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ABS情報

東京海洋大学

大学説明

東京海洋大学は2003年に東京商船大学と東京水産大学が合併して誕生した、日本唯一の海洋系大学である。教員数は259名、そのうち、ABS対応が必要と考えられるのは100名超の教員および非常勤研究員である。大学として、6つの船舶を有し、日本の領海外に航海する船舶もある。また交際交流活動として、31か国102機関と国際交流協定を結び、31か国等244名の留学生が在籍している(参考:令和元年度版大学概要)。

対応窓口と体制

ABS対応の対応としては、学内共同利用施設である産学・地域連携推進機構 知的財産・ABS対応部門に生物多様性条約&ABS対策窓口を設置し、URAが中心となって支援業務を行なっている。実働者は1名であるが、当該URAの業務は知財管理、技術移転、研究助成金の申請支援など幅広く、ABS専任者というわけではない。またエフォート的には30%に満たない。

本学でABS対応に係る部署は、総務部研究推進課の研究支援係、研究企画・産学連携係である(図1)。また、ABS対応をしていくうちに関係する係として新たに抽出されたのは、学務部国際・教学支援課の留学生係、国際協力係である。留学生係は、主に学部、大学院への留学生や交換留学生の受け入れ対応をしている。一方、国外の大学や研究機関に所属する研究員が短期で来日する場合は、訪問研究員として、国際協力係が受け入れている。このように、状況によって連携する係が異なることがわかってきた。現在は、これらの4係とURAが連携をとってABS対応を行なっている。

図1 現在の対応体制

本学では、ABS対応関連の情報は全て、産学・地域連携推進機構内の対策窓口に集約するようにしている。個々の案件についてURAが直接ヒアリングを行い、情報収集や対応の検討を行う。必要であれば、教職員と連携し、相手国のフォーカルポントやカウンターパートと契約や手続きについての交渉も支援している。

取り組みの経緯

2014年2月頃に本格的に生物多様性条約に関わる相談が寄せられるようになった。2015年に全学体制での体制構築の必要性を感じ、学内体制構築のための学内予算を獲得した。2016年には学内周知、ヒアリングの継続、覚書、MTA等の雛形を整備を試みた。また、なるべく教職員の負担を増やさないような手続きのフローチャートを作り、2018年にはフローチャートをHPに掲載し、周知を図った。活動は今後も継続する予定である。学内の相談状況は1年で20数件、相手国は東南アジアからヨーロッパまで多様であった。しかし、ある程度決まった先生からの相談が繰返し来る状況となっている。

学内の周知

まず、一斉メールによる学内周知を行なった。この周知方法については、結果として大きな効果は得られなかったと思っている。周知後に相談が来なかったわけではないが、すでに危機感を持って活動されている先生からの相談が、知的財産・ABS対応部門に届くようになったのみであった。「自分は関係ない」と考えている先生へは響かなかったのではないかと考えている。

次の対応策として、事務局の担当係(国際協力係)と連携し、国際共同研究を行なっている研究代表者を把握し、特にABS対応が必要と考えられた研究者を個別に訪問、注意喚起を行なった。こういったアプローチは、研究者も課題に直面していることを理解しやすく、周知・啓発活動としては非常に効果的であった。実際に訪問した先生で契約を結んだ案件は複数ある。ただし、資金を獲得した後では、研究の進捗を妨げたり、研究計画の一部を変更を余儀無くされるリスクもあるため、もっと早い段階でのアクションの必要性が感じられた。

その後、ABS関連情報を一斉メールの他、資料送付、教授会での説明をするなど周知活動を継続するとともに、留学生の入学時にチェックシートによるABS対応が必要性な案件の把握などを行っている。
今後の予定としては、教職員への周知活動を継続する他、新入学の留学生全員に、入学時にオリエンテーションで注意喚起することなど、早期の段階で注意喚起を行えるアプローチ方法を留学生係と検討している。

相談事例

相談窓口に寄せられた複数の相談事例をパターン分類した。
1)海外の研究機関共同研究をしている、したい。
2)海外から資料を持ち込む(サンプリング)。
3)留学生、訪問研究員を受け入れる際に試料を持ち込む。
4)日本で入手可能な外国産の試料を実験に使う。

パターン1)と2)は、経験的にカウンターパートがないと、交渉が難しいと感じられた。パターン3)の場合は、留学生の所属が東京海洋大学とそれ以外の場合があり、この立場の違いや、本学教員の関わり方(共同して研究するか、機器の技術指導中心か)で対応が分かれた。パターン4)の場合は、試料は研究用に輸入されたもの、他の目的で輸入されたもの(コモディティーといわれるもの)、他の研究室で保管されたものを譲り受けて使用するもの、に分けられるが、この中で他の目的で輸入されたもの、他の研究室で保管された物の取り扱いがグレーと思われた。

