは関連機関と共にベトナム、ラオスの地域社会にも配分される。
附属書IIでは、グラクソウエルカムが医薬化合物を発見し、開発し、商用化した 場合の長期利益配分計画が示されている。附属書Iと同様、ロイヤリティは、グ ラクソウエルカムを除くコンソーシアムメンバーとベトナム、ラオスの地域社 会で配分される。
附属書IIIでは、コンソーシアムの枠組み内でイリノイ大学シカゴ校の医薬品科 学研究所が発見した医薬化合物を、グラクソウエルカムにライセンスする権利 とグラクソウエルカムの優先実施権を規定している。
附属書IVでは、イリノイ大学シカゴ校の医薬品科学研究所で発見された医薬化 合物をグラクソウエルカムが開発する際のマイルストーン支払を規定している。 マイルストーンは下記の条件をクリヤーしたかどうかによって決定される。
a. スクリーニングした場所はイリノイ大学シカゴ校かグラクソウエル カムが
b. 臨床試験用の化合物が選択決定されたが
c. 第一相、第二相、第三相臨床試験に入ったが
d. 当局の認可を得たが
附属書Vでは、グラクソウエルカムによって発見され、開発され、商業化された 医薬化合物に対するマイルストーン支払とロイヤリティが規定されている。支 払は、特許権、化学構造式、対象疾患(対象疾患はICBGプログラムが関心ある 分野かどうか)などの条件によって決定される。
マイルストーン支払とロイヤリティは、採取された植物から得られた天然物と同様にその誘導体化された化合物に対しても支払われることになっている。
覚書締結までの議論内容と結果に対する考察を記載する。
イリノイ大学シカゴ校が成した有効な発明について、イリノイ大学シカゴ校の知的財産部門が、コンソーシアムメンバーの助言を得て、その発明について知的財産権の所有権の帰属を決定する。
発明者には、コンソーシアムメンバーから選択することができる。所有権に対する疑義は、発見がなされた国の適切な法律に従って解決される。
コンソーシアムメンバーの助言を得て、イリノイ大学シカゴ校の知的財産部門は、対象発明に対する特許権あるいは適切な場合その他の知的財産権を得る。
契約に従い、イリノイ大学シカゴ校の知的財産部門は取得特許の管理とライセンスに責任を持つ。
ICBG プログラムの枠組みの中で採取された植物からグラクソウエルカムが発 明を成した場合、コンソーシアムメンバーの助言を得て、グラクソウエルカム が知的財産権に対する所有権を決定する。
発明者には、コンソーシアムメンバーから構成することができる。所有権に対する疑義は、発見がなされた国の適切な法律に従って解決される。
コンソーシアムメンバーの助言を得て、グラクソウエルカムは対象発明に対する特許権あるいは適切な場合その他の知的財産権を得る。グラクソウエルカムは取得特許の管理とライセンスに責任を持つ。
コンソーシアムメンバーは、グラクソウエルカムが知的財産権を申請することができるように、適切な情報(サンプルの起源国、分類同定などを含む)をグラクソウエルカムに提供する。
ICBGプログラムの枠組みの中で採取された植物からグラクソウエルカムが発 明を成した場合、グラクソウエルカムは特許出願する権利を得るが、グラクソ ウエルカムは特許の共有権者の決定についてコンソーシアムメンバーに助言を求めなければならない。
ICBGプログラムの枠組みの中で採取された植物から得られた化合物のラクソ ウエルカム開発が進捗した場合、グラクソウエルカムはコンソーシアムメンバ ーに報告する義務を負う。
イリノイ大学シカゴ校のベトナム―ラオスプロジェクト契約には事前の情報に基づく同意に関して2つの条項がある。
(1)植物遺伝資源の採取と利用の場合の事前の情報に基づく同意
(2)伝統的医学知識や伝統的植物を利用する場合、それらの伝統的知識保持者あるいは地域社会の事前の情報に基づく同意
この条項に従い、ベトナムでは、事前の情報に基づく同意(採取許可)をベトナム政府と遺伝資源とその派生物の所有者から、ICBGプロジェクト提案に記載 した研究活動の実行前に取得した。
更に、ICBGプロジェクトで利用する目的で、植物標本やその抽出物の採取と輸 出の許可を得る交渉をベトナム政府と行うために、ベトナム政府機関やカクポ ン国立公園(CPNP)を通じてICBGプロジェクト主催者であるNIHが仲介役を 果たした。
ラオスでは、ラオス政府の事前の情報に基づく許可、および遺伝資源と派生物 の所有者の事前の情報に基づく許可を得た。その後、ラオス伝統医学研究セン ター(TMRC)が国内各地から植物標本を採取する活動を行った。ラオス政府 の事前の情報に基づく許可は収集活動開始前に入手することは必須であった。
ベトナム政府とラオス政府との間では、それぞれの国の遺伝資源と派生物についてそれぞれの国が所有権を持つことを確認している。
ベトナムでは、ICBGプロジェクトに記載された研究を遂行するにあたり、カク ポン国立公園の薬草の医学やその他の利用に関する伝統的知識データを記録 したり利用したりするため、伝統的知識保有者および地域社会から、ICBGプ ロジェクト参加の研究者が事前の情報に基づく許可を取得した。
ラオスでは、ICBGプロジェクトに記載された研究を遂行するにあたり、ラオス の薬草の医学データやその他の利用に関する伝統的知識データを記録したり 利用したりするため、伝統的知識保有者および地域社会から、ICBGプロジェ クトの研究者は事前の情報に基づく許可を取得した。
締結している覚書の附属書IとIIにロイヤリティ配分の仕組みが記載されている。 イリノイ大学シカゴ校がバートナーであるグラクソウエルカムから受け取った ロイヤリティは、経費を差し引いた後二等分される。これは、マニラ宣言に基 づく取り決めである。
半分は、信託基金として、遺伝資源の起源国の地域社会に配分される。信託基金はベトナム自然保全基金とラオス生物多様性基金に分割されている。両基金共、遺伝資源の保全、能力開発、生物多様性研究、地域社会向上に使われる。
残りの半分は、共通基金と称され、関係している共同研究機関、発明者、イリノイ大学シカゴ校運営に配分される。この配分には2つのシナリオがある。イリノイ大学シカゴ校の研究者が医薬化合物を発見し、製薬会社が開発と商業化を行った場合と、製薬会社が発見、開発、商業化を行った場合(この場合イリイ大学シカゴ校研究者は特許権を持たない)である。
最初のイリノイ大学シカゴ校の研究者が特許権を持つ場合は、共通基金の配分方式は以下のようになる。
(1)発明者に共通基金に配分されたネットロイヤリティの 20%を将来のイン センティプとして配分される
(2)ベトナム―ラオス共同研究機関には共通基金に配分されたネットロイヤ リティの 10%を研究協力として配分される
(3)イリノイ大学シカゴ校運営組織には共通基金に配分されたネットロイヤ リティの 20%をプロジェクト運営と法的サービスのために配分される
第二のイリノイ大学シカゴ校研究者が特許権を持たない場合、共通基金の配分方式は以下のようになる。
(1)ベトナム―ラオス共同研究機関には共通基金に配分されたネットロイヤリティの20%を研究協力として配分される
(2)イリノイ大学シカゴ校の研究室には共通基金に配分されたネットロイヤリティの10%を研究協力として配分される
(3)イリノイ大学シカゴ校運営組織には共通基金に配分されたネットロイヤリティの20%をプロジェクト運営と法的サービスのために配分される
2002年にロイヤリティ配分の見直しが行われた。その結果、ベトナム―ラオス 共同研究機関は30%に増額され、イリノイ大学シカゴ校運営組織は10%に減額さ れた。その後、このロイヤリティ配分の仕組みはプロジェクトの最後まで維持 された。
図 3 イリノイ大学シカゴ校(UIC)が発見した化合物を Glaxo が開発した場 合のロイヤリティ配分
注意書き:本配分案において、a)米国に収入として残る金額は、 直接費用$30,000+UICの取り分$94,000+UIC研究室 PCRPSの取り分$11,750 +発明者の取り分$70,500となり、計$206,250(41.25%)となる。もし、UICの研究者のみが 発明者の場合、発明者の取り分が$94,000となり、計$229,750 (45.95%)となる。 b) ベトナムとラオスに配分される金 額は、信託基金の取り分$235,000 + ICBG 参加研究機関の取り分$35,250、+発明者(UIC以外)の取り分$23,500)と なり、計$293,750(58.75%)となる。もし、発明者がUICのみの場合、ベトナムとラオスの取り分から発明者の取り分 が引かれて、計$270,250(54.05%)となる。
ICBGの覚書の条項に、地域社会向上に貢献するためのイリノイ大学シカゴ校の 責任が規定されている。イリノイ大学シカゴ校はICBGプログラムメンバーと協 力して、ICBGプログラムから得られる利益を覚書に決められた条件に従って配 分する義務を負う。
ベトナムとラオスの共同研究機関の責任は、地域社会貢献条項に決められてい る。ベトナムの関連研究所は、ICBGプログラムの主要研究者を補助して、研究 参加してくれるベトナムの先住民や地域社会を同定する役割と、信託基金の地 域社会への基金の使用について提案する役割がある。
