非商用研究でどの程度の金銭的利益配分を考えればよいのか?
非商用研究の成果を応用しても金銭的利益が出ることがないという考え方が一般的ですが、提供国の考える金銭的利益はより広く考えている。例えば、PICを取得する際に申請料、許可料を取るのが一般的である。申請料は一般的に数万円のところが多いが、フィリピンのように数十万円になるところもある。これは、申請料を利益配分の一部と考えているからである。申請料を納付しないとPIC審査を開始してくれない。次に多いのが試料採取料である。採取料は利用者自身が行った場合では1件に対し数万円程度が多いと思われるが、採取を頼んだ場合試料1個あたり数百円からで、採取困難なものは数千円になる場合もある。したがって、採取に対して費用が発生することを認識すべきである。
非商用研究のMATで成果の取り扱いについて当事者間で合意することが必須である。金銭的利益を生む可能性が全くない場合は、MATでそのように取り決めるべきである。すこしでも金銭的利益を生む可能性を考えるなら、金銭的利益の配分についてあらかじめ契約段階で取り決めるのがよいと考える。
インドでは、2014年11月に金銭的利益配分に関するガイドラインを発表した。インドで行った共同研究結果を日本に移転し、その結果金銭的利益を得た場合その3-5%が利益配分となる。その他の場合でも利益配分率が細かく決められている。その他の国でも金銭的利益配分を明記した規則を持っている国が現在でもあるし、今後ますます増加する傾向にある。その場合は規則に従うことが求められる。
食料・農業植物遺伝資源条約の標準素材移転契約では金銭的利益配分率は決まっていて、通常0.77%である。本条約の範囲に入らない作物等を移転させる場合、本条約の利益配分率を援用することは相互合意があれば可能である。
金銭的利益配分のない提供国も多い。そのような提供国で米国のICBGプログラムを行った経験のある国では、米国流の方式を契約で要求するのが自然である。米国の大学が行うバイオ探索研究でも米国NIHの標準方式を採用する場合が多い。米国NIHの標準の金銭的利益配分は50:50である。つまり、利用者側が得た金銭的利益の半分を提供国側に配分する方式である。提供国の配分先は研究基金などの形式で公正かつ衡平に関係者に配分されるよう工夫されている。
その他の場合の金銭的利益配分の考え方は、それを生むビジネスの常識に基づいて判断することになる。医薬品など膨大な利益を生むビジネスと食品のように利益幅が小さいビジネスでは当然利益配分率は異なる。問題は、提供国側がビジネスの常識に馴染みがなく、一律に高いロイヤリティを要求することである。ビジネス形態を根気よく説明して納得してもらうしかない。