現在の対応体制

基本的には、生物多様性条約&ABS対策窓口に情報を集約させ、定期的に情報共有することで学内の連携体制を保っている。個々の案件は、URAが直接ヒアリングをして、国内法等情報収集を行い、その結果を持って関係する係と対応を決めている。必要性があれば、URAが相手国のカウンターパートと交渉もしている(図1)。相談事例や結果は、逐次国際担当理事に報告をしている。

学内での対応フローチャートを図2に示す。対応フローチャートは、相談事例から分類したパターンごとに作成した。今回示すのは、パターン1)に該当するものである。まず、スタート地点は、遺伝資源の移動が伴う共同研究を開始する際に、知識を有する教員・研究員からABS対策窓口に対応依頼が来る場合、あるいは科研費申請や出張申請の書類が提出された係から対応依頼が来る場合がある。対応依頼を受けた窓口では、対象となる相手国がこれまで対応したことがある国であるかどうか、また情報収集を行なった国であるかどうかを確認する。

すでに対応を行なった経験がある国であれば、過去の事例を参考に契約手続きを始める。相手国が、これまでに対応を行なったことがない国であった場合は、情報収集および先生へのヒアリングを行い、関連する係とも連携しながら対応を決定する。カウンターパートである共同研究先機関にも協力を依頼し、相手国内での手続きや交渉は、カウンターパートを通して行う方が望ましい。


図2 学内フロー図

対応事例

(1) 対タイ王国

教員から海外遺伝資源を使用した発明相談があった。純粋な学術研究でなく、知財を創出し、産業化することを目的とした研究であったため、慎重な対応が必要であった。すでに相手国研究機関とMOUを締結し、研究許可もNRCTから取得済みであった。しかし、MOUを読み込だところ、MTAが別途必要であることがわかった。すぐにMTAの契約交渉を始めたが、内容に合意するまでに半年、捺印まではさらに10ヶ月を要した。相手国の研究機関に知財に関する知識や経験が不足していたため、契約に時間を要したと考えている。

また、MOUには、特許出願は原則共有と取り決めがあった。そのため特許を出願するためには、相手方の書面による回答が必要あった。こちらの回答も得られるまで10ヶ月程度要した。その間、学位論文の公開延期措置や学会発表を控えるなど対応が必要であった。最終的には、特許出願に関して承認する旨の回答をもらうことができ、MTAも締結できた。これらの成果はJICAの担当者(タイ在住)のサポートがあったから、到達ができたことである。また、窓口としてもMTA契約合意をお願いするためタイに赴いた。

(2) 対パナマ共和国

教員からサンプリングの相談があった、共同研究を改めて開始することろで、PIC/MATはない状態であった。窓口で提供国法令等を調査し、調査した情報を共同研究機関に連絡、手続きのサポートを依頼した。幸い、環境省にてパナマ共和国の法令は環境省で日本語訳が出ていた。また、公用語がスペイン語だったが、たまたまスペイン語を話せる知り合いがいたので、HPなどを見てもらい、情報を収集した。今回のケースでは、先方の共同研究機関が国際機関で、パナマ共和国に所在するものの、PIC/MAT手続きの経験がある機関であったことから、真摯に対応してくれた。

すぐにPICの申請の書類を送ってきてくれたが、政府に提出する正式書類は全てスペイン語で記入する必要があった。
また、PICが取れた後に、輸出許可が必要であることが判明した。輸出許可が出るまで、時間を要したのでサンプリング後、共同研究機関にて保管してもらい、輸出許可が出た後に郵送してもらうように配慮していただいた。パナマ共和国は、国内法がしっかりしているので、手続きは比較的簡単であると感じた。

実際に担当して見て見えてきた課題

まずは、ABS 対応の部署をどこにするのか?という課題がある。
生物多様性条約、ABSについての国内法は、それぞれの国で異なるうえ、現在も新しく制定されたり、変更されたりしている。また、従来は行なっていなかった新しい業務のために、対応を担当する部署では業務負担が大きいことが予想される。また、契約体系によって担当する部署が異なったり、対応部署に決裁権限がない場合には、情報共有の体制に留意しなければならない。

次に、長期的な人材確保の課題がある。例えば、本学ではURAが窓口業務を担当しているが、非常勤職員のため、離職の可能性がある。また、常勤職員であっても異動等で担当者が変わることも考えられる。

また、法令等が十分でない相手国に対して、対応が十分にできない場合、研究継続の判断は誰がするのか?という課題もある。国内法がない場合には、倫理に基づいて、どこまで対応するのかが論点になるが、判断は非常に難しい。

費用面の課題も無視できない。英文の契約書までは、学内で対応できる可能性もあるが、英語以外の言語での契約書の作成費用、リーガルチェックに係る費用、そして交渉等のために相手国に赴く費用をどう確保するかについては、留意しなければならない。

最後に、自分が対象でないと思っている研究者にどうアプローチにするのか?昨今国際共同研究の推進が求められているが、推進することとABS対応を徹底することが足の引っ張り合いになるのではと危機感を感じている。

(2017年4月初版、2019年10月改訂)

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