また、これらの共同研究機関は、遺伝資源保存を行っているベトナムの機関を 同定し、その機関を援助することを手助けする役割を持つ。ラオスでは、ベトナムと同様な条項があり、伝統医学研究センター(TMRC)がその中心的役割 を担うことになっている。
ICBG プロジェクトの成功の鍵は、win-win の精神であり、生物多様性を保護し、 医学的に有用な化合物を発見・開発し、その成果を公正かつ衡平に配分するた めになすべき目標を共有していることにある。
ICBG プロジェクトを形成するために、多層の複雑な要求事項を解決しなければ ならないが、最も重要なのは契約事項と考えられた。ICBG プロジェクトには 8 つのグループが参加し、それぞれ異なった内容のモデル契約を持っている。し かし、共通する特徴は、知的財産権、情報に基づく合意、利益配分の課題にグ ループが満足したことである。
ICBG プロジェクトは、先住民や地域社会を巻き込むうえでユニークな試みを行 った。このような先住民や地域社会を巻き込んだ試みを効果的に行うためには、 地域社会レベルでの、先住民、農民、無教育者などの協力が必須である。
ICBG プロジェクトのように、環境保全だけでなく地域社会の経済開発に住民の 参加を促しているプロジェクトは少ない。ICBG プロジェクトでは医療提供、教 育、地域経済、保全、開発などの活動に地域住民を参加させている。これは、 どのような利益が地域社会に最適であるのかを判断するのによいヒントを与え てくれる。
通常の地域開発プロジェクトでは、このような地域農民はしばしば無視されがちであるし、プロジェクトの阻害物として扱われる場合が多い。このような状況では、地域農民は自分の意見を言う機会がなくなる。そうすると、このような試みは、政府主導の外から与えられたものとなり、内部の協力者を失う結果となりやすい。そうなると、真の利益配分は行われないという結果になる。
ICBG プロジェクトは、ミクロレベルで国の環境政策を成功裏に実践するよいモ デルを提供した。すなわち、医療アクセスシステムを向上したり、新しい経済 開発を実践したり、保全システムを開発したりする最適の方法を明らかにする ことができた。特に、地域社会の独自の伝統的方法が保全や経済開発に直接的 あるいは間接的に貢献する場合は特に顕著である。
ベトナムやラオス政府は、地域社会の生活向上に多くの取り組みを行っている が、ICBG プロジェクトは、地域社会に存在する権力団体や協議団体と密接に付 き合っているので、地域社会の実生活についてのデータを取得したり、地域社 会との付き合いかたを示したりするモデルとなり得る。
地域社会は、自分が利益関係者であるとの意識が最近高まり、保全、経済、発展、医療供給などの努力の結果に高い関心を寄せている。このことは、国家政策の地方政府での実践過程に直接地域住民が関与するという実績から理解できる。そのため、地域住民では、単に利益配分を受動的に受けるというよりは、自身が積極的に実行過程に関与することに目覚めている。その結果、地域住民は、地域プロジェクトに積極的に参加し、その参加に価値を見出している。
ICBG プロジェクトは、地域レベルでの生活向上の唯一のモデルではないかもし れないが、現時点ではベストプラクティスを提供するモデルとして利用するこ とができる。したがって、ICBG プロジェクトは、利用国と提供国の間の経済格 差問題の解決に対してより広い知識基盤を与えていると確信する。
フランス領ポリネシアはフランス領であり、フランスは生物多様性条約の加盟 国である。したがって、フランス領ポリネシアでは生物多様性条約と提供国の 国内法令と規則を遵守する義務がある。2004 年のフランス組織改定法 4第 14 条 により、フランス領ポリネシアは自治権を確立することになり、フランス領ポ リネシアの環境に関してフランス領ポリネシア地方政府が権威ある当局となる。
したがって、生物多様性条約に従って、フランス領ポリネシア地方政府が遺伝 資源へのアクセスと利益配分に関する規則を定め、運用することができる。2006 年にアクセスと利益配分法案がフランス領ポリネシア地方議会に上程されたが、 未決状態にある。したがって、現在フランス領ポリネシアの生物多様性戦略は まだ決められておらず、明確なアクセスと利益配分規則は存在しない。
しかし、いくつかの保護カテゴリーに入る遺伝資源は、アクセスと利益配分に 関する規制以外のフランス領ポリネシアあるいは国際的な規則によって規制対 象となる。それは利用する遺伝資源と利用研究活動の種類に依存する。つまり、 利用対象の遺伝資源が、フランス領ポリネシアでのみで特別に保護されている ものと、国際的な取引が CITES によって規制されている場合である。これらの 保護された種を利用する場合は許可申請を行わなければならない。
フランス領ポリネシアが独特に規制している種の収集と輸出は独自の規制 5に 従って行う必要がある。許可権限のある権威ある当局は、フランス領ポリネシ アの閣僚会議である。独自の保護規則では、規制される種はカテゴリー分けさ れている。カテゴリーA に属する種は、いかなる時も事前の許可なくして収集 と輸出は禁止されている。カテゴリーB に属する種は、特別な繁殖地や限定され た期間で、事前の許可なくして収集と輸出は禁止されている。
3 Sabine Brels, Legal Analyst, Moorea Biocode Project, UCB-Gump Station, French Polynesia; “ ABS aspects of the Moorea Biocode Project”
4 Loi organique n° 2004-192 du 27 février 2004 modifiée portant statut d’autonomie de la Polynésie française
5 “Délibération n° 95-257 AT du 14 décembre 1995 relative à la protection de la nature” http://www.lexpol.pf/LexpolAfficheTexte.php?texte=182174
閣僚会議は、収集と輸出する遺伝資源が環境に影響ない条件で利用され輸出されることが研究目的に記載されている場合に限り許可をすることができる。
いわゆるワシントン条約(CITES)によって規制されていている種は、CITES の規制 6に従って取り扱う。許可権限のある当局は、フランス領ポリネシア高等 弁務官である。CITES の附属書 I に記載されている種は、事前の輸入国の許可 と輸出あるいは再輸出国の両許可が必要である。附属書 II に記載されている種 は、事前の輸出あるいは再輸出国の許可が必要である。
CITES によれば、もし輸入国の管理当局に登録されている研究者や研究機関の 間で非商業的貸し出し、寄贈、交換が行われる場合には、許可要件の対象外で ある。許可、認可、特例の申請請求はフランス領ポリネシア地方政府環境局に 対して行う。
上記保護された遺伝資源以外の輸出については、宅急便で行うことができるが、 その輸出の際に添付する書類が必要である。自身の手荷物で持ち帰る場合にも 同様の書類が必要である。その書類とは、輸出する遺伝資源のリストと研究者 の Protocole D’Acueil と呼ばれる研究許可証のコビーである。アルコール標本は 輸出できないし、標本の価値をお金に換算することが求められる。金銭的価値 は不明の場合が多いので、通常コンテナーあたり 10US$とすることを薦めてい る。
Moorea 島はフランス領ポリネシアに属する島である。この島に生息する生物の DNA バーコード解析を行い、データベース化するプロジェクトが Moorea バイ オコードプロジェクトである。2007 年から 2011 年まで行われた。
本プロジェ クトは、University of California Berkeley (UCB)と大学所属の Natural History Museums (BNHM)が主宰し、Centre National de la Recherche Scientifique、Ecole Pratique des Hautes Etudes (CNRS – EPHE)、Association for Marine Exploration、Florida Museum of Natural History (FLMNH)、 Smithsonian Institution (SI)、Institut de Recherche pour le Développement
6 International treaty regulating only cross-borders exportation of species:
Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora (CITES) http://www.cites.org/eng/disc/text.shtml
