生物多様性条約の要件に不満足、不確実な遺伝資源の取り扱いはどうすればよいか?
不確かな遺伝資源とは、遺伝資源の利用に必要な生物多様性条約に規定された手続きについて何らかの不確実な遺伝資源のことをいう。全く入手経路が不明の場合もあるし、必要なPICおよび/またはMATの手続きを行わないで入手した場合もある。したがって、生物多様性条約の原則あるいは提供国の法令からすると、法的に不安定で論議を起こす可能性のある遺伝資源であるといえる。そのため、不確かな遺伝資源の利用は注意を要する。
不確かな遺伝資源の入手はいろいろなケースが想定されるため、その利用について一般的な回答を行うことは困難である。留学生等が持ち込む場合、海外の市場で入手した場合、仲介業者から入手した場合、生物多様性条約発効以前に入手した場合については、一般的な回答を別セクションで用意した。これ以外の方法で入手した遺伝資源の場合については、個別に対応するしか方法はないと思われる。
不確かな遺伝資源の利用について重要なのは、その利用状況にある。利用研究の開始前あるいは研究途中であれば、対応ができる可能性がある。事後手続きになるが、事情を説明して早急に必要な法的手続きを行うことが求められる。この場合には、遺伝資源入手の経緯を示す証拠書類を保持することが必要である。単純に知らなかった場合と故意の場合を区別するためである。故意の場合は当然事後に承認を受けることはできない。
利用研究が終了し、結果が何らかの形で公開される予定か、発明として特許出願する以前であれば、情報公開前に遺伝資源の入手経緯について証拠を確保し、結果公開に伴うリスク分析を行い、その対処を明確にしておくことが求められる。
学会によっては、学会誌に投稿する時遺伝資源の出所を明らかにするよう求められることがある。また、特許出願をする場合、出願書類に遺伝資源の出所開示を必要とする国が欧州、インド、中国等にある。特許出願の場合、出所書類に関する証拠資料の保全を出願前に行うことが望ましい。
不確かな遺伝資源を利用し、その成果に関する情報をすでに公開している場合は、注意が必要である。得られた成果が科学進歩や産業応用に影響を与えるような場合は注目度、非難のリスクが高まるため、情報の取り扱いを慎重に行わなければならない。提供国等の問い合わせに対応できるよう証拠情報の確保、情報管理等を徹底することが求められる。
いずれの場合でも当てはまることであるが、遺伝資源の出所について可能な限り証拠書類を書面にて保存しておくことが重要と考えられる。特にメールのやり取りを書面に印刷して保存することが必要である。素材移転契約等の契約書は、個人保管よりも集中管理することが望まれる。そのため、研究者個人よりも研究機関の管理部門が積極的に保存活動を行うことを推奨する。不確かな遺伝資源利用によって生じた問題は、誠意を持って対処するしか解決方法はない。