育種を目的とした作物近縁種の種子の入手を計画している。入手先は、アメリ カ農務省(USDA)で、目的の種子はアメリカ原産のものだけでなく、ぺルー やメキシコ等多数の原産国の種子が含まれている。
生物多様性条約の批准国外であるアメリカ合衆国の種子の場合は、手続きはどうなるか。
植物育種というのは商用目的と考えられる。非商用研究である成果は論文として公開し、所有権は主張しないという研究とは異なるので、特に利益配分に注意が必要になる。
対象植物は中南米で主要な農作物と理解されるので、それを日本人が商用に利用することは、原産国としての国益を損なう可能性が考えられる。研究に用いる対象植物近縁種は食料・農業植物遺伝資源条約(ITPGR-FA)のクロップリストにはないと思われるので、ITPGR-FAの標準MTAを使うことができず、生物多様性条約のルールに従いMATを結ぶことが必要になる。
研究目的の種子はアメリカ原産のみならず、その他の原産国も含まれているので、まず入手先や権利関係の詳細情報をアメリカ農務省(USDA)の保存所から入手できるかがカギとなる。作物の種子は大変複雑で、権利関係があいまいなままで取引が行われている。アメリカ農務省(USDA)の保存所から入手し た出所情報により対応が異なる。
米国は生物多様性条約も ITPGR-FAも批准していない。したがって、米国原産と証明された種子に関しては、生物多様性条約上のPIC手続きは必要ない。おそらく、アメリカ農務省(USDA)の保存所と素材移転契約を交わせばよいと 考える。
入手したい素材は米国以外の原産国であり、米国が単なる生息域外の保存機関である場合は問題である。中心課題は、アメリカ農務省(USDA)の保存所が生息域外保存機関として原産国との間にPICとMAT両方ある場合と、単にMATのみある場合で大きく対応が異なります。
まずPIC がある場合、大抵MATが結ばれているはずなので、原産国とアメリカ農務省(USDA)の保存所の間の契約に従って、アメリカ農務省(USDA)の 保存所と第三者である研究者のMTAを結ぶことになる。オリジナルのMATに商用開発条項がない場合は、改めて原産国とMATを結ばなくてはならない。原産国のPICのコピーを入手することも重要である。
もし原産国のPICがなく、MATのみの場合や商用研究の場合、原産国と研究機関が PICとMATを改めて結ぶことになる。
すでに入手している種子を利用する場合の手続きはどうなるか。
米国のアメリカ農務省(USDA)の保存所からすでに入手されている場合、まず商用研究を実施する前に、PICとMATの手続きが確実になされていることを書類等で確認することが必須である。この手続きが不明確な場合は、研究開始前に改めて原産国と交渉し、PICとMATを入手することが求められる。研究途中、原産国の指摘で研究中止になるのは避けたい事態である。
名古屋議定書の発効(2014年10月)以前と以後で手続き上の違いはあるか。
名古屋議定書が発効(10月12日)すれば、上記手続が必須となるため、慎重 に対応することが必要となる。少なくとも PIC と MAT 書類を確実にそろえて おくことが重要である。特に商用研究の場合、商用で農家の方が新品種を日本で栽培、販売し始めると、原産国からの輸入が止まる事態になり、原産国の経済に影響を与える可能性がある。その場合、利益配分問題が起こるかもしれない。
これらの問題の中心は、原産国との利益配分です。特に、メキシコやぺルーは大変この問題に強硬な態度を示しています。中南米の種子を商用目的に利用する場合よほどしっかりとした契約をしておかなければなにをいわれるかわからない。おすすめするのは、あらゆる利益配分の可能性を志向することである。
研修生の受け入れなどはよい例である。
どこの国の原産か不明な場合の対応はどうなるか。
原産国が不明な場合はできるだけ使わないほうがよい。名古屋議定書では第10条にPIC入手ができない場合の規定があるが、まだまだ具体的な方法について議論が熟していません。
どうしても使いたい場合、まず、原産国を特定する努力が必要である。作物の場合は困難が予想される。どうしても無理な場合、特定が無理であるという努力の証拠を示さなければ、国際社会は納得しないと思われる。このような面倒なことをするくらいなら、使わないのが得策と思われる。あるいは代替となる作物を探すのが良いと思われる。
原産国が特定された場合、どこから入手したかに係わらず、改めて原産国とPICとMATの手続きを行うことになる。この場合、原産国から入手するのと何ら変わらないことにある。