(IRD)、Muséum National d’Histoire Naturelle” (MNHN)が参加している。
University of California Berkeley (UCB)が Moorea 島に設置した Gump Station が行う。
図 4 フランス領ポリネシア Moorea バイオコードプロジェクトの体制図
本プロジェクトは Moorea 島のあらゆる動物、植物、糸状菌類など微生物以外 の種について遺伝子マーカー解析と形態観察同定を 2007 年より 2011 年までの 間に行う。その結果を、世界の生物学者が利用可能な形でデータベース化する。
Moorea バイオコードプロジェクトで利用する遺伝資源はフランスではなくフ ランス領ポリネシアの主権的権利が及ぶ。なぜなら、2004 年の自治法により、 フランス領ポリネシアは環境関連の事項に対して法的権威ある当局となるから である。
したがって、フランス領ポリネシアは独自のアクセスと利益配分に関する規制 を作ることができる。しかし、2006 年に発表された法案があるものの、正式な本プロジェクトは Gordon and Betty Moore 基金から 520 万米ドルの研究資金を 3 年間で受けている。本プロジェクトの主な研究体制は下記のようになる。
遺伝資源の提供者として、フランス領ポリネシア地方政府と Moorea 島の先住民地域社会がある。利用者側の窓口業務は、
アクセスと利益配分に関する法律はフランス領ポリネシア地方政府には存在し ない。また、フランス本土にもアクセスと利益配分に関する法令は 2007 年現在 存在しない 7。
このような場合、直接生物多様性条約の条項を直接本プロジェクトに適用する ことができると考えるのが自然である。あるいは、南太平洋諸国のアクセスと 利益配分に関する地域戦略を適用することも可能であるが、2007 年現在そのよ うな地域戦略は存在しない。国際的なアクセスと利益配分に関する規制を作る ことが重要な課題である。
Moorea バイオコードプロジェクトは、遺伝資源へのアクセスに関してフランス 領ポリネシア地方政府の研究許可の対象となる。Moorea 島に University of California Berkeley (UCB)が設置し、運営している研究施設 Gump Station は、 本プロジェクト開始以前からフランス領ポリネシア地方政府と包括的研究協力 協定(MOU)を締結しており、2007 年にそれを延長改正している。本プロジ ェクトでは、これが生物多様性条約で規定されている事前の情報に基づく同意 (PIC)と考えている。
また、欧州連合以外から本 Gump Station に来て研究する研究者は、フランス 領ポリネシア地方政府の特別の研究許可が必要であり、Protocoles d’accueil と 呼ばれている。これも研究者に対する事前の情報に基づく同意(PIC)であると 考えられる。
先住民地域社会(ILCs)とは、地域社会毎にバートナーシップを締結している。 University of California Berkeley (UCB)が、地域社会組織Te Pu Atitiaと包括 協力契約交わしているが、これは先住民や地域社会との間の事前の情報に基づ く合意(PIC)と考えている。従って、University of California Berkeley (UCB) の管理運営下にある本プロジェクトは、フランス領ポリネシア地方政府の権利 のみならず先住民地域社会の遺伝資源とその利用に関する権利を尊重している ことになる。
一般的に科学研究者が先住民や地域社会と情報交換することは難しいとされている。特に文化的、言語的なハードルがある場合は更に困難になる。この点を
7 2016 年 1 月現在、フランス国全土に拘束力のある生物多様性法案が審議されている
考慮して、University of California Berkeley (UCB)は、タヒチの非営利組織で ある Te Pu ‘Atiti’a とバートナーシップを形成し、Atitia センターを設立した。 Te Pu ‘Atiti’a とは、主に学校の先生を含む地域教育者や伝統的知識専門家から 形成されている。
University of California Berkeley (UCB)と Te Pu ‘Atiti’a 代表者と協力協定が 2002 年に締結し、更に 2008 年に改訂した。Atitia センターの建設費は、いく つかの財団の寄付のみならず地域社会や個人からの寄付によって調達された。
Atitia センターを通じて Gump Station は、海洋や陸上生物多様性、伝統的知 識、文化、自然と人間の共生相互作用に関する共通の教育や研究プログラムを 行っている。これがいわゆる利益配分と考えられる。
Atitia センターは、教育活動においても影響を及ぼす機会を提供しており、訪 問研究者や学生が、地域専門家から多くのことを学ぶことができるようになっ ている。この交流を通じて、共同研究プログラムが発展しており、共通目的で あるポリネシアの生物と文化遺産を記録し、促進し、保全する共通目的に向か って進んでいる。
保護されている生物種に関するアクセス規制も遵守している。CITES 関連では、 リストに記載されている種に対する輸入/輸出許可を取得している。また、認定 研究機関としてまた研究者としての特別例外措置も受けている。
フランス領ポリネシアでは、地方保護種について特別リストが存在し、アクセ スと輸出が規制されている。本プロジェクトでは、参加研究者は CITES の認証 を受けており、地方保護種のアクセスについては ex situ コレクションの許可を 得てから行うことになっている。
Moorea バイオコードプロジェクトでは、生物多様性条約の原則と精神に従い、 アクセスと利益配分に関する規則を自主的に遵守していくことを目的としてい る。
生物多様性条約の定める主たる義務事項を考慮した上で、フランス領ポリネシア地方政府にアクセスと利益配分に関する法令が存在しないにもかかわらず、生物多様性条約の義務事項を自主的に遵守する枠組みを織り込んだ特別な契約を結んでいる。ここで強調したいのは、アクセスと利益配分に関する制度を持たない国においても、生物多様性条約の精神を尊重した自主的な契約を締結したことである。
本バイオコードプロジェクトはフランス領ポリネシア地方政府と利益配分に関 する自主的な覚書(MOU)を締結した。その中で重要なのは公正で衡平な利益 配分を合意していることである。
本覚書には 4 つの原則がある。本バイオコードプロジェクトで利用する標本や DNA は非商業目的でのみ利用できる。商業利用目的の利用にはフランス領ポリ ネシア地方政府との追加的な拘束力のある契約が必要である。本バイオコード プロジェクトメンバー間での標本の移動を促進する。本プロジェクト以外の誠 実な第三者への移動を可能にすることが基本である。
フランス領ポリネシア地方政府との覚書には、素材移転に関する合意を含んでいる。本覚書において素材移転は非商業研究のみに許可される。商業研究に利用される場合、強制力のある追加契約がフランス領ポリネシア地方政府と当該研究機関との間で必要となる。更に、どのような形の研究発表や特許出願においても、研究素材がフランス領ポリネシアから取得したことを公表しなければならない。
本プロジェクトとフランス領ポリネシア地方政府は、研究結果を公開し自自に利用できるようにするため、利用した遺伝素材を移転する覚書を締結した。本覚書は、生物多様性の非商業研究のためにフランス領ポリネシア地方政府がモデル素材移転契約を作成する道を開いた。更に、フランス領ポリネシア地方政府が、生物多様性保存目的にために非商業研究に関するアクセスと利益配分制度を創設するきっかけとなった。
非商業研究に限定した素材移転を含む覚書を締結することによって、本バイオコードプロジェクトメンバーは、論文発表等を通じて自由に研究結果を公表することができるようになった。
非拘束力の本覚書は、正式の素材移転契約ではない。しかし、本覚書は、アクセスと利益配分に関する法的制度を実行していない提供国の自主的な行動規範の見本となり得ると考えられる。本覚書によって、利用した遺伝素材を第三者の再現性研究での自由な利用を行うための標準素材移転契約の創造に役立つと考えられる。
Moorea バイオコードプロジェクトをフランス領ポリネシア地方政府と米国 University of California Berkeley (UCB)が組織する国際コンソーシアムとの 間で行った。両者で合意した覚書により、アクセスと利益配分に関する契約を 締結した。それは利害関係者の権利を自主的に尊敬した結果である。更に、非 商業研究に対する素材移転契約の見本となるような覚書も含まれている。
アクセスと利益配分に関する規制や戦略がないフランス領ポリネシア地方政府とのアクセス許可の取得は、生物多様性条約で義務となっている事項を自主的に解決することによって実行した。
本プロジェクトにおいて確立したアクセスと利益配分に関する取り組みは、生物多様性条約の要求事項を満足したものであると考える。本プロジェクトで締結したさまざまな契約は、将来創設されるアクセスと利益配分に関する規制に対応できると考えられる。また、フランス領ポリネシア地方政府のアクセスと利益配分に関する規制制度の確立に貢献できる事例となったと考えられる。
また、先住民や地域社会の権利を尊重するために、包括協力契約を締結し、情報交換の場として先住民センターを建設した。この取り組みにより、研究者が先住民や地域社会とモデル素材移転契約を開発することができ、また先住民センターを通じて利益配分が衡平に行えるようになったと考えられる。
インドネシアは名古屋議定書に批准している。しかし、名古屋議定書に基づくアクセスと利益配分に関する特別の制度はなく、現在政府内で検討中である。
インドネシアで研究を行う外国人は多くの複雑な規制を遵守し、それに従って進めなければならない。重厚な共同研究体制の構築と複雑な契約が必要になり、個人、小規模の共同研究、あるいは短期の共同研究は、インドネシアでは難しいという批判がある。
1990 年代後半まで、政府系の研究機関がそれぞれ独自に研究許可を発行してい たし、大学は外国の研究機関と直接共同研究を行う権利を与えられていた。し かし、この制度は責任体制があいまいであり、多くの混乱をもたらした。本 CRC552 プロジェクトにおいても、初期には高等研究機関の行うのと同様の手 続きを行い、ビザ、滞在許可、研究許可などを取得していた。
公式には、1993 年の大統領令 100/1993 により、インドネシア政府は研究許可 制度に公式の法的基盤を与え、インドネシア国内開発の利益を増加させる手段 を提供した。インドネシア科学院(LIPI)は唯一の研究許可機関となり、透明 性の高いオンライン制度を 2005 年に確立した。しかし、2007 年に大統領令 41/2006 が発効し、研究許可の権威ある当局は科学技術省に移管された。
現在、科学技術省の海外研究許可チームが研究許可制度を運用している。約 30 の政府研究機関がその研究テーマに応じて研究許可プロセスに参加している。 参加している政府研究機関は賛否の投票権を持っているため、地域社会の参加 がないとか安全保障上問題ありという理由で、しばしば研究許可が拒否された り、延期されたりしやすい。
8 Wolfram Lorenz, Aiyen Tjoa (2015); “Researcher’s experiences in ecosystem research: A case study of Indonesia” in “Research and Development on Genetic Resources Public Domain Approaches in Implementing the Nagoya Protocol” Edited by Evanson Chege Kamau, Gerd Winter, and Peter-Tobias Stoll, Loutledge, UK, HB: 978-1-13-885861-9
インドネシア外の大学、研究機関、企業、個人がインドネシアで研究する際には、研究技術高等教育省(RISTEK)の発行する研究許可証(Research Permit)が必要である 9。研究許可証の取得をもって、政府の事前の情報に基づく同意とすると考えられている。研究許可証の申請手続きは、オンラインで行う。インドネシア入国後、まずは研究技術高等教育省で研究許可証の交付を受け、さら に各機関で必要な諸手続きを行い、その後研究が開始できることになる。
研究許可の具体的な手続きや必要書類等は、研究技術高等教育省の外国研究許可事務局が発行する、研究許可取得ガイドを参照するのがよい(ツールキットIV:クイックリファレンスチャート)。研究許可事務局でのオンライン申請は別紙サイト 10を参照されたい。研究許可の審査は、研究許可委員会代表者(TKPIPA) によって行われる 11。本委員会は下記利害関係者から構成されている。
図 5 インドネシア研究許可委員会構成
研究許可委員会の審査判断基準として以下の点が挙げられている。
・インドネシアで行う研究が商業研究なのかあるいは非商業研究なのか
9 Law (UU) 18/2002 – National System of the Research, Development and Application of Science and Technology(国内法)
Gov. Reg. (PP) 41/2006 – Permit to Conduct Research and Development Activities for Foreign Universities, Research and Development Institutes, Companies and Individuals in Indonesia(政府規 則)
Gov. Reg. (PP) 47/2009 Type and Rate of Non Taxation State Revenue Prevailing in the Ministry of research and Technology(政府規則)
Ministry. Reg. (PP) 8/2007 – Reporting Research Result Conducted by Foreign Universities, Research and Development Institutes, Companies and Individuals(省庁規則)
10 http://frp.ristek.go.id
11 Ministry. Reg. (PP) 9/2006 – Coordinating Team, Monitoring, and Sanction on Implementation of Research Activities Conducted by Foreign Universities, Research and Development Institutes, Companies and Individuals.(省庁規則)
・アクセスと利益配分契約は必要ないのか
・サンプル収集費は必要ないのか
・インドネシアにおける研究施設(オフィススベースなど)の共有があるのか
・研究推進者が特定されているか
インドネシア熱帯雨林能力の安定性に関する共同研究 CRC55212プロジェクト は、ドイツゲッチンゲンのジョージアウグスト大学(ゲッチンゲン大学)とイ ンドネシアのポゴール農業大学とタダルコ大学の長期的大規模な多分野にまた がった共同研究プロジェクトである。
CRC552 プロジェクトの目的は、インドネシアの社会経済開発、熱帯雨林保全、 生物多様性保全である。3 期に渡る連続期間の目標は、熱帯雨林マージンの安定 性に貢献要因と安定性の工程を解析することである。
CRC552 プロジェクトはドイツ研究振興協会(DFG)13の研究資金によって実 行された。100 人以上の研究者が世界から集まり、2000 年 7 月から 2009 年 6 月4つのグループに分かれ 15 の研究テーマを行った。研究は中央スラベシ島の ロアリンデュ国立公園の近隣で行った。
ドイツDFGの資金援助によるゲッチンゲン大学、インドネシアポゴール農業大学とタダルコ大学が、CRC552 プロジェクトの下記研究組織を形成した。
12 The Collaborative Research Centre CRC 552, “Stability of Rainforest Margins in Indonesia”
13 http://www.dfg.de/
図 6 CRC552 プロジェクトの研究管理体制
国際共同研究では、インドネシア側研究機関と海外研究機関の間で対等な協力体制を構築することが重要と考えられた。しかし、インドネシアのタダルコ大学は海外研究機関との共同研究経験者が少なく、特に研究管理能力が不足していた。しかし、ポゴール農業大学は国際共同研究経験があり、管理体制構築には重要な役割を果たした。
成功のための秘訣として、共同研究機関間で同じ将来のビジョンを共有することが平等な対等関係を構築するのに重要と考えられる。個別のバートナー間では同等の能力を持つことが次に重要であることが明らかになった。
しかし、現実には同じ能力を持った者同士で共同研究を行うことは稀であるので、どのようにして能力レベルを合わせるのか、あるいは教育・訓練するプログラムを作って能力向上をどのように図るのか大きな課題である。能力レベルが両者で異なる場合、長期的に上下関係ができてしまい、自由な対等な研究は望めない。特に、子弟関係にある場合はどのようにしてインドネシア人の弟子の能力を向上させるかが重要な課題である。
CRC552 プロジェクトは名古屋議定書が合意される前に開始されたし、ドイツ 研究振興会のガイドラインも存在しなかった。そこで CRC552 プロジェクト管 理機構が、実際の組織運営のための先進的な法的文書を自主的に作成した。
その結果、CRC552 プロジェクトの共同研究は、基本的に下記の法的文書に基 づいて構築されている。
a) Memorandum of Arrangement (MoA)
b) Agreement on Intellectual Property Rights (IPR) c) Protocol of Data Exchange (PDE)
d) Material Transfer Agreement (MTA)
基本体制覚書は、プロジェクト実施のための管理側面を明確にするために作ら れた。それには、共同研究機関の貢献のありかたや義務と権利について明らか にしている。基本体制覚書はインドネシア国務大臣の承認を受けており、イン ドネシアで実施する最も強力な地位を得ている。
基本体制覚書にはインドネシア政府が指定している一般的な知的財産権条項が 含まれている。この一般的知的財産権条項は、更にプロジェクト内の共同対策 グループによって下記のように具体化された。最終的な知的財産条項には素材 移転契約(MTA)などの契約条項も含まれている。また、基本体制覚書には共 同研究管理組織に関する法的問題を解決する手段も盛り込まれている。
基本体制覚書の知的財産権条項は、その後プロジェクト内にできた合同対策グループによって知的財産権契約に発展した。この契約で新しく取り入れた点は、ドイツ側の研究利用から生じる可能性のある経済的利益に関してドイツ側が権利放棄している点である。すなわち、インドネシア側は共同基礎研究から生じるあらゆる結果を自由に利用する権利を与えられたことになる。これは、両国の信頼関係を構築する上で重要なポイントと考えられる。
本プロトコールは、プロジェクトメンバーによって創造されたデータの利用、交換、保存の枠組みを示している。これによって、天然資源に関連するインドネシア側の権利とプロジェクト参加者の科学的努力と結果に関する権利が完全に尊重され正式に認識されることになった。
共同研究が終了した時点で、創造されたデータベースはすべてインドネシア科 学院(LIPI)のサーバーへ移転されることも決定されている。これはインドネ シア政府の方針に基づくものである。
CRC552 プロジェクト開始当時、インドネシアとドイツの間で素材の移転を行 う明確な方式は、インドネシア側の研究コミュニティの間ではなじみがなかっ た。CRC552 プロジェクトが作成した素材移転契約は、インドネシア政府当局 の注目を受け、以後の国際共同研究の際に利用できる標準契約とされた。また、 インドネシアの高等教育機関の国際共同研究プロジェクトの素材移転契約の開 発のプループリントに使われることになった。このように、優秀な契約は以後 の契約の際の見本として採用される場合が多い。
インドネシアとドイツの研究機関間で協力体制組織が形成されると、内部関係者組織と外部委員会組織が形成された。内部関係者組織の間では、種々の組織体制や取り決めが開発され、実行された。
図 7 共同研究のための外部機関と内部組織の体制と契約
内部組織内では下記の体制と契約が必要であった。
1. MOU(包括共同研究覚書)
2. MOA(基本体制覚書)
3. Joint Management Board(合同管理委員会)
4. Coordination offices(共同事務所)
5. Counterpart agreement (実際の研究者間の研究契約)
副プロジェクトリーダーとプロジェクトスタッフ(野外実験室スタッフ、データ収集者など)の間の契約である。フィールドワークの費用、ミーティング参加費などの費用を決める。スタッフは論文やデータの著者になることは習慣としてない。
6. MTA(素材移転契約)
7. Protocol of Data exchange(データ交換プロトコール)プロジェクトの合同データベースには、参加者全員の平等なアクセ スが可能であり、プロジェクト終了後はインドネシア科学院(LIPI) に移転する。
8. 出版委員会
外部委員会組織は、主に外部機関との対応を行うのが任務である。特にプロジェクトを代表して、政府の認可機関から許可を取得することが重要である。
1. 政府機関からの研究許可、VISA発給、MOU、MOAの締結
2. 研究を実施する地域の政府機関からアクセス許可Simaksiの入手
3. 政府機関からの輸出許可の入手
非商業研究であっても、インドネシアは金銭的利益を得られることを期待している場合が多い。インドネシアでは、一般的に非商業研究契約は完全な契約とはみなされていない。何らかの金銭的利益をインドネシア側に用意する契約が必要になる可能性が高い。非商業研究でどのように金銭的利益を引き出すか事前に考えておく必要がある。
共同研究で得られたデータは、すべて終了後 5 年でインドネシアのものになる ことが契約の条件である。これは、データ共有という問題が起こる可能性があ る。やはり、長期の大規模共同研究で得られたデータも膨大になる可能性が高 いので、広く公開で使えるようにすることが望ましいのではないかという意見 が出された。
インドネシアではアクセスと利益配分に関する規制は現在ない。インドネシア人以外の研究者がインドネシアで研究を行う場合のみ研究許可が存在する。この場合、インドネシア研究者がインドネシアの遺伝資源を国外に持ち出して外国で研究する場合、指導教官は研究許可が必要か明確でない。現在導入検討中のアクセスと利益配分規制の中で、取り扱いを議論することになる。しかし、金銭的利益に関するインドネシアの考え方を変えなければ、規制がハードルの高いものとなる可能性がある。
長期で大規模な共同研究を実施するには、組織、手続きが複雑すぎて、研究を実施する研究者には負担が大きい。大学を挙げた共同研究しか認められないのではないかという意見がある。
1993年発効の大統領令100/1993で導入された研究許可方法と必要書類はそれ以 後あまり変化していない。研究許可は研究者個人に対して与えられるもので、 グループや研究機関に与えられるものではない。この点は、研究計画を作成す る上で重要なことである。なぜなら、プロジェクト参加の外国人研究者すべて が研究許可を取らなければならないからである。
研究許可を得るためには、入国以前に必要なことと入国後に必要なことがある。
研究許可を申請するために、入国前に下記書類を用意しなければならない14。
1. A formal letter of request
2. Copies of the research proposal
3. Copies of the abstract of the research proposal
4. Copies of the curriculum vitae (CV)
5. Letters of recommendation from supervisor and employer
6. Letters of support from Indonesian counterparts or partner institution, if applicable an MoU and an MTA
7. A letter guaranteeing sufficient funds
8. Health certificate from legally practicing medical doctor stating that the researcher is physically and mentally capable to conduct the research
14 For the complete current version see http:// international.ristek.go.id/onlineService/detail/view/1-procedure-foreign-research-permit (accessed 3 November 2014)
9. Copies of the researcher’s passport
10. Close-up photographs (4 × 6 cm) with red background
11. A recommendation letter from a related Indonesian representative(Indonesian Embassy or Consulate General) abroad
12. A list of research equipment that will be brought to Indonesia, along witha brief technical specification mentioning the estimated value for eachpiece of equipment in use
13. If the researcher plans to bring his/her spouse and children, he/she mustalso submit a copy of marriage certificate etc.
