相手国のPICおよびMATがなく無断で持ち込んだ研究用遺伝資源に対して、どのように遵守不履行の調査が行われ、どのような処分が行われるのか?
名古屋議定書第15条第2項には、「締約国は、1の規定に従ってとられた措置の不履行の状況に対処するため、適当で効果的な、かつ、均衡のとれた措置をとる。」と規定されています。したがって、名古屋議定書国内措置として、不履行に対する規制がなされることになる。
しかし、日本の名古屋議定書国内措置内容の具体的な部分について明らかになっていない。欧州連合で決められたEU規則第4条第5項で「保有する情報が不十分である場合、又はアクセス及び利用の合法性について不明確な点がある場合には、利用者はアクセス許可証又はこれに相当するものを取得し相互に合意する条件を設定するか、さもなければ利用を中止する。」とされている。
一方、名古屋議定書第17条監視第1項a(ii)に、「締約国は、不履行の状況に対処するため、適当で効果的な、かつ、均衡のとれた措置をとること。」と規定されていることから、なんらかの調査が行われ、不履行である場合には措置がとられる。日本ではどのような措置になるか不明である。EU規則第9条第4項に具体的なチェック項目として、(a)自己遵守措置の審査、(b)自己遵守の証拠、記録審査、(c)抜き打ち検査(現場監査を含む)、(d)申告義務審査が行われる。更に、第9条第8項において、「明らかになった問題点の性質に応じて、加盟国は、特に、不法に獲得された遺伝資源の没収及び特定の利用活動の差し止めを含む、即時の暫定措置をとることができる。」と規定されていることから、加盟各国は不法に対して没収、差し止めなどの即時暫定措置をとることができる。その裁量は各国に任されている。すでにデンマークでは、名古屋議定書批准法が制定されており、EU規則第9条第8項の不法行為に対する罰則として、罰金刑が与えられ、故意または重大な過失の場合最高2年までの禁固刑がある。
以上のように、名古屋議定書の遵守義務あるいは監視措置への不履行があると、是正措置がなされ、それでも不履行が是正されない場合相当厳しい措置がとられるものと予想される。
また、第15条第3項には、「締約国は、可能かつ適当な場合には、1に規定する取得の機会及び利益の配分に関する国内の法令又は規則の違反が申し立てられた事案について協力する。」と規定されていることから、提供国から提供国規制に対する不履行についても何らかの処置が行われることが予想される。どのような協力が行われるかは不明であるが、少なくとも申し立てられた事案について何らかの事実調査は行われるものと考えられる。提供国法規制への違反として認定された場合、それに対する不服申し立てをどう判断するか、提供国規制違反を日本で処罰することが可能かなどの問題点が残されている。