通常、申請から許可決済まで 2-3 か月かかるとされている。許可が下りると、その証明書とインドネシア入国のビザが発給される。
研究許可を入手するために最も重要なのは、適切なインドネシア側のバートナ ーが存在することである。上記必要書類の 6 番目が、インドネシア側バートナ ーの存在を証明するのに必要な書類となっている。
研究許可当局は、申請されたバートナーを拒否したり、他の人物を提案したり できる権限を持っている。これはしばしば起こることである。本 CRC552 プロ ジェクトでも、地方政府研究機関所属の人物を追加バートナーにするよう要求 されたことがある。このような要求は、能力開発や利益配分を促進する目的で 行われると考えられる。
インドネシア側バートナーは多くの責任を持っている。外国人研究者に技術的支援やガイダンスを示すだけではなく、収集した標本を輸出しなければならない。インドネシア側バートナーと所属する研究所はインドネシア共和国を代表して提供者としてふるまわなければならない。
インドネシア国外のインドネシア人から推薦状を取る第 11 番目の要件は大変面 倒である。本 CRC552 プロジェクトでは、共同研究契約が政府レベルで締結さ れたため、このような追加推薦状は必要なかった。
第 12 番名の要件は誤解されやすい。インドネシアに持ち込む研究資材のリスト を提出したからといって、それが自動的に税金や関税が免除されるということ ではない。輸入税や関税の例外を得るためには、多くの機関を巻き込んで作成する膨大な書類を提出するという規則に従う必要がある。この免税手続きには 約 3 か月必要である。
本 CRC552 プロジェクトは、インドネシア政府海外援助機関の登録プロジェク トである。したがって、インドネシア財務省によって課税免除の地位が与えら れた。インドネシアへの研究資材輸入関連業務はドイツ国際協力協会(GIZ)の インドネシア事務所に支援してもらった。
研究許可を得ることは重要であるが、実際にインドネシア国内でフィールド研 究を行うためには更にその他の許可に対する業務も必要である。生物素材を研 究したり、標本を海外輸送したりする許可は別の規制がある。科学技術省の研 究許可によって自動的に採取や輸出の許可が得られたとするのは間違いである。 生物標本を採取しない研究者であっても、研究許可は野外活動を開始するには 不十分である。研究許可後に必要な書類を入手しなければならない。
研究許可が発行され、移民局がビザ許可証明書をインドネシア海外大使館に送 られると、研究者は研究ビザを申請しなければならない。インドネシアに到着 したら外国人研究許可事務所を訪問した後、研究者はジャカルタの警察本部及 び内務省などの機関や地方警察署や国家統一・地域開発省(KESBANGPOL)の 事務所にも報告書を提出しなければならない。報告書には、インドネシア入国、 研究計画、様々な許可証を一つの当局に提出すれば、その当局が受領書を作成 し次の当局に送られる。
このように報告書が次々に転送され、最終的にはフィールド活動をする現場の 村レベルまで送られる。このような許可書類の伝送が次々に行われるため、最 終段階に至るまでには約 2 か月かかることになる。このような手間のかかる許 可書伝送は自動的にできるはずだという意見もあるが、それはインドネシアで は困難である。インドネシア国内の郵便事情を考慮しなければならない。また、 多くの事務所では、外国人を受け入れる経験が少ないという事情もある。
この伝送の責任を負うのがインドネシア側の研究機関である。インドネシア側に研究プロジェクト中央調整グループのようなサービス部門がなければ、このような手続きを行えないと考えられる。
研究許可制度をインドネシアで作った理由は、インドネシア側の研究機関が共 同研究によって利益を確実に得るようにするためである。インドネシア側が考 える非商業共同研究の利益配分は、共同出版、能力開発、知識移転が主なもの である。しかし、不完全な語学力、限定された文献アクセスと不十分な研究設 備のインドネシア地方の研究機関がこのような利益配分を受けるには、研究初 期から十分な研究投資が必要であることは明らかである。
研究機関の利益配分は、全体レベルでは技術協力契約で主に決められている。 サププロジェクトレベルでは、個々の利益配分方法について部分契約 (Counterpart Agreements:CPA)が開発された。本 CPA の要点には、執筆 の共同作業やドイツ側大学への研究訪問や学会への参加などの能力開発方法の 具体化されたもの含まれている。
共同執筆に参加するという利益配分は、常に期待通りにいくとは限らない。優 秀な科学の取り組みに関するガイドラインによれば、共同執筆について適切で 科学的な知識の貢献が求められる。しかし、不適切な科学的背景、語学能力の 欠如、科学文献へアクセス欠如やその他の理由により、インドネシア側の研究 者の貢献はしばしば不十分となる。主となる著者は、優秀な科学の取り組みに 従うかあるいは能力の低い共同研究者との友好関係を取るか悩むのが常である。
本 CRC552 プロジェクトは、遺伝資源を含む素材や生物素材の化学分析や分類 同定を行うことを含んでいる。したがって、試料作製や化学分析を行う研究室 の設立が必要となる。不安定な電源供給事情から独立して、基本的実験装置や 25kV の独立電源供給装置を備えなければならない。タヅラコ大学に 2001 年に 設置した実験室は、研究者や外部要求に答えられる保証されたサービスを行う ことが今日ではできるようになった。
本 CRC552 プロジェクトは、標準植物標本収集に関連する能力開発を開始し、 現在も援助を継続している。標準植物標本のための基本的実験装置を購入し、 スタッフを訓練している。基本的な実践訓練は野外で、分類学理論はインドネ シア科学院(LIPI)で、マスターコースはポゴール農業大学で、先進的な実践 訓練はゲッチンゲン大学の植物園や標本館で行われた。
インドネシア政府の資金援助のもと、タヅラコ大学は標準コレクションを設立 し、キャンバス内に 2 階建ての標本保存庫を建設した。この標本保存庫は現在 Herbarium Celebense (CEB)として登録され、スラベシ島の最も完全な標準コ レクションとなっている。
能力開発は、インドネシアとドイツの共同研究機関内だけで行われるのではな く、地方に在住のインドネシア協力者との間でも行われた。例えば、タヅラコ 大学の教授がポゴール農業大学の博士課程の講義を受け持っている。CRC552 プロジェクトの研究者が、博士課程学生のための訓練を監督したり、CRC552 プロジェクトの範囲内で対応する地方大学の野外研究を監督したりすることが たびたびあった。本 CRC552 プロジェクトがいくつかの補足的な研究課題につ いて野外研究を援助する資金を得たことは幸運であった。
野外に出かけることは大きな輸送問題がある。CRC552 プロジェクトでは、何 代かのバイクと 4WD 自動車購入と運転手の費用を調達し管理することができ た。これは、プロジェクトにとって大きな投資となった。野外研究地の困難な 地形とオフロード状況により、車の管理費は高くついた。残念ながら、ポゴー ル農業大学とタヅラコ大学の管理制度の違いにより、車に関する管理費用はポ ゴール農業大学から受けることはできなかった。しかし、現在残っている車は、 ポゴール農業大学の管理下に置かれているし、タヅラコ大学との共同研究に利 用されている。
CRC552 プロジェクトを成功させるためには、計画された活動が一般の人に受 け入れられることが重要である。地域住民と良好で信頼のある関係を開発する ために、研究内容を説明し議論する公開ミーティングを開催した。そのような ミーティングは機会あるごとに何回も村々で行い、選ばれた関係する農民だけ が利益を受け、その他の農民は排除されるという偏見を排除するため、村民や、 その長老あるいは代表者を交え、具体的な利益配分のあり方について議論した。 地域小学校への本やおもちゃの寄贈、村の運動施設建設の援助、公共施設の管 理に必要な建設資材供給などが、地域社会への利益配分の中心となった。
CRC552 プロジェクトの大部分の研究活動は、地域農民の所有するココア小農 園で行われた。研究活動毎に農地所有者と契約を取り交わした。本契約をできるだけ透明性高くし、村民による誤解を避けるために、研究地点選定の正当性、 研究活動とその目標、契約内容や対価となる支払の正当性について、村長、長 老、村政府機関の代表者など村の責任者を交えて公開で議論した。
その結果、研究地点に対する合意が研究者と村民の間で合意された。研究地点の農民は、現金と研究結果の報告書など非営利的な形の報酬を受けた。当然、その研究地点の研究結果である科学発表論文のコビーを農民に手渡すということはナンセンスである。それぞれの研究地点に関する、土壌組成やココアの健康状態をまとめた基礎的な事実をまとめているので、単なる研究報告だけではなく、集めたデータに基づくココアプランテーション管理向上のために必要な提言を個々の受益農民に行っている。
一般的な結果と提言については村レベルの公共会議に場でもフィードバックし、 研究に参加していない農民に利益配分するチャンスを作った。その他、村レベ ルでの政府サービス機関や非政府系の機関と共同で、カカオ管理のトレーニン グも行った。このトレーニングは公開であり、誰でも参加することができる。
最も大きなチャレンジは、Lore Lindu 国立公園内に気象研究用の塔を建設する ことであった。塔周辺の森林が攪乱され気象観測に影響を及ぼさないか確認す る必要があった。塔は国立公園内であっても、地域住民は狩りや木の実などの 採取に利用しているため、森林生態の変更は気象観測に問題となる可能性があ る。森林に設置された観測塔での炭素流動測定結果は、地域住人対しても利益 であると考えられた。
州政府や地方政府役人の個人的な支援のおかげで地域社会との合意が形成された。本契約を公開するセレモニーに、近隣地域社会の文化活動として、観察塔の完成の祝いの会が開かれた。この祝い会のために、中央スラベシ州の知事が地域開発省の責任者とともに参加した。州知事の住民に向けた演説の中で、気象観測塔に設置された測定装置を不安定にしないこと、周辺の森林に手を加えないことなどの重要性について住民が理解しやすいように情報を伝えた。このお祝い会や州知事の演説は気象観測塔によい効果をもたらし、現在でも非常に良い条件で周りの森が保存されている。
しかし、全ての地域社会がよく組織化されているとは限らないし、契約が長期に存続するように形成されてはいない。なにが権利であり、なにが合法的な地域社会であるのかという点について、地方で研究を実施する研究機関は解決しなければならない。伝統的地域社会では、しばしば合法性に欠け、政府組織と競合する傾向がある。
研究対象地域であった中央スラベシ州では、状況は複雑であった。強い伝統文 化的結びつきのある地域と政府に強いつながりのある地域社会においては、政 府規制に対して敬意を払っていない地域社会の代表者と向き合わなければなら ない。公式な政府規制に沿って行動していると、地方の慣習を重要視するグル ープと衝突することがかつて一度あった。
共同出版や科学能力開発など非営利の基礎共同研究契約の古典的な利益配分は、 バートナーや利害関係者が異なる場合の共同研究において真の必要性を満たし ているとは言い難い。典型的な利益配分よりさらに一段上の努力が必要である。
インドネシアで外国人研究者が研究地域と研究素材にアクセス許可を出す主な 仕組みは研究許可規制である。この研究許可制度はインドネシアの興味を確保 し、利益を生むために作られたもので、明確な意図を持っている。
しかし、複雑で時間のかかる研究許可取得方法は、経験のない研究者を落胆させる。もし、容易に理解でき簡単な方法を外国の研究者に提示できたならば、もっと外国人研究者がインドネシアに来るようになるだろう。理想的には、一窓口サービスあるいはワンストップショップ形式、いわゆるクリアリングハウスがよいと思われる。そうすれば、インドネシアにとって共同研究がもっと効果的で有効で利益が多いものになると考えられる。
契約当時、フィジーには遺伝資源のアクセスと利益配分に関する法制度はなか った。環境省を含むフィジー政府機関との事前相談を通じて、生物多様性条約 とアジェンダ 21 に対応する国内措置を創設することになった。本バイオ探索研 究プロジェクトが、国内措置の最も重要な部分に対する考え方を提供すること になった。
その結果、持続可能開発法案の第 249 条に遺伝資源へのアクセスに関する条項 を挿入することになった。しかし本法案は、政変により 2015 年現在でも成立し ていない。
1992年米国政府の米国アジア環境バートナーシッププログラムによって設立さ れた生物多様性保全ネットワーク(Biodiversity Conservation Network:BCN))17のプ ロジェクトの一つとして『フィジー天然産物開発と保全(Natural Product Development and Conservation in Fiji (NPDCと略) 』が設立された。フィジ ーにある南太平洋大学(USP)が本プロジェクトを主導し、フィジーの生物資 源の保全と持続可能な利用を研究開発することを目的とした。
フィジー天然産物開発と保全プロジェクトの中で、南太平洋大学(USP)はス トラスクライド医薬品研究所(SIDR)と共同研究プロジェクトを行っている。 本 USP-SIDR プロジェクトのプロジェクトリーダーは南太平洋大学(USP)の Dr. William Aalbersberg である。フィジーのベラタ郡ティキナと協力して、
15 COLUMBIA UNIVERSITY SCHOOL OF INTERNATIONAL AND PUBLIC AFFAIRS Environmental Policy Studies Working Paper #4 Access to Genetic Resources: An Evaluation of the Development and Implementation of Recent Regulation and Access AgreementsPREPARED FOR THE BIODIVERSITY ACTION NETWORK BY ENVIRONMENTAL POLICY STUDIES WORKSHOP, 1999 SCHOOL OF INTERNATIONAL AND PUBLIC AFFAIRS COLUMBIA UNIVERSITY
16 Biman PRASAD; “Institutional Responses to Environment and Natural Resources Management:A Case of the Sustainable Development Bill for Fiji”, Senior Lecturer in Economics, The University of the South Pacific, Fiji Centre e-mail: Chand_b@usp.ac.fj
17 http://www.fao.org/docrep/x5336e/x5336e13.htm
環境保護と同時にフィジー沿岸部の海洋生物から抗がん活性物質の探索を行ういわゆるバイオ探索研究プロジェクトである。
アクセスと利益配分制度の整っていないフィジーで、どのようにして生物多様性条約の原則に基づいてアクセスと利益配分を実行していくのかを解析する。
フィジーの南太平洋大学(USP)と英国ストラスクライド大学(SIDR)の USP-SIDR プロジェクトには、両者間の共同研究契約がある。更に、南太平洋 大学とベラタ郡ティキナ村とで結ばれたUSP-ベラタ契約があり、これは利益配 分に特化した契約である。
本プロジェクトの直接的利害関係者は南太平洋大学(USP)とストラスクライ ド医薬品研究所(SIDR)であるが、潜在的な利害関係者のためにいくつかの方 策を考えられた。その結果、契約書において、利用する遺伝資源はフィジー国 の所有物であり、南太平洋大学が必要な政府許可と遺伝資源所有者から事前の 情報に基づく同意を得ると明記した。
利害関係者はフィジー人であることを明確にした上で、フィジーの生物多様性の保全促進と、フィジー人への公正で衡平な利益配分を可能にすることが目的であることを明記した。更に遺伝資源の採取にあたっては、フィジーの文化と環境を尊重することも明記した。
南太平洋大学とベラタ郡との契約では、ベラタ郡ティキナ村、Biodiversity Conservation Network、南太平洋大学応用科学部が USP-SIDR 研究プロジェク トの利害関係者であると特定した。
フィジーの土地所有権は複雑である。先住民政策によって、フィジー先住民に 土地所有権が与えられ、土地の 83%を共有している。約 6,600 の村(matanggli) が Native Land Trust Board を 1940 年に設立し、それ以降、土地の管理を行 っている。土地をフィジー人以外の貸し出す際の管理費徴収も行う。ベラタ郡
ティキナ地区でも、ほとんどの土地が先住民の共有所有地であるので、そこに存在している生物資源も所有者の共有物である。したがって、生物資源の利用の許可は、先住民社会の委員会の全員一致によって決定される。フィジーの村落住民は、先住民酋長によって指定された特別な動植物の保全と維持管理を任されている。
伝統的漁業地域を含む沿岸海域の所有権は、フィジー法と習慣法に規定されて いる。地域社会では、原生地および漁場委員会が漁業の所有権を設定する。1990 年の憲法によれば、海底を含む漁場で捕獲されたすべての生物資源に対して先 住民の権利が及ぶ。しかし、海底から採取された生物資源に対して、郡がロイ ヤリティを受ける権利を有している。
生物資源に関連する伝統的知識の知的財産権の問題はUSP-SIDR契約及びUSP-ベラ タ契約には存在しない。なぜなら、今回のUSP-SIDR研究プロジェクトで種の同定を行 うのに伝統的知識は必要ではないからである。しかし、種の同定にフィジーの伝統的な 医学知識を必要とする種があったり、また商業化開発に進展した時にそのような知識を 必要としたりする可能性は残されている。
利益配分条項には、各発見物を対象にロイヤリティ支払が設定されるが、関連する伝統 的知識に特許権を要求する可能性や利益配分の上増しを地域社会やフィジー側が要求 する可能性があることは研究実行者間で認識している。
1997 年 5 月、フィジーの南太平洋大学(USP)と英国ストラスクライド医薬品研究所 (SIDR)はフィジーのベラタ郡ティキナ村でのバイオ探索研究に合意した。
「フィジー天然産物開発と保全」プロジェクトの組織形態は以下の図の通りで ある。新たに NPO である Rainforest Alliance 傘下にある Natural Resources and Rights Program グループが参加している。このグループは、もともと世界 にある天然資源から得られる利益の衡平な配分の促進を目指している。いわゆ るお目付け役としての役割を持っている。バイオ探索研究専門家として 3 名
(Sarah Laird、Bronwyn Parry と Michael Gollin)を追加した。その中の Michael Gollin は米国の契約担当弁護士であり、契約のレビューと法的アドバ イスを行う予定である。更に、南太平洋地域における一般的な探索研究に反対 している地域住民グループを地域「関連グループ」として追加した。
図 8 Fiji 天然産物開発と保全プロジェクトの研究開発体制
南太平洋大学(USP)とベラタ郡の契約には、研究活動を行うにあたり関係者 からの事前の情報に基づく同意(Prior Informed Consent: PIC)の取得に関する 方法が含まれている。事前の情報に基づく同意申請にあたり、申請者は以下の 情報を関係者に提供しなければならない。
・研究活動に参加するすべての組織、個人の名前と所属
・研究活動を支援する資金提供機関の保証
・研究対象の遺伝資源の種類と利用量の特定
・研究目的と研究内容、特にその成果
・対象遺伝資源の現在の環境保全状況と取得後の環境状況予想
事前の情報に基づく同意申請書には、南太平洋大学(USP)が契約締結後に行うすべて の研究活動を、できるだけ頻繁に報告することを約束しなければならない。すなわち、 契約締結過程を含む研究活動過程における研究進捗を報告するだけでなく、ベラタ郡の 住民を参加させる義務がある。これは名古屋議定書の考え方の基となっている。南太平 洋大学(USP)は、USP-SIDR契約とUSP-Verata契約に関するあらゆる会議の開催 をベラタ郡担当者に通知しなければならない。
南太平洋大学(USP)には、ベラタ郡の関係者に対して無料法律相談の機会を与え、契 約交渉のあらゆる場面でベラタ郡側に立ってアドバイスできるような体制を整える義 務がある。更に、プロジェクトの代表説明者を指名し、ベラタ・ティキナ評議会で委員 に対してプロジェクトの説明を行わなければならない。
あらゆる誤解や誤伝達を避けるため、すべての契約書案はフィジー語に翻訳し、ベラタ 郡の全住民に配布しなければならない。ベラタ郡住民にはあらゆる集会開催について事 前に通知され、反論する機会が与えられるようにしなければならない。また、南太平洋 大学(USP)とベラタ郡との契約には、女子や若者のグループを特別な条件なく参加さ せると解釈されている。
南太平洋大学(USP)とベラタ郡のアクセスと利益配分契約の中の、事前の情報に基づ く関係者の同意に関する条項には、契約締結後のコミュニケーション継続条項が含まれ ている。これは、研究の進捗、学会発表、利用による商業的価値などを常にベラタ郡に 情報提供することを確実にするためと解釈される。採取された遺伝資源から得られる新 しい商業活動の可能性については、すべて研究活動の開始時点で完璧に議論済みでなけ ればならない。
研究対象の素材が採取され、英国ストラスクライド医薬品研究所(SIDR)に移動され たこと、採取から何か研究成果があったこと、金銭的利益を得たり配分したりしたこと などについて、英語とフィジー語で書かれた書面で3か月毎にベラタ郡に報告しなけれ ばならない。南太平洋大学(USP)は、ベラタ郡ティキナ村で6か月毎に討論会を開く 義務を負う。そこで、全利害関係者が参加し、プロジェクトの進捗状況を議論できるよ うにしなければならない。
南太平洋大学(USP)と英国ストラスクライド医薬品研究所(SIDR)の間で交わされた共同研究契約で、南太平洋大学(USP)が得られる利益配分は以下の通りである。
・英国ストラスクライド医薬品研究所(SIDR)から移転した第三者が行う 抽出ライセンス料の中での南太平洋大学(USP)の取り分は 60%
・スクリーニング用に毎月供給する標本 1 点あたり 15 ポンドの抽出物ラ イセンス料
・アルコール素抽出物 1g 又は乾燥植物標本 100g
・最大 12 か月供給
・探索研究の第二段階に必要な標本の再供給費として通常 2000-2500 ポンド
・ロイヤリティを含む第三者の商業利用によって英国ストラスクライド医薬品研究所(SIDR)が得た収入の 60%
・南太平洋大学(USP)の研究能力を高めるための共同研究
・内部で行う共同研究で得られた発明の共同特許権
次に南太平洋大学(USP)とベラタ郡ティキナと合意した利益配分契約による と、その具体的な配分は以下のようになっている。
・1997年1月1日から1998年12月31日までの間、南太平洋大学(USP)が受け取る抽 出物ライセンス料の100%がベラタ郡に配分される。ただし、抽出と運搬に掛かっ た費用は差し引かれる。
・約6人の標本採取と試料作製者、6人の生物多様性監視実行者、6人の社会経済影 響監視実行者の訓練費用
・村落で行っている小規模な事業の管理費用
・遺伝資源管理と地域社会開発に関する6か月毎の地域社会全体のワークショップ開催費用
更に、南太平洋大学(USP)と英国ストラスクライド医薬品研究所(SIDR)の間で交 わされた共同研究プロジェクトで金銭的利益が発生する場合、南太平洋大学(USP)と ベラタ郡ティキナ村とフィジー政府の間で衡平に配分することについて交渉すること が含まれている。
南太平洋大学(USP)、英国ストラスクライド医薬品研究所(SIDR)とベラタ 郡の間でライセンス料をどのように配分するかは明らかにされているが、標本 収集量が確定されていない。したがって、ベラタ郡がどの程度金銭的利益を受 けるかは明確ではない。利用される試料の量にもよるが、ベラタ郡が受け取る 金銭的利益は約 105,000 米ドルと推定されている。ベラタ郡が受け取る金銭的 利益は地域社会の信託基金に入れられ、地域社会の総意のもとで配分される。 ほとんどは公益事業への投資となると考えらえる。
南太平洋大学(USP)と英国ストラスクライド医薬品研究所(SIDR)の共同探 索研究から得られる利益は、二つの配分契約に従って配分されることになる。 ベラタ郡ティキナ村の地域社会が受け取る利益として、もしロイヤリティが増 加すれば更に増える可能性があるが、現在は中程度の現金、環境保全教育や地 域社会開発、地域社会ベースの事業援助などが具体的な配分利益と考えられる。
フィジーとしてあるいは太平洋地域レベルでの利益として、金銭的報酬の可能 性と南太平洋大学の能力開発、特に 12 の南太平洋国において、天然化合物スク リーニング技術力の向上が考えられる。フィジー天然産物開発と保全プロジェ クト自体の範囲は広いので、海洋保全計画、天然物化合物の太平洋地域で蔓延 する疾患治療薬への応用、カバ、ナッツや果物のような製品の国際的販売など が、利益配分として地域社会や国に影響を及ぼすことが考えられる。
南太平洋大学(USP)と英国ストラスクライド医薬品研究所(SIDR)の間で交わされ た共同研究契約では、当事者間で解決できない紛争は、国際商業会議所の仲裁ルールが 適用され、ロンドンで仲裁されることになっており、契約の考え方は英国法に準拠され る。
南太平洋大学(USP)とベラタ郡との利益配分契約は、フィジーの首都スバにある常設 仲裁人事務所の権威によって仲裁される。しかし、そのような仲裁活動は、ベラタ郡テ ィキナ村の最高酋長の伝統的権限とベラタ・ティキナ評議会の権限による承認を受けな ければならない。
南太平洋大学(USP)と英国ストラスクライド医薬品研究所(SIDR)の間で交わされた共同研究契約と南太平洋大学(USP)とベラタ郡との利益配分契約の 両者共、標本の採取による環境へ悪影響を出さないと規定している。
南太平洋大学(USP)とベラタ郡との利益配分契約は、必要なら生息種の保存のための 地域社会の保全プロジェクトの実施を約束している。ある地区の沿岸漁場やサンゴ礁生 息地では、実際に地域社会の保全プロジェクトが行われている。それには、植民地以前 の状況に回復することや、商業価値のある生物を回復させるために特定地域からの採取 を禁止するような活動が含まれている。本プロジェクトの推進によって、はまぐり、商 業食品種の顕著な増加が観察されている。いままで、バイオ探索研究によって環境破壊 が起こったという報告は知らない。これは英国ストラスクライド医薬品研究所(SIDR) によるスクリーニングに必要な量がごく少量のためである。
フィジー天然産物開発と保全プロジェクトは、地域社会、NGO、大学、政府機 関、国際研究機関の間で共同研究体制を構築できたという点で興味深い。生物 多様性条約という枠組みの中で、これらの関係者が地域社会との対応によって 共に活動できた点は評価できる。
フィジーで行われたバイオ探索研究プロジェクトは、政治状況や所有権に関して異なった状況を踏まえたうえで、独自の政策を構築していくためのよいモデルとなる。
社会経済発展と環境保全という意味において、本フィジー天然産物開発と保全プロジェクトの努力とその成果を詳しく解析することによって、衡平なアクセス体制の構築を図る上での最も良い見本が得られると考